『FF』は、クリスタルの存在やジョブシステムなどの、『FF』シリーズの世界観の原点を作り上げた。『FFII』は、次々と起こるイベントや冒険を共にする数多くの仲間たちなどの、「『FF』シリーズはストーリー重視」というイメージを作り上げた。その2作品が、新生『FFI・II』となってゲームボーイアドバンスに登場する。プロデューサーである時田氏に、アドバンス版の内容とともに、ファミコン版当時の開発秘話も併せて聞いてみよう。
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※このインタビューは、デンゲキゲームキューブ6月号で掲載されたインタビューの、オンライン版です。オンライン版では、ファミコン時代の思い出話を、雑誌掲載時よりちょっぴり多めにしてお届けしています。 |
●時田氏は、昔はRPGが好きじゃなかった!?
──ゲームボーイアドバンスに『FF』と『FFII』が登場することになったワケですが、時田さんはファミコン版の開発にも関わっていたんですよね?
時田氏(以下、敬称略):『FF』ではドット絵などを担当していました。『FFII』のときは、『半熟英雄』も平行して制作していたのでデバッグなどを主にやっていましたね。
──当時(1987年。なんと17年前!)は、今とは違って『ドラゴンクエスト(以下、DQ)』以外に家庭用ハードのRPGがあまりない状況でしたよね。そもそも、どうして『FF』のようなRPGをファミコンで制作することになったんですか?
時田:たしかに、当時のスクウェアでも、『水晶の龍』(1986年12月15日発売)や『とびだせ大作戦』(1987年3月12日発売)などのようにAVG、ACTがメインでした。そんななかで『DQ』や『DQII』が発売されて、世間でもRPGの楽しさが理解されはじめていたんですよね。僕自身も『DQ』が発売された頃に、すぐプレイしてみたんですけど、最初は「弾の出ないゲームはどうだろう?」というのが正直な印象だったんですよ。しばらくして、チュンソフトさんに所属していた知り合いに『DQII』をすすめられたんです。最初は「弾の出ないRPGは苦手なんだよね」って断ったんですけど、「2時間でいいからプレイしてみて」と言われたのでプレイしてみたんです。そしたら「これはオモシロい!!」と。特に『DQII』は、パーティ制が導入されてドラマ性がアップしたじゃないですか。当時、僕は演劇をしつつ、スクウェアではアルバイトでグラフィックデザインをしていたんです。『DQII』のおかげで、「ストーリー性の高いモノを描けるジャンルがあるなら、演劇よりもゲームのほうが自分の世界を描けるんじゃないか」という可能性を感じて、そこから一気にRPGのオモシロさがわかってきたんです。だから、RPGの魅力を知ったのはファミコンユーザーと同じ時期なんですよね。ただ、社内ではパソコン版の『ウィザードリィ』や『ウルティマ』などの海外製RPGをやり込んでいた人たちがたくさんいたんですよ。みんな「『DQ』に先を越された」と思ってたんですね。そこで「じゃあ、『DQ』とは違ったRPGを作ろう!」ということで、『FF』の企画がスタートしたんです。
──外国人のプログラマー(ナーシャ・ジベリさん)を採用したり、天野喜孝氏をデザイナーに迎えたりと、かなり力が入ってましたよね。
時田:それまでのファミコンのゲームは、グラフィックを1〜2人という少人数で制作するのが当たり前だったんですけど、『FF』は、当初から大人数でチームを組むという、時間とお金をかけたプロジェクトでしたね。スクウェアでも、そういった大掛かりな制作スタイルが確立したのは『FF』からです。でも、当時は、天野さんの凄い絵をファミコンのドット絵に起こせと言われて、「無茶だろ!」と思ってましたよ。かなりがんばってやりましたけどね。
――『FF』が完成した時点で、「これは売れるぞ!」という手ごたえのようなものはあったんですか?
時田:そうですね。ビジュアルのわかりやすさで勝負していたので、「これはオモシロイぞ」という印象はありましたね。それに、それまでのゲームとは制作スタイルやアピールするポイントが違っていましたから。あの頃は、デバッガー専門の人がいなかったので、開発スタッフが徹夜でデバッグ作業をしていたんですけど、『FF』は自分たちでデバッグしていても楽しかったですね。パーティをいろいろ変えてみたりとか。ちなみに僕は、モンク、モンク、シーフ、白魔術士というパーティを組んでいました。シーフが忍者になるまでがツラかったなぁ(笑)。
──『FF』は、現在の『FF』シリーズから見るとかなりシンプルなテイストの作品ですよね。そこから、現在の『FF』シリーズの原型ともいえるストーリー重視の『FFII』への変化というのは、どういった経緯で?
時田:『FFII』というのは、『サガ』シリーズの河津(秋敏氏)がメインスタッフだったので、彼のテイストでしょうね。現在では『FF』と対極を成すシステム重視のRPGを主に制作してますけど、ストーリーで引っ張るスタイルは河津が源流を作ったと言っても過言じゃないですよね。
──当時は、「RPGはプレイヤーが主役。名前の付いたキャラクターを操作するなんて!」という意見もありましたが、スクウェア社内では『FFII』はストーリー重視で行くことはスムーズに決まったんですか?
