(続き) 弁護人の意見書への反論だったかどうか釈然としない検事の言い分に、 「故意成立の主観的要件として相手を畏怖させる意思が必要と弁護人は主張しているが、解釈上、そうした主張は「しっこう」であり、被告人には畏怖させる意思があったことは明白であるから、この点を論じる意味はあまりない」 と云うくだりがあった。 意味が不明瞭なのは検事のこの主張のほうだろう。相手を畏怖させようとする主観的な意思が必要でないという解釈なのだろうか? 万が一、そうであれば、被告人に仮にその意思があったとしても、それこそ「意味がない」のではないか? 学生がゼミで発言してる訳ではないのだから「解釈」てのは控えて貰えないのか。 それとも裁判というのは、法律そのものに対する解釈で争われるような場所なのだろうか。 こういう部分は正直分かり難い部分だった。 さて検事の論告はいよいよ弁護人の意見書への反論へと進んでゆく。トンでもない事態とは何かと云えば、要するに公判が、裁判官による、検事の「論告」の添削会場になってしまったのだ。 裁判官が検事に論告の書き直しを指導するのは、あくまでも公判の進行を管理監督するためなのだと思う。事実、次の公判が間断なく控えている。計画通り公判を進めてゆくのは裁判官の役割でもあるのだろう。でも公判の場で書き直しを指導されるというのは、ごく普通のことなのだろうか。 法務省管轄にある検察庁には、検察官が公判で冒頭陳述や論告などを発表する前に、経験豊富な他の検察官によって、若手の検事が作成した「作文」をチェックする仕組みを、組織内部に整備されたほうが良いのではないか。行政機関として、制度上の不備があるのではないか。 以上は前書き。ここからが具体的なやり取りである。 検察官 「マル四の書込みについて、弁護人は被害者の犯罪疑惑を言論で追及する主観的な意見だとするが、これ以前に『文化センタを血で染め上げる』『教室の灯油をまく』『火をつける』『文化センタ血の海になりますよ』等と書き込んだ後のことでありますから、言論でというのは詭弁で・・・」 弁護人 「異議っ、今の引用ですが、そういう内容の書込みをした事実はありません、証拠に基づかないので削除してください」 裁判官 「どの部分ですか」 弁護人 「括弧書きの部分です、こうした書込みはありません」 検察官 「ありますよ」 弁護人 「ありません、虚偽です。何処にありますか、示してください」 裁判官 「えーっと・・公訴事実を引用したものではないんですか?」 弁護人 「違います、全くの検察官の*作文*です」 裁判官 「部分的な要約では?」 弁護人 「いえ要約ではありません、あくまでも一部分を取り上げた*作文*です」 裁判官 「一部分を取り上げてますが、この部分の要約であることは間違いないのでは」 弁護人 「一部分を取り上げて、恰もそういう書込みがあったかのようになされています」 ここで裁判官と弁護人が一つ一つの書込み文言について検証していたところ、検察官が次のように訂正を申し出た。 検察官 「『〜等と書き込んだ』としたところを『旨と書き込んだ』に直しましょうか」 裁判官 「う〜〜ん・・・」 弁護人 「ならば括弧でくくるのはやめるべきです、いかにも引用のように見えます」 裁判官 「なるほど、そうすると、この部分は括弧を取り、『〜旨、書き込んだ』と」 弁護人 「そうであれば、検察官の主観的な解釈となりますから」 裁判官 「検察官の主張ということで」 弁護人 「はい」 裁判官 「それでは、そのような訂正をした上で・・・」 検察官 「では続けます、マル五の書込みが「アイロニー」であるという主張は・・・(略)・・いかにも苦しい後付の弁解であります、なお勾留中の被疑事実5の書込みが・・・」 弁護人 「異議ありっ、これも全くのウソです。拘留上の被疑事実には、このマル五の書き込みは入っておりません」 検察官 「・・・意味不明です」 裁判官 「まだちょっと先になりますけど・・書込みは含まれておらず、検察官があえて追加したと弁護人は主張されるのですか」 弁護人 「はい」 裁判官 「これは、そういう経過だったのではないですか」 弁護人 「被疑事実を読み間違えているための誤解であるという、この部分を削除してください」 裁判官 「ここは、えと、つまり・・・、検察官も公訴事実を前提として弁護人の主張を誤解であると・・・」 弁護人 「勾留状をみてください、入ってないです」 裁判官 「確かに拘留中の被疑事実に入っていないですね・・・、検察官も勾留状の被疑事実に入ってないことは前提しての意見・・・」 検察官 「・・・・入ってますよ(ぼそ)」 弁護人 「入ってないですよ、何処に入ってますか、示してください」 裁判官 「まあ、あんまり時間も・・・。