個々のキャラクターが確立してきた
●日比谷野外音楽堂の2デイズですが、1日目の10月10日が『華麗なる復活劇』というテーマだったんですけど、この日は復活して2周年ということで、復活してからのテーマを再現したことになるんですよね。
Gackt(Vo):最近マリス・ミゼルを知った人達は知らないだろうし、昔から観に来てくれた人達も、もう一度観たいと思ってるシーンがあっただろうしね。
●でも、単なる再現じゃなくて、現在のマリス・ミゼルがそれをやったことで、また違ったものが表現できていると思ったのですが。
Gackt:オープニングも全然違うし、コスチュームもそのときのじゃないんですよ。
●それは、やってる本人としてはやっぱり違うものを表現しようとして?
Gackt:僕の場合はオープニングに合わせて衣装を持ってきたっていうのがあるし、Yu〜kiもオープニングに合わせて衣装を着てたし、あのオープニングにはあの衣装じゃないとダメだったんですよ。きっと、あのオープニングがなかったからまた違う衣装になってたよね。
Yu〜ki(B):うん、そうだね。10日に関して言えば、『Voyage』を出したころのオープニングの流れの再現じゃないけど、観せて聴かせたかったっていうのがあったか
ら、オープニングのSEから1曲目までの演出を含めて考えていくと、僕はバンパイヤだから必然的に燕尾(えんび)服とシルクハットとマントが必要になってくる。また、あのころやってた観せ方を完璧だと思ってないというか、あのころはそう思ってたかもしれないけど、どんどん自分達の中で、僕の中でも「もっとこうして観せたい」っていうのが、特にバンパイヤに関してはあったんだよね。エキストラもたくさん使うことができたんで、結構表現できたかな。
●2日目ですが、この日は夏のツアー『Pays
de
mer-veilles』のファイナル的なものというテーマですよね。だから、アンコールの前にビデオ『ヴェル・エール〜空白の
瞬間の中で〜de l'image(ドゥ
リマージュ)』の世界を一歩押し進めたというか、続編みたいなパフォーマンスがあったのですか。
Gackt:そうですね。ビデオの続きをやったという解釈よりも、夏から始まったツアーのコンセプト…「なぜManaがあの衣装を着て、Yu〜kiがあの衣装を着て、僕があの衣装を着ているのか」、それと同時に「なぜビデオはああいうふうな形になっていて、そこにどんなつながりがあるのか」っていう部分で、まだ分からない人達もいっぱいいると思うんですよ。あれって全然別物じゃなくて、全部1つのコンセプトに収まってるんですよ。だから、どこからどうつながっているのかってことを、もう少し突き進めたというか…アンコールの前にやったこと以外にもボンテージの服がありましたよね。ああいうところで一人ひとりの精神世界、それこそコンセプトの中での役というか、登場する人物の精神世界を表現したっていう。
●前回のインタビューのときに、ツアー前に掲げていた「観客と目線が同じところで今までとやってきたことができるか」「新しいテーマを実際ライブハウスでできるのか」というテーマを克服できそうかと質問したとき、Gacktさんの答えは「野音が終わるまで分からない」でしたよね。で、その野音が終わったわけですが、テーマは克服できましたか。
Gackt:もちろんそれがあったから野音ができたと思うんですよ。それに観に来られた方すべてがそう思ってるとは思ってないですけど、「マリス・ミゼルはセットがあるから、あんなライブができると思ってたけれども、そうじゃないことが分かった」って言われたんです。日比谷の野音って大したセットじゃなかったじゃないですか。その中でも明らかに渋公よりもスケール感っていうか、伝わってくるものやステージの中での存在感とかもすごく大きいって言われて、僕はすごくうれしかったし、そう感じてもらえる人が少なくともいるっていうことは、夏のツアーはすごく記念になったって思います。音的なことに関しても、小さなライブハウスっていうのは音の状態が悪いわけじゃないですか。
●会場によって全然音の響きが違いますからね。
Gackt:こんなことを言ったら失礼かもしれないけど、ポッと出のバンドっていますよね。作られてホールに立たされるバンドと、ライブハウスから経験してきて徐々に大きくなっていくバンドって、明らかに音の質が違うと思うんですよ。ライブハウスの、音が聴きとりにくい状態の中で耳が肥えていって、ほんとに大きなステージに立てると思うんです。でも、ポッと出の人が「じゃあホールでやってみて」って言われたところで、絶対できないと思うんですよね。そういうことはやっぱり考えてたし、もう1回それを見直さなきゃいけないって僕自身も思っていたし、そういうのが少しでも身になったんじゃないかなと思います。
●このツアーで得たものっていうのは、Gacktさんはそういう部分になるんですか。
Gackt:いや、すべて含めて大きいですよ。精神的にも、ボーカリストとしても、もちろんマリス・ミゼルとしても。個々のキャラクターっていうのが確立してきたし、それを実感としてつかめるっていうことは、すごくバンドにとって重要なことなんじゃないですかね。
●では、Manaさんがツアーで得たものは?
