現在位置:asahi.com>天声人語 天声人語2007年10月19日(金曜日)付
名探偵「ブラウン神父」のシリーズは、推理小説の世界で人気がある。その一編に、「賢い人は木の葉をどこへ隠す?」「森の中に」という問答がある。なるほど、同じものの中に紛れ込んでしまえば、誰の目にも分かりにくい▼同じタンクに入った油は、葉っぱどころではない。識別不能だ。インド洋で、自衛隊が米艦船に供給した油は、何に使われたのか。「賢さ」ゆえではあるまいが、米軍の膨大な燃料消費に紛れて、多くが「使途不明油」になっている▼自衛隊の給油は、アフガニスタンでの「不朽の自由作戦」に限られている。それがイラクでの作戦にも使われたふしがある。イラクに巡航ミサイルを撃ち込んだ米艦にも給油していた。ほかにも、目的以外に転用された疑いが、つきまとって消えない▼その給油を継続するための法案を、政府が国会に提出した。国際的な対テロ行動への協力は必要だろう。とはいえ、不透明さに不信を抱く国民は少なくない。補給艦の航泊日誌が破棄されていたことも分かり、輪をかけている▼イラクでは多くの市民が空爆などの犠牲になった。中には、日本の「油」が間接的に死に追いやった人がいたかもしれない。そんな心配さえ、荒唐無稽(こうとうむけい)とは思えなくなってくる▼無料の「日の丸ガソリンスタンド」だけが貢献か、といぶかる声も聞く。テロ封じ込めは大切だが、貧困など、テロの温床を消す漢方薬的な協力も軽くはないはずだ。テロリストという葉っぱを引きちぎっても、根っこを残せば森は枯れないのだから。 PR情報 |
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