労組が開いた非正規雇用の勉強会。会場にはフリーターなどの若い人たちも詰めかけた=神戸市内
「こんな働かせ方はおかしい」。フリーターや派遣など、非正規雇用の若者が声を上げ始めた。キヤノンや松下電器産業子会社といった大企業の偽装請負が相次ぎ内部告発されている。政府は格差の固定化を防ぐために就職支援拡充などを掲げるが、バブル経済崩壊後の「就職氷河期」に社会に出た20代半ばから30代の非正社員たちは、景気拡大の陰で依然厳しい雇用環境にあえいでいる。若者雇用の現状を探った。(小林由佳)
六月、東播磨地域に住むトオルさん(24)=仮名=はテレビニュースに息をのんだ。「おれと同じや」。派遣最大手グッドウィル(東京)の派遣労働者が、データ装備費名目で賃金から一定額を天引きされることを批判し、返還を求めていた。
当時、トオルさんは人材派遣のH社(東京)から、自宅近くの大手メーカーの系列工場へ派遣されていた。時給は千五十円。勤務日ごとに「安全協力会費」を徴収され、社会保険に未加入なのも気になっていた。
悩んだ末、「アルバイト・派遣・パート関西労働組合(あぱけん)神戸事務所」(神戸市中央区)に加入。団体交渉の結果、H社は安全協力会費の返還に応じた。だが、社会保険への加入は「保険料を払うと赤字になる」と拒否された。
H社のホームページには、派遣先として大企業の名前が並ぶ。
■ ■ 国は産業界の要請を受けて、専門職に限られていた派遣労働を一九九九年に原則自由化し、二〇〇四年には製造業にも解禁した。その後一気に派遣が広がり、一日単位で契約する「日雇い派遣」も急増。ワーキングプア(働く貧困層)の温床になっているとの批判もある。
厚生労働省の初の実態調査によると、日雇い派遣などをしながらインターネットカフェを泊まり歩く「ネットカフェ難民」は全国で推計五千四百人。うち二十代が27%で最も多かった。また、日雇い派遣の平均月収は十三万円だった。
「今のような派遣労働を放置すれば、若者の未来を奪うことになる。業種を限定するなど、規制緩和の時計の針を戻すべきだ」。龍谷大の脇田滋教授(労働法)は指摘する。
厚労省もようやく、労働者派遣法の見直しに乗り出した。厚労相の諮問機関・労働政策審議会の場で議論が本格化。来年の通常国会への改正案提出を目指し、年末をめどに報告書をまとめる。
ただ、労働側は、派遣業務の限定や日雇い派遣の禁止などを主張。一方、使用者側は「国際競争力の強化」などを理由に派遣可能期間の延長などを求め、議論は分かれている。
■ ■ トオルさんはH社との交渉直後、派遣先の工場から「受注量が減ったので八月末で契約を解約する」と言われ、職を失った。現在求職活動中だ。
十月初旬、あぱけん神戸事務所が神戸市内で開いた勉強会で、トオルさんは自らの体験を報告し、こう呼びかけた。「未来は否定するものではなく、期待するもの。一人で悩まないでほしい」