Mana(G):『Pay de
merveilles』というコンサートでの役が今までと違ってたわけですよ、僕は。今までは結
構、中世ヨーロッパの貴族みたいな、高貴なイメージでステージをやってたんですけど、今回の夏のツアーからは、高貴の中での少女的というか…。
Gackt:かわいらしさ(笑)。
Mana:そのかわいらしさというものを、今まではステージで表現することがなかったから、その主人公になりきるっていうのでステージングも全然今までと変えたし、違う自分を出せたんで僕は世界がすごく広がりました。ステージがすごい新鮮だったんですよね。今までは突き放してた感じのステージが多かったんですけど、今回スタンディングツアーということで、客席との距離とかも近いじゃないですか。だから、そこら辺を意識したステージングをしたわけですよ。コミュニケーションっていうか、場合によっては手を差しのべる的なステージングとかやって、かなり「観せる」ではなく「観てくれ」っていう感じでやってたんで、客席との一体感的なものもできたり、お客さんのパワーみたいなものを感じ取れて、いいきっかけになったかなと思ってます。
●Yu〜kiさんは?
Yu〜ki:今までツアーを回ってきて、ずっと同じPAや照明のスタッフと回れたっていうのは、今回が初めてなんですよ。「リズム隊としてこうした方がいいよ」とか、いろいろアドバイスをもらいつつやってきたし、リズム隊として、ベーシストとしての音に対する考え方を常に話し合いながらきたから、そこら辺がやっぱりプラスになったと思いますね。
10日スタジオに入って8日間ずっと煮詰まっていた
●今度はニューシングルのことを聞きたいと思います。2ndシングルとしてリリースされる「au
revoir」には、バージョン違いで同じ曲が収められていますよね。
Mana:「au
revoir」のイメージでこれからは全部行きたいんですよ。だから、僕は1曲しか入れたくなかったんです。でも、日本のレコード事情ではなかなかそうもいかないこともあって、それだったら同じ曲を2バージョン入れるっていう方向になったんです。でも、最初は僕が曲を持って来たわけですけど、そこにメンバー5人の意見が入っちゃうと、どんどん曲のイメージが膨らんで、この2つはいろんなパターンをやっていくうちに生まれたんですよ。
Gackt:ほんとに偶然…偶然って言うか、必然だったのかもしれないけど、2つに分かれて、2つともいい感じに。
Mana:だから、この曲はこうあるべきだと。それと5人のパワーを感じましたね。5人集まって感性がぶつかり合うと、ものすごいものが生まれるっていうのを実感しました。
●それがバンドですもんね。
Mana:そうなんですよね。ほんとバンドであるべき姿になってると思います、マリス・ミゼルって。
Gackt:実は10日間スタジオに入って、8日間ずっと煮詰まっていたんですよ。
●でも、1曲目の方にはバイオリンがメインで入っているじゃないですか。そういうアイデアや方向性って、Manaさんが曲を作ったときにあったんじゃないんですか。
Mana:作ったときのやつと完成されたやつとはイメージが違うんです。最初はもっとね、かわいさがあったんですよ。
Gackt:初めて聴いたときにすぐ浮かんだ歌詞があって、サビだったんですけどね。歌詞とメロディーが一緒にできちゃったんだけど、コードが違うわけですよ。
●じゃあ、そこからアレンジを煮詰めていった?
