たらいまわし
以前、妊婦が救急搬送される際に病院に受け入れを次々と断られ、「たらいまわしにされた」という新聞記事があった。また、昔、中元や歳暮で、もらった品物を順送りにまわすことを「たらいまわしにする」と言った。このように、人や物事を順送りにするのが「たらいまわし」。これらの例からもわかるように、よくない意味で使われる。
ところで、今の若い人たちに「たらいまわし」と言ってもピンとこないようだ。まず、「たらい」が通じない。「たらい」は、元は水や湯を入れて顔や手足を洗うための平たい容器。後には洗濯に使われる、やや大きな容器をさすようになった。語源は「手あらい」から変化したとされる。
一方、「たらいまわし」の方は、あおむけに寝て、足でたらいをまわす曲芸。たらいを次々と受け渡すようなこともしたことから、順にまわしていく意が生まれた。
昨今、大臣が次々と代わる事態になって、「大臣のいすがたらいまわしにされている」などと言われる。大臣のいすも、要するに、たらい程度の重みということなのだろう。
武庫川女子大言語文化研究所長・佐竹秀雄
(2007年10月18日 読売新聞)