政府は十一月一日で期限が切れるテロ対策特別措置法に代わって、インド洋で海上自衛隊の給油活動を継続させるための新法案を臨時閣議で決定、国会に提出した。
自民、公明両党は今月初め、民主など野党四党に新法案の骨子を提示し政策協議を呼びかけたが「国会の公の場で法案を論議すべきだ」と拒否された経緯がある。やっと公の場に出てきたが民主党は反対姿勢を堅持、国会会期の延長問題も絡むなど不透明な要素が多い。与野党は対テロ六年の過去を冷静に振り返りながら国民に分かりやすい議論を展開してもらいたい。
新法案は第一条の「目的」で海上阻止活動などへの謝意を盛り込んだ国連安保理決議一七七六に触れ「テロ防止と根絶のための国際社会の取り組みに引き続き積極的かつ主体的に寄与」と明記した。民主党の小沢一郎代表が国連決議を経ていないと批判したのに応えたのだろう。
現行法の「遭難した戦闘参加者の捜索、救助」や「被災民への食糧、衣料、医薬品の輸送」などの活動内容は除かれ、海自の活動を海上阻止活動に従事する米軍などへの給油、給水に限定した。派遣期間も一年とし、テロ特措法に盛り込んでいる国会の事後承認規定は削除した。
しかし、国会承認の削除は問題だ。政府は「法の成立自体が国会承認の代わりになる」と説明するが、参院で過半数を占める野党の反対で派遣できなくなる事態を避ける狙いが見え隠れする。国会無視と野党が反発するのも無理からぬ。提供燃料が何に使われたかも分からない。政府は文民統制(シビリアンコントロール)の重要性をどう認識しているのか、野党は厳しく問いたださなければならない。
民主党は現行法延長も新法も反対、もっぱら米艦船によるイラク戦争への燃料転用疑惑の解明に力を入れてきた。重要なことだが参院第一党としては物足りない。テロ対策への日本の貢献をどう考え行動するかが問われている。
小沢代表は五日付党機関紙で憲法が禁じる海外での武力行使につながりかねないアフガニスタン本土での国際治安支援部隊(ISAF)への参加を提唱、波紋を呼んだ。ところが十六日の党内議論では「紛争の元はほとんどが貧困だ」と民生支援を中心にする考えを示した。どちらに重点を置こうとしているのか。
共同通信社の九月末調査では給油活動は「延長すべき」49・6%、「すべきでない」39・5%と世論は揺らぐ。衆院解散も遠からず来る。対案を示し民主党の意見を分かりやすくすべきだ。
暴力団などによる銃犯罪に対して、従来より刑期を重くして新たに多額の罰金を科すなど厳罰化する銃刀法改正案が閣議決定された。
暴力団などに経済的打撃を与えることで、拳銃を使った凶悪犯罪を抑止する効果を狙ったものだ。住民の安全、安心を守るためにも厳罰化は当然だろう。政府は臨時国会での成立を目指す。
法改正の背景となったのは、住吉会と山口組の抗争に伴う東京都内の連続発砲、福岡市の道仁会会長射殺事件など今年に入り続発した銃犯罪だった。組同士の縄張り争いのケースが多く、組織的または資金獲得のために拳銃を使用したり所持した場合の罰則強化が求められていた。
改正案では、組織的・不正権益目的発射罪と同所持罪が新設された。通常の発射罪は「無期または三年以上の懲役」だが、組織的・不正権益目的の場合は「無期または五年以上の懲役」に加え「三千万円以下の罰金」を科す。拳銃所持罪も、組織的・不正権益目的の場合は通常の「一年以上十年以下の懲役」から「一年以上十五年以下の懲役、五百万円以下の罰金」に引き上げられる。
厳罰化によって暴力団は検挙逃れのために巧妙な隠ぺい策を図る恐れもある。情報提供など民間の協力も欠かせまい。法案作成過程で、警察庁は銃器犯罪を起こした個人だけでなく、組織の代表者を罰金刑の対象とすることも検討したが、見送られた。
暴力団員らの銃器犯罪に際しては、警察が徹底した捜査で指示系統を解明し組織上層部を摘発することが求められる。今後も組織自体の責任を問う法制の検討を続け、犯罪の封じ込めに全力を挙げる必要があろう。
(2007年10月18日掲載)