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ファンがついたLet'snoteが得たもの、失ったもの




 ファンレスでがんばってきたLet'snoteだが、この秋冬モデルで、ついに冷却用のファンを搭載した。これで魅力の1つが無くなったと嘆くファンも少なくないようだ。でも、得たものも大きい。大阪・守口市のパナソニックITプロダクツ事業部を訪ね、設計、企画関係者の話も聞いてきた。実機のインプレッションとあわせて紹介しよう。

●Santa Rosaに移行した新Let'snote

 Let'snoteには、14.1型ディスプレイのYシリーズ、12.1型ディスプレイのTシリーズとWシリーズ、そして10.4型ディスプレイのRシリーズの計4製品があるが、ぼくが愛用しているのはRシリーズだ。このサイズは、電車の中で使うにも手頃だし、ちょっと工夫すれば、立ったままでも操作できる。直近では、2005年5月に発売されたR4(Sonoma)を、2年間弱使い、2007年の春に発売されたR6(Napa Refresh)に乗り換えた。Windows Vistaを搭載した最初の代である。

 そして、この秋、Let'snoteは先行していたYに続き、T、W、Rともに、Santa Rosaプラットフォームに移行、それぞれ「7」シリーズとして新機種がラインアップされた。また、R7シリーズには、直販サイト「マイレッツ倶楽部」専用の“プレミアムエディション”が用意される。スペックについては、パナソニックのWebサイトを参照してほしいが、マット仕様のジェットブラック天板を持つ精悍なイメージのモデルだ。

 今回は、いわゆるこの「黒Let's」を10日間、試用することができた。量産機と完全に同じではないが、ほぼ同等ということだ。また、現行で使っているR6と条件を近づけるために、1GBのメモリを増設し、アプリケーションなども含めてほとんど同じ環境を作って評価してみた。

 第一印象としては、やはり速い。これは実にうらやましい。また、スリープからの復帰も高速だ。R6では、スリープ状態からディスプレイを開いて、画面にWindowsのロック解除画面が表示されるまでに約5秒かかり、すぐにパスワードを入力すると、最初の数文字を取りこぼすこともあったのだが、R7は約3秒で復帰し、入力をこぼすこともない。ディスプレイを開いてサッと使い、使い終わったらディスプレイを閉じてカバンに放り込むという、手帳のように使うサブノートにおいて、このレスポンスはとても重要だ。動画を日常的にエンコードするような使い方はしないにせよ、モバイルノートとはいえ、パフォーマンスはあった方がいいに決まっている。ちなみに、スリープからの復帰に要する時間は、SonomaのR4よりR6の方が長かった。R7では、それがR4相当に戻ったという印象だ。

 さらに、4Mbps程度のMPEGファイルをWinDVDで再生しながら、iTunesも起動し、Adobe Photoshop Lightroomでデジタル一眼レフカメラのRAWファイルをブラウズするといった無茶なことをやっても、それなりについてくる。ストレスらしいストレスは感じない。R6で同じことをやるとイライラさせられるのだ。メモリの量は同じにしてあるので、プロセッサのクロックが上がったこともあるだろうが、やはり、黒Let's搭載のTurbo Memory 1GBによるWindows Ready Driveが効いているのだろう。ユーティリティによって、Ready DriveとReady Boostのどちらか、あるいは両方を有効にできるが、メインメモリが潤沢にあって、大量のファイルを扱うような場合にはReady DriveだけをONにして使うのがよさそうだ。実際、デフォルト設定も、そのようになっている。パナソニックとしては、Turbo Memoryがコストに見合った効果をあげないと判断し、通常シリーズへの搭載を見送ったようだが、決してそのようなことはないように感じた。

 速くなったといえば、SDHCメモリカードスロットの転送速度が驚くほど高速になっている。スペック表を見ても、どこにも明記されていないが、設計担当者に尋ねると、約15Mbps出るようになったとのことで、R6シリーズのほぼ倍の値なのだそうだ。また、メモリがデュアルチャネルになったことや、250GB HDDの記録密度の高さによる高速化などが、いろいろな面での体感速度向上に貢献しているのだろうと、パナソニックサイドでは言っている。

●冷却ファンの功罪

 もっとも気になるのは、やはり、新たに搭載された冷却ファンが、どのくらいのノイズを発生するかだろう。実際には、屋外や電車内、昼間のオフィスで使っている限りはまったく気にならない。だが、静かな室内ではやはり気になる。今回の評価期間中、ビジネスホテルに3泊したが、安宿の狭いシングルルームで、起動した状態の黒Let'sを、ベッドからさほど距離もない壁際のデスクに置いて寝るようなことをすると、やはりファンの音がそれなりに気になる。ホテルの部屋には、冷蔵庫があって、これまたけっこううるさいのだが、その低い音よりも、ちょっと甲高いファンの風切り音が聞こえる。インターネットには接続したままで、稼働しているアプリケーションといえば、メールチェックを続けているOutlookくらいのものだが、ファンが完全に停止することはないようだ。

