◇解消に権限の壁
「糖尿病が、心配で、来ました」。集会所に並べられた机越しに、愛知県岩倉市の食品加工工場で働く日系2世の女性(44)が、ボランティアの女性にたどたどしい日本語で話し始めた。
今月14日、外国人が多い名古屋市港区の九番団地で開かれた外国人向けの医療相談会。検尿、問診、歯科、内科と診察内容は充実している。無保険で病院に行かないという女性は「何も病気、なかったです」とほっとした表情で帰っていった。
主催したのは98年設立のNPO法人「外国人医療センター」(名古屋市)。月1回の相談会は今回で116回を数え、この日も約10人が訪れた。無保険の外国人には病院の紹介も行うが、数年前に愛知県の救急医療情報システムに登録した病院に「無保険の外国人を受け入れるか」と意向調査したところ、3割程度が拒否したという。事務局長の藤田紀見さん(39)は「言葉の問題があるが、無保険の患者でよくない経験をした病院も多いみたいです」と話す。
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「(日本にいる)ブラジル人は現金収入を重視する。リスクがあっても保険料を払いたくないんですよ」と語るのは、求人サイト「JWORK」を運営する同県一宮市のNPO法人のメンバー、田中エドアルドさん(43)だ。
JWORKはポルトガル語など4カ国語対応の無料サイトで、1日800~1000件のアクセスがある。求人の大半は、工場での部品製造や食品加工で、時給は900~1400円ほど。だが待遇の欄に保険や年金の記載は少ない。田中さんは「『Shakai Hoken』って書くと、応募が少ないんですよ」と苦笑いする。
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逆に、外国人労働者が、保険料負担を嫌う会社から保険加入を断られるケースも多い。1万9435人(9月28日現在)のブラジル人が住む浜松市。「会社が保険に入れてくれない」と国民健康保険加入を求める人が後を絶たず、人道的措置としてこれを認めている。
しかし、対応は誤解も生んでいる。「社保と国保、どちらが有利?」。JWORKの姉妹サイトの掲示板にこんな書き込みがあった。多くのブラジル人は「サラリーマンでも国保に入れる」と思っているのだ。
こうした事態を避けるため、同県豊橋市は国保加入を求める外国人労働者に、健保未加入の理由記載と署名を会社に求める「理由書」を渡す。静岡県湖西市や三重県鈴鹿市も同様だ。社保加入の原則を会社、労働者双方に伝えるためだ。
だがこの取り組みにも限界があり、いずれの自治体も会社が拒否すれば「無保険は放置できない」として国保加入を認めている。会社を指導するのは社会保険庁の権限で、自治体の理由書記載に強制力はない。
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浜松市では06年度、ブラジル人の国保の保険料未納率が46・57%(前年度比10・72%増)に上った。年間1億8604万円(同5590万円増)の未納金は、保険事業会計を圧迫。病気の時だけ保険料を払ったり、いつの間にか帰国しているケースも多い。「制度上は『本人が入りたがらない』『会社が入れない』なんて通らない。勝手な解釈が多すぎますよ」。担当者は嘆いた。=つづく
毎日新聞 2007年10月18日 中部朝刊