◇胡政権1期目、社会不安高まり
【北京・浦松丈二】中国の胡錦濤総書記は共産党大会の政治報告で「社会主義が発展すればするほど、民主も発展する」との歴史観を示した。政権1期目5年間に新型肺炎SARS流行(03年)、反日デモ(05年)、農民暴動など社会を揺るがす事件が多発したことを受け、民主制度構築への努力を迫られたと言える。
「水は舟を乗せるが、舟を転覆させることもある」。胡総書記は小規模な集まりで国民を「水」に、共産党を「舟」にたとえて、政権運営のかじ取りには目配りが必要であるとの心構えを語った。
中国(香港を含む)で約650人の死者を出したSARSの流行について北京市当局が感染者統計を過少発表し、対策も遅れたため政府批判が高まった。反日デモでも若者らの排外的な民族主義感情を制御できず、日本人への暴行事件に発展した。胡総書記が政治報告で民主制度推進に前向きな姿勢を示したのは、事件が相次いだことと無関係ではないだろう。
政治体制改革について胡総書記は「人民の政治参加意欲の向上に呼応するものでなければならない」と世論の高まりを改革に反映させるよう求めた。さらに党・政府が世論のチェックを受けるよう、情報公開などの具体的な手続きに踏み込んだ。
民主制度の拡大を求める党内世論は高まっていた。口火を切ったのは理論研究の中枢、中央党校の兪可平・編訳局副局長が昨年10月に出した「民主は良いものである」と題した論文だ。直言は耳目を集め、民主化論議が活発化した。
だが、国民的な民主化議論は天安門事件(89年)の再評価などタブーに触れざるを得ない。胡指導部は権力基盤を固める2期目5年間にあたり、民主化を党内から段階的に社会全体へ広げていく方針とみられる。
胡主席は「水と舟」の話を「権力を人民のために用い、情を人民とつなぎ、利を人民に図れば、舟は水に乗ることができる」と結んだという。この趣旨は「『人間本位の政治』の堅持」として政治報告に盛り込まれた。
◇一つの中国は「最大の障害」--台湾が批判
【台北・庄司哲也】対中政策を主管する台湾行政院(内閣)大陸委員会は15日、胡総書記の政治報告での台湾問題への言及について「中国は『一つの中国』の原則に台湾の人々を押し込もうとしている。中台関係の最大の障害だ」と批判した。
胡総書記は平和統一の追求を強調する一方、「『台湾独立』の分裂活動に妥協することなく反対し続ける」と述べた。
来年3月の台湾総統選をにらみ、陳水扁総統は台湾名義での国連加盟申請など中国を刺激する政策を取り続けている。これに対して中国が強い態度を示せば台湾人意識を刺激し、独立志向の与党・民進党に有利な構図になるジレンマもある。
■宇宙飛行士・メダリストも
第17回党大会の代表は党中央や国家機関、省・自治区、人民解放軍など38の組織で選ばれた。当初の発表では2217人だったが、1人が資格をはく奪され、3人が決定後に死去したため、2213人となった。党員数は約7336万人で、党員約3万3000人に代表1人の割合となる。
地元メディアの報道によると、55歳以下の代表は70.4%で、63.2%だった前回(02年)から若返りが進む。改革・開放政策が本格化した80年代生まれの代表も加わり、注目されている。
私営企業や外資系企業などを指す「新経済組織」、社会団体や非営利団体を含む「新社会組織」からも計約30人が代表入りした。中国社会での影響力拡大を反映、弁護士も初めて代表となった。
著名人の代表も目立つ。中国初の宇宙飛行士である楊利偉さん、卓球女子の五輪金メダリストの張怡寧さんや王楠さん、テニス女子の五輪金メダリスト、孫甜甜さんらが代表に名を連ねている。【中国総局】
毎日新聞 2007年10月16日 東京朝刊