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フィリピン 人権 IPS
フィリピン:避妊禁止と戦うマニラの女性(全訳記事)
2007/10/16

【マニラIPS=ステラ・ゴンザレス、10月2日】

 ルルド・エスプラナ・オシルさんは12年で7人の子供を産んだ。繰り返される妊娠による合併症に注意するよう医者にいわれて、地域医療センターに行けば無料で支給される注射式の避妊薬を使い始めた。

 けれども1998年に医療センターは避妊薬の支給をやめた。オシルさんの夫は輪タク屋で稼ぎは少なく、避妊薬を購入する余裕はない。自然家族計画も失敗したため、オシルさんはまた望まない妊娠を何度か繰り返した後、ようやく避妊薬を無料でくれるNGOを見つけた。

 オシルさんは、1998年にジョセリート・アティエンザ氏がマニラ市長になってから人工避妊法を利用できなくなった、マニラ市に住む多くの女性の1人である。アティエンザ市長はローマカトリック教徒であり、その信仰から、「親の責任」を重視して自然家族計画法を奨励し、コンドーム、ピル、子宮内避妊器具、避妊手術などの人工避妊法を規制する市長命令を発した。

 アティエンザ市長は9年連続任期を務め、今年6月に任期終了となったが、2000年に署名された市長命令はいまだに効力を持っている。

 調査によると、市長命令はマニラ市が運営する医療センターと病院すべてで適用され、計画外妊娠の割合を高め、それによって女性の生活や健康に影響をもたらした。文言があいまいなために、医療施設や医療提供者の中には女性が人工避妊を受けられる別の施設に関する情報も教えなかったところもあった。

 「窮乏を強いる:マニラの避妊禁止の女性と家族への影響」と題されたこの調査は、NGOや民間の家族計画サービス提供者が、政治の「恐ろしい影響を感じ」、嫌がらせを受けることもあったとしている。この調査はボランティア機関の、Likhaan、ReproCen、性と生殖の権利センターによって発表された。

 Likhaan(Linangan ng Kababaihan社あるいは女性開発センター)のジュニス・メルガル医師は、オシルさんのような少なくとも10人の女性が、市長命令によって精神と健康に被害を負ったとしてアティエンザ氏に民事訴訟を起こそうと検討しているという。

 メルガル医師によると、市長命令の合法性に異議を申し立てようとする計画もある。2004年の段階で訴訟事件として申し立てようとする動きがあったが、原告側はその結果を「非常に心配して」実際の訴訟をためらった。「女性たちは住居からの立ち退きを強いられるのではないかと恐れたのだ」とメルガル医師はいう。

 メルガル医師の話では、現市長のアルフレッド・リム氏は、市の運営する医療センターと病院で人工家族計画法を利用できるようにする意図があると発言している。8月に行われた性と生殖に関する健康推進派との対話でも、リム市長はアティエンザ氏の市長命令を廃止するよう求められている。

 しかしながら問題は、リム市長が人工避妊法により寛容であっても、市がその避妊法を提供するにはまだ時間がかかるということだ。メルガル医師によると、アティエンザ氏が市長在任中に予算が供与されなかったため、市の医療センターには避妊薬がない。さらに、9年間家族計画のカウンセリングと奨励を行ってこなかった医療従事者を再教育する必要もある。

 NSV(手術用メスを使わないパイプカット)を推進する協同運動のジョナサン・フラヴィエ医師は、マニラ市が避妊薬や避妊具の供給を再開し、医療供給者の研修を行うには4半期当たり100万ペソ(2万2,000ドル)かかると予想している。フラヴィエ医師は、「当面はNGOがその費用を工面しながら、市当局が予算に必要な修正を行っていくことになる」という。

 フラヴィエ医師は、マニラ市とケソン市の出産と母体の死亡数について比較研究を行い、アティエンザ氏の人工避妊禁止令の影響を調べた。両市は経済に関して似通っているが、人工中絶法も自然家族計画法もケソン市では認められている。

 1996年から2006年のデータを比較すると、マニラでは母体の死亡が増えているとわかった。このことは「窮乏を強いる」調査の、「マニラの女性は安価な性と生殖に関する医療サービスを受けることが制限され、そのために望まない妊娠をして違法で安全でない中絶を受けざるを得なくなったため、妊婦の死亡リスクが増している」とする見方を裏付けている。

 フラヴィエ医師はまた、マニラ市とケソン市の公立病院の入院状況を調べ、事例報告に基づき、マニラでは中絶の症例が増えているようだと気付いた。

 フィリピンは政府算出による人口が8,400万人で、世界でもっとも急速に人口が増えている国の1つである。国民の70%が家族計画サービスを公的機関に頼っているが、グロリア・アロヨ大統領やアティンザ前市長など公職にある人々の中には、ローマカトリック教会が認める自然家族計画の推進が優先されると公言しているものもいる。

 多くが貧困の中で暮らすマニラの女性にとって、サービスを受けられない間、民間の家族計画サービス提供者を利用する、あるいは自分で避妊薬を購入するなど、問題外である。

 「経済的な負担が大きすぎる」とメルガル医師はアティエンザ前市長の政策の影響を受けた女性について語る。「家族が食べる米の代わりに避妊薬を買えというようなものだ」

 「窮乏を強いる」調査でインタビューを受けた女性の1人は、1か月の避妊薬に35ペソ(77セント)しか捻出できなかったという。「余裕ができたときには貯めようとしている。余裕がないときには近所を回って、一軒一軒から10ペソずつ借りてピルを買うのに必要なお金を集める」

 前保健大臣のアルベルト・ロルアルデス医師は、この状況は受容できないと考える。「二度と起きてはならない」といい、もっとも苦しむのは女性であると指摘した。

 「(家族計画)サービスを提供しないのは怠慢であるだけでなく、犯罪である」とロルアルデス氏はいう。「(家族計画の)助言とサービスを提供しないのは圧政の一形態だ」(原文へ

翻訳=加藤律子(Diplomatt)/IPS Japan浅霧勝浩

IPS関連記事/関連サイト:
アフリカ:家族計画の重要性を認識すべき
ボリビア:レイプでも中絶は禁止
アジア、少子化の脅威
JICAフィリピン事務所

(IPSJapan)

今回はマニラIPSのステラ・ゴンザレスより、マニラの前市長による人工避妊禁止令の影響について報告したIPS記事を紹介します。(IPS Japan浅霧勝浩)







フィリピンは政府算出による人口が8,400万人で、世界でもっとも急速に人口が増えている国の1つである。国民の70%が家族計画サービスを公的機関に頼っているが、公職にあるグロリア・アロヨ大統領やアティエンザ前市長は、ローマカトリック教会が認める自然家族計画の推進が優先されると公言している。資料:Envolverde







多くが貧困の中で暮らすマニラの女性にとって、公的サービスを受けられない間、民間に頼るのは経済的な負担が大きすぎる。前保健大臣のアルベルト・ロルアルデス医師は、この状況は容認できないと考える。「再び起きてはならない」といい、もっとも苦しむのは女性であると指摘した。 資料:Envolverde






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