いずれにしても、ここのところは弁護人の最終弁論で反論されては?」 弁護人 「いや誤解であるなどと云われては、この場で反論するしかないです。 (検察官にむかって)あなたの方が間違ってます」 その後、検察官の作文は情状関係に進んだ。 検察官 「親の名義で高級車を購入し、その支払を滞らせるなど無計画に・・・」 弁護人 「ここも異議あり、支払いはきちんと済ませています。削除してください」 裁判官 「〜購入し、としてください」 検察官 「〜購入し、無計画に・・] 弁護人 「無計画にも削除してください」 裁判官 「それは検察官の評価では」 検察官 「(薄く笑いを浮かべ)〜無計画で自堕落な生活をしていた被告人が、自業自得ながら定職に就けない・・」 弁護人 「これも異議あり、定職に就けないなんてない、ちゃんと定職についてましたよ、年が明ければ、より条件のよい転職先も決まっていたじゃありませんか、まったくのウソです、話にならない」 この後、検察官はZAKZAKに登場した「弁護士」並みの発言をする。「具体的な殺人、放火の犯行予告」とまで言い切った。続いて、 検察官 「このような書込みにより、被害者に恐怖心を生じさせるにとどまらず・・・」 弁護人 「はい、異議・・、はいっ異議あります、池内ひろ美は恐怖心を生じたという書証はありません」 裁判官 「そこのところは先ほどの文化センタにメイルをしていた、そのところから推認されるという証拠構造になっているかと思います」 弁護人 「そうであれば明記してください」 検察官 「従ってこのような被害者、関係者が被告人に対し厳しい処罰感情を持ったとしても・・」 弁護人 「はい、ここも異議あり、被害者による厳しい処罰意見というのはありません、削除してください」 裁判官 「ここは、えー・・、つまり、関係者ということであり・・・」 弁護人 「被害者とあるのは何ですか」 裁判官 「被害者とあるのは削除してください」 検察官 「犯罪事実の証明に使えないだけではないのですか、情状関係の意見陳述として使うことは・・・」 弁護人 「ほう。あれは立証ですか? 証拠ですか?」 裁判官 「あの・・そこのところを、あの・・」 弁護人 「証拠だというのなら池内ひろ美を証人請求しますよ」 裁判官 「そういうことになりますから、被害者を削除し、関係者とだけにしてください」 検察官 「・・・はい、・・はい」 一応、検察官は被害者の語句を削除することに同意し、その後、 検察官 「また保釈になったあとにも被告人は2ちゃんねるの被害者を誹謗中傷する内容のスレッドに書込みを続け・・・」 弁護人 「またここも異議あり、あのスレッドはね、被害者を中傷する書込みだけでないですよ、擁護する書込みもあり、様々な書込みがあるんです、(検察官に向かい)あんた読んだら分かってるでしょ、」 裁判官 「いまの弁護側の発言を確認しますと、誹謗中傷する内容もあるんですか」 弁護人 「誹謗中傷だけでないです、色んな意見があるわけです、裁判官もお読み頂いて分かってらっしゃると思いますけど。 裁判官 「被害者を誹謗中傷するなどのスレッド・・ではどうですか」 弁護人 「・・など? 等ではないです、擁護する人間だっていっぱいいるじゃないですか、本人だって書き込んでいるかもしれないし」 裁判官 「ここはスレッドの属性というか・・・」 弁護人 「だから証拠に基づいてないじゃないですか、明らかに違ってますよ」 裁判官 「では誹謗中傷を含むスレッドということで、含まれていることは弁護人も認めるんですよね」 弁護人 「はい」 検察官はこの後、面白い断定を述べる。 「インターネットはその情報の不正確にも関わらず、それを信じるものへの伝播をモタラス特長があります」 不正確な情報を鵜呑みにしてるのは誰だろうか・・・、脱力感を覚えてしまった。 