新見市豊永にある岡山県天然記念物の鍾乳洞・秘坂(ひめさか)鐘乳穴(かなちあな)の入り口から奥へ進むこと一・六キロ、地下およそ五十メートルの地点に巨大地底湖がある。
存在は古くから言い伝えがあり三十六年前、新見北高校の柴田晃教諭をリーダーとする調査で確認されていた。十二年前、新見支局長だった私は先生の自宅へ夜、別の取材で行き、話を聞くうちに行ってみたくなった。
普段、洞窟(どうくつ)は入り口から少し進んだところが水没し前進不可能になっている。その夏は異例の猛暑渇水。仕事の合間、支局から二十五キロ近く離れた洞窟を偵察すると、その水が干上がっていた。
「やれるぞ」。洞窟の調査をしていた市職員と四人ほどで隊を組んだ。鉄の縄ばしごで滝のような壁を降下、最深部では泳いで進む。だが、夏は地底湖手前で天井から大量の地下水が落ち、前進できず断念。四回目の挑戦となった十二月二十四日、到達できた。
地底湖を見たとき息をのんだ。世の中にこんなものがあるのだ。ライトを照らすと、水は白濁し水面から白いもやが上がる。ゴムボートで測量すると湖水直径二十五〜五十メートルの楕(だ)円形。水深二十六メートル。たどりつけるかどうか緊張の日々が探検記とともに思い出に残る。きっかけは先生との出会いである。今もお元気だろうか。
記者は人に出会い、驚き、喜び、怒り、悲しみ、それを記事にできる。心に残る取材には、必ず心に残る人がいる。そんな人に巡り会い、記事という記録に残すことができるのが新聞記者の魅力だと思う。
(地域活動部・赤田貞治)