Gackt:アレンジを煮詰めてっていうか…僕、8日目で熱出してダウンしちゃって、1日倒れていたんですよ。その日にみんながやってできたって持って来たヤツが、めちゃめちゃ激しかったんです。聴いた瞬間に「違うだろう」みたいな(笑)。それで夜中3時ぐらいに一人ひとりのところに電話して、「マリス・ミゼルっていうのは〜」みたいな話をして、次の日にこのテイクができたという。
●そんなGacktさんの電話を受け取ったときはどうだったんですか。
Mana:もう、何がどうなのか分からなくなっていたんです(笑)。そのときはいいかなと思ったんですけど、よくよく考えてみるとですね、煮詰まりすぎてマリス・ミゼルのコンセプト的なものと違う方に行っちゃったんですよね。だから電話で話を聞いて、「マリス・ミゼルとは?」って考え直した結果、もう1回マリス・ミゼルのコンセプトに戻ろうってなった。そのコンセプトっていうのは、曲があったとして、曲を生かすためだったら、僕は一応ギタリストなんですけど、別にギターで表現しようと思ってないんですよ。その曲のイメージに合う楽器であれば何でもいいと思ってて、そこら辺をちょっと忘れていた。
Gackt:ヤケになって(笑)。
Mana:ちょっとヤケにもなってたっていうのがあるけど、ほんとギターで「ハモりまくってやろう」と思って、やりすぎて曲のイメージを壊しちゃったんですよ。それでGacktの電話でふと我に返って、今の形にたどり着いたわけなんです。
●Yu〜kiさんは、Gacktさんの電話を受け取ったときはどうだったんですか。
Yu〜ki:曲のイメージ的なところはやっぱり、自分もまだ感じ取ってなかったっていうか、その時点で弾いてたベースっていうのは、とりあえずコードを弾いてるようなベースだったから、Gacktの意見を素直に受け入れることができたというか…初めにフレンチさっていう大きなテーマがあったから、そこら辺は自分的にやっぱり考え込みすぎたところがあって、最終的に曲のイメージプラス自分のイメージや僕個人の色をミックスして、曲にためることができたらベストなんだろうっていう考えもあって、弾いた結果が今のパターンになったんです。
Mana:やっぱスタジオにカン詰めっていうのは良くないです。やけくそになります(笑)。曲ができたときに1日置いて、新たな気持ちで聴くと、僕も「あっ」というのに気付いたかもしれないけど、客観的に聴く時間がなかったんですよ。もう「できたからこれでいいだろう」みたいなノリになっちゃったんですよね、精神的に追い詰められて。
Yu〜ki:スタジオにメンバー5人詰め込んで、音を出す時間を増やせば出来上がると思いがちじゃないですか。実際、そういうバンドもあると思いますよ。でも、違いますからね、この5人って。直感的な部分というか、思ったものをポッと出した方がいいものができることって多いんですよ。そういったところで逆効果だったんだね、きっと。
●Gacktさんが熱を出してダウンしたことが良かったってことになりますね。
Gackt:運命だったんでしょう。
●では、最後の質問です。12月の東名阪で行われる『Vi-lle
de merveilles
透明の螺旋』と題されたショートツアーは、どんなものになりそうですか。
Mana:1つ気がかりなのは…気がかりっていうか、東京が野音よりキャパが狭くなったんですよ。日比谷野音が3000人の2デイズだったじゃないですか。それが2000人の2デイズになったんですよ。観に来る人の数はすごく増えているのに、いろいろ事情があって、しょうがないといえばしょうがないんですけど。
Gackt:だから、一般の人はチケットを手に入れられないと思いますよ。多分ファンクラブだけで完売するんじゃないかな。
Mana:いろんな人達に見てほしいっていうのがすごくあるから、その辺がちょっとネックなんですよ。ファンクラブの方でも返金するような状況なんで。
Yu〜ki:マジ?
Mana:うん。ファンクラブでも取れないような状況になってきてる。だからこういうふうに取材で、次のライブはすごいよって言って、観たいと思った人がいっぱいいても、コンサートに来れないわけじゃないですか。そんな手紙が来るんです。
Gackt:とても悲しいんです、それを見て。
●じゃあ、ツアーについては何も言えないですね。
Gackt:観に来れない人達のことを考えると、すごく申し訳ない。
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