検察官 「そのため被告人の記載した全く根拠のない被害者に対する書込みを真にうけ・・」 弁護人 「これも異議あります、根拠は充分あるじゃないですか、充分立証したでしょ、何を読んでいるんですか、あなたも同意したでしょ」 裁判官 「ここのところは検察官の評価ですから・・・」 弁護人 「(検事に向かって)あなたは何を根拠のないことを云うんですか」 裁判官 「ここは評価ですから、このままで・・」 検察官 「特に被告人には同様に被害者に誹謗中傷を繰り返す付和雷同者が多数おり、中でも青木裕一は・・・」 私 「???」 検察官 「自らブログを作りインターネット上において被害者への誹謗中傷を煽っている」 弁護人 「これも異議ありますね、いつ青木さんが誹謗中傷を煽ってますか? あのブログのどこが煽っててるんですか、ちゃんと証拠に関連つけて立証してくださいよ、それに青木さんのブログは証拠にも出てないですね、ちょっとナンですか、これ。ふざけてますね」 裁判官 「被告人の情状としては直接関連性は薄いと思います、付和雷同者が多数いるというところで留めておくべきだと思います」 検察官 「また執行猶予付きの判決の場合、被告人及び青木裕一らが恰も無罪放免であるかのように吹聴し・・・」 私 「・・・絶句・・」 弁護人 「はい、異議あります、これも全くの、証拠に基づかない弁論ですね、なんですか、こりゃあんた・・・、どういう根拠で云ってるんですか? 説明しなさいよ、どういう根拠に基づいてこいう論告してるんですか・・・。 裁判官 「・・・まあ、ここのところは・・」 弁護人 「恥を知りなさい、恥を」 裁判官 「ここのところは判決がおりたあとの、検察官の推測・・」 弁護人 「いや、これは誹謗ですよっ!」 裁判官 「いや最後まで聞いてください、検察官の推測ですが、誰がこのような反応を示すかという現段階での根拠はないです、従って、こういう観点の場合、あたかも無罪判決と同様のような評価がなされる、なされる可能性がある、そういう表現にしておいてください」 とうとう裁判官は検察の観点にたって、論告の書き方を指導してしまったように見えた。 検察官 「あたかも無罪判決のような・・・ 裁判官 「無罪判決と同様のような・・・ 検察官 「・・・同様のような・・・ 裁判官 「評価がなされる・・・ 検察官 「評価がなされる・・・ 裁判官 「可能性がある」 検察官 「可能性がある」 裁判官 「はい」 証拠に対し客観的で正当な評価能力のない検察官に論告の書き方を指導してるような印象を持ったのは、私だけでないのではないか。 論告で私が引き合いにだされるとは正直「予想外」だった。情状証人としての証言を無力化するつもりだったのだとしても逆効果でしかあるまいに。 検察の論告で、ZAKZAK並みのお話が聞けるとは思いもしなかった。検察庁には論告や冒頭陳述書についての内部審査の仕組みが必要となっている、そう思わざるを得ない出来事だった。 ------------------------------------------------------------------------ Sat, 6 Oct 2007 02:41:02 +0900 (JST) ------------------------------------------------------------------------ |
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HNと同じになってしまいますが、お疲れ様でした。 |
お疲れ様です。 2007/10/09 19:31 |
お疲れ様でした。 |
SQUID 2007/10/10 00:42 |
傍聴記ご苦労さまでした。裁判というものが少し理解できたように思います。人間の一生を左右するかもしれない、判決がどのようにして決定していくのか、きちんと見届けたいと思います。私は裁判員制度の導入に関しても賛成とも反対ともいえないのですが、関心は持っていたいと思います。裁判というものに対して、立派な人格の持ち主たちが厳正に審査をしていく手続きをイメージしていたのですが、現実はそういうものでもないようですね。 |
裁判というものが少しわかったような 2007/10/10 18:34 |
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