 添付のファン制御ユーティリティには、高速、低速、負荷に応じてコントロールする標準という3種類のモードが用意されているが、完全にファンを停止することはできない。気になったのは、本体後部の吹き出し口が、ディスプレイを開いたときに、その底部でふさがれる形になり、冷却性能に影響を与えそうな点だが、それに関しては気にしなくてもいいというコメントだった。パナソニックの言い分では、ファンが小さいので、どうしても高い音がして気になるかもしれないが、チップセットの温度が上がったことなど、さまざまな要因で、ファンレスはもう無理と判断したそうだ。ヒートシンクは、以前よりも大きくしたそうだが、チップセットそのもののサイズが大きくなってしまったことなどで、基板上での実装面積が足りなくなるなど、R6世代の筐体のままでのSanta Rosa移行は、予想以上にたいへんだったという。なお、量産機では、パーツの選別などでもう少し静かになるはずだという。

 パナソニックによるファン回転速度のきめこまかな制御と、IntelによるDynamic Power Porformance Management Technologyによるメモリやプロセッサクロックの制御技術の合わせ技は、“パナソニック・ハイブリッドクーリングシステム”と名付けられ、それによって、ベンチマークテストの結果で約40%のパフォーマンス向上を果たしたというふれこみだ。体感的に40%というのは、にわかには信じがたいが、ファンがついたことは、体感速度の向上に大きく貢献しているし、R6世代のように、筐体がさわれなくなるほど熱くなるということもなくなった。

 Rシリーズは、これまで、小さいというだけで、いろいろなガマンを強いられてきたといえる。他シリーズに対してコンパクトなボディは、放熱にも不利で、スペック通りの最大パフォーマンスで稼働する時間は、ほとんどなかったのかもしれない。実際、R6とほぼ同じスペックのNEC「LaVie J」と比べてみても、処理性能には見劣りを感じていた。だが、ファンがついたことで、こうした足かせが取り払われ、基本的に、W/Tシリーズと比べても、処理性能的に劣ることがなくなったという。スペックが同等なのに、Rだけ遅いというハンディがなくなり、純粋にスペック通りの性能が得られるようになったということだ。

●プラットフォームで考えるノートPCの買い換えタイミング

 処理性能との背反関係にあるのがバッテリでの駆動時間だ。バッテリは色こそジェットブラックだが、R6と同じものが使われている。R6では、1時間使うと15%バッテリを消費するという印象だったが、黒Let'sは20%を消費するようだ。JEITAバッテリー動作時間測定法(Ver.1.0)による公称バッテリ駆動時間は7時間だが、ぼくの日常的な使い方で、20段階あるディスプレイ輝度を下から7番目に設定し、無線LANはONのまま、イー・モバイルの通信アダプタをつけっぱなし、Bluetoothアダプタもつけっぱなしというような状態で、ビデオを見たり、文書を書いたり、ブラウザでWebを見たりといった使い方をした場合、4時間は余裕で大丈夫だが、5時間は持たない。

 また、無線LANはIntel Wireless WiFi Link 4965AGNを搭載しているが、パナソニックとしては時期尚早とのことでIEEE 802.11nには未対応だ。筐体内にアンテナスペースは確保されているが、アンテナそのものは未実装だという。なお、ようやくGigabit Ethernetに対応したことは歓迎したい。本当は指紋認証やBluetoothの搭載も期待したのだが、パナソニックとしては、そのつもりはまったくないようだ。海外モデルのTやWシリーズでは、Bluetoothが搭載されているだけに残念だ。さらに、SSDの搭載なども、価格が高くなりすぎることから見送られたという。

 次にLet'snoteが大きく変わるのは、モバイルPenryn搭載のタイミングだろうか。いわゆるSanta Rosa Refreshへの移行だが、来年の秋に間に合うかどうか。次の世代のMontevinaは遠い未来の話である。そういう意味では、この世代のLet'snoteは、けっこう陳腐化しにくいかもしれない。

□パナソニックのホームページ
http://panasonic.jp/
□Let'snoteの製品情報
http://panasonic.jp/pc/
□関連記事
【9月27日】Let'snote全シリーズで同じタフさを実現
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0927/pana2.htm
【9月27日】パナソニック、「Let'snote」全モデルでSanta Rosa搭載
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0927/pana1.htm
【2006年4月26日】【山田】Let'snote Y5開発者インタビュー
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0426/config.htm

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(2007年10月19日)

[Reported by 山田祥平]


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