時田:そこは、他のRPGがやっていないからこそ、取り入れるべきポイントだと思っていました。今でも『FFII』のファンがいるということは、ストーリーでガンガン引っ張るというスタイルにしたのが正解だったということだと思っています。まあ、熟練度システムは自由度が高い反面、プレイヤーにツラいところもありましたけどね(笑)。
――熟練度といえば、味方を攻撃して成長させるというプレイスタイルが基本になっていましたけど、あれば元々そういう風にプレイしてもらうつもりだったんですか?
時田:結果として、ユーザーさんがそういうプレイ方法を見つけちゃったんですよ。昔のゲームではよくあったじゃないですか。最近のゲームは、そういった部分が少ないのが、ちょっと残念ですよね。
●低年齢層のユーザーと昔からの『FF』ファンが楽しめる作品
――『FF』と『FFII』は、これまでにも、ワンダースワンやPSに移植されてきましたが、そもそもなぜ今、ゲームボーイアドバンスで発売することになったのですか?
時田:最近の携帯ゲームを見ていると、システムが複雑なものが多くて、ちゃんと子ども向けに作られていないように感じていたんですよ。ファミコンで、シンプルなシステムのソフトを作っていた僕らとしては、当時と同じ感覚で、子ども向けにちゃんと作ろうというのが最初にあったんです。そこで、『FF』という作品をリニューアルしようということになりました。
――20代後半には懐かしいタイトルですけど、今の小・中学生だと、当時の作品をプレイしていない人のほうが多いですよね。
時田:今回、ゲームボーイアドバンスに移植すると決まったときから、ちゃんとメインのユーザーとなる小学生くらいの人でも楽しく遊んでもらえるように、システムやバランスの変更をしています。もちろん、当時クリアした人にも違ったオモシロさを味わってもらえるように追加要素も入れています。そういう意味では、単なる移植ではなく、リニューアル版と思ってもらってかまいません。
――漢字とひらがなの変更ができるのは、メインである低年齢層のユーザーのことを考えたためなんですね。
時田:子どもさんは、読めない漢字は飛ばしてしまうでしょうから、ひらがなは入れておいたほうがいいということで、変更できるようにしました。本当はふりがなをつけるのがベストなんですけどね。画面の解像度的に難しいんですよ。
――変更された部分ですが、『FF』と『FFII』のシステムを同じにしたとのことですが、具体的にはどんな感じになるんですか?
時田:わかりやすいのは、両方とも魔法をマジックポイント制にしたところですね。ファミコン版の『FF』ではレベルと回数制だったんですけど、『FFII』と同じくポイント制にしています。ファミコン版を担当した昔のスタッフからは「魔法は回数制だからよかったんだ」という意見もありましたが、「そんなのは昔の話だっ!」って、一喝してやりました(笑)。当時、『I』と『II』を順番に遊んだ人はシステムが違っていても大丈夫でしょう。でも、アドバンス版で初めて『FF』を遊ぶ人は、最初から両方ともプレイできるので、システムが違うと戸惑ってプレイしにくいはずです。だから、基本となるシステムを統一したんです。もちろん、熟練度などの各作品独自のシステムは残していますよ。
──では、回復アイテムなども『FF』では少なかったんですけど、そのあたりも変わってくるわけですね。
時田:「ポーション」と「どくけし」程度ですからねぇ。もちろん「ハイポーション」から「エリクサー」といった、おなじみの回復アイテムを追加していますよ。「エリクサー」は『FFII』では「エリクシャー」だったりするんですけどね。今回は、混乱しないようにほかのシリーズの名前に統一しました。意外とあるんですよね。『FF』や『FFII』にしか登場しないモノって。魔法でも「ボキャル」や「バファイ」、「チェンジ」とかね。
──ジョブも「スーパーモンク」は、『FF』だけですからね。ちなみに、アイテムの追加や魔法のポイント制によって、かなりゲームバランスが変わると思うのですが、ファミコン版より簡単になるんですか? 特に『FFII』の熟練度は、上がりやすくなっていると聞いたのですが。
時田:バランス調整は『FF』をプレイしたことのない人に協力してもらっていますので、初心者でもプレイしやすい難易度になっています。熟練度に関しては、「こんなに上がってもいいの?」っていうくらい成長しやすくなっていますよ。ファミコン版では1回の攻撃で1程度でしたが、今回は10ずつ上がる感覚です。ファミコン版開発当時、僕もデバッグをやっていたんですけど、やっぱり新しい武器を手に入れたら、それを使いたいんですよね。でも、熟練度が低いと効果が低くて使えないというジレンマがあった。だから今回は上がりやすくしたんです。あと、昔は能力が下がることもありましたが、今回は下がりません。だから、時間さえかければ強力な赤魔道士といったキャラを作ることもできますよ。
──ちