点検のため、原子炉のふたを開ける柏崎刈羽原発7号機
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七月十六日に起きた新潟県中越沖地震。東京電力柏崎刈羽原発は「想定外」の揺れで大きな被害を受けたにもかかわらず、要の機器である原子炉の安全機能は保たれた。なぜ大丈夫だったのか。昨年改訂されたばかりの新しい原発耐震指針は中越沖地震後も有効なのか。二つの疑問について九月末に開かれた日本原子力学会で専門家が見解を話した。 (栃尾敏)
中越沖地震は震度6強という強い揺れを記録した。間近にある柏崎刈羽原発では変圧器の火災や放射能漏れなどが発生。自衛消防体制や事故報告体制の不備も明らかになり、住民に不安が広がった。さらに原発の耐震安全性についても懸念が強まっている。
揺れは想定を大幅に上回っていた。ただ、原子力安全にとって最も重要な機能である「止める」「冷やす」「(放射性物質を)閉じ込める」は確保された。「安全上、重要な機器については重大な影響を受けていない」と東京電力執行役員の武藤栄さんは強調する。
その理由について東大大学院教授(原子力)の班目春樹さんは「設計余裕が十分にとってあったからだ」と説明する。
原発の耐震設計の流れは、まず地下の岩盤部を基盤としてどのくらい揺れるかを見積もった基準地震動を設定する。この設定の下で地盤調査結果をふまえて建屋の耐震設計が行われる。さらにこれを受けて容器や配管などの機器設計をする。
柏崎刈羽原発では基準地震動の設定が「二−三倍間違っていたのは明確」(班目さん)だったが、各設計段階で地震による揺れの設定を大きめに見積もっているため、影響が低く抑えられたとみられる。また、耐震設計の際、揺れによって設備・機器に生じる力や変形の制限値(許容値)を設定している。この許容値には壊れる状態に対して一定の余裕(安全率)が見込まれており、班目さんは本当に壊れるところに比べて「実際には十倍近い余裕がある」と話す。
だが、十分な余裕があるから許容値を超しても全く損傷がない、というわけではない。配管なら力がかかって生じたひずみが消えず、元に戻らないまま残ってしまったり(塑性変形)、コンクリート構造物だとコンクリートのセメントの部分がはがれたりするという。再使用するには許容値を守ることが必要になる。
柏崎刈羽原発の例では「建屋耐震や機器耐震にものすごく余裕があるので、地震動の見積もりを二−三倍間違えてもすべて設計余裕の中に収まってしまったということだろう」。そう指摘する班目さんだが「原子力の安全の問題は非常に重要だ。『だろう』で済ませず、本当に大丈夫かどうか証明し、きちんと確認作業することが大切」と強調する。
一方、新耐震指針の有効性について、国の原子力安全委員会委員の早田邦久さんは「今後、(中越沖地震の影響の)分析をもう少しやらないと確認できない」と話す。
「重要な安全機能は確保され、放射性物質の放出もごく微量だった」と評価するが、今後の耐震安全性や原子力施設の安全性を高めるための課題が多いことを認める。「仮に新たな知見が得られ、それが改訂を必要とするものならそのときは改訂する」と話し、「耐震安全性の向上には努力の継続が重要」としている。
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