猛スピードで毎日が流れ、インターネットで大量の情報がはんらんする現代。世の荒波にのまれそうな時、少し立ち止まり、人生を思索することは大切です。そうした心のよすがとなる記事を、静かに何度も読み返せるのは、新聞の魅力にほかなりません。
そんな報道にかかわれるのは、記者の喜びです。今月六日、好機に恵まれました。叙情性豊かな歌境を開いた歌人、若山牧水(一八八五―一九二八年)。その歌碑が誕生の舞台、新見市哲西町で除幕されたのです。
「けふもまたこころの鉦(かね)をうち鳴しうち鳴しつつあくがれて行く」。この歌が生まれたのは一九〇七年。二十二歳の早稲田大生、牧水が宮崎への帰省を兼ね、六月から七月にかけて中国地方を旅した時のことでした。
恋心を胸に、新見市街から広島県境の二本松峠(同市哲西町大竹)に差し掛かったところで日も暮れ茶屋・熊谷屋に宿泊。そこで二首を詠んでから百年を迎え、地元住民らによる歌碑建立委員会が記念碑を現地の牧水二本松公園に建てたわけです。
もう一首は代表作「幾山河越えさり行かば寂しさのはてなむ国ぞけふも旅ゆく」。この歌碑は一九六四年に建立され、後に加えた喜志子夫人、長男旅人氏の歌碑とともに公園を彩っています。
牧水終えんの地・静岡県沼津市の若山牧水記念館長で孫の榎本篁子(むらこ)さん(67)が「歌人牧水にとって特別な場所」と言う二本松峠。名歌を生んだ自然豊かな郷土を誇りにし、「こころの鉦」を鳴らす人々にこれからも光を当てたい。
(新見支局・大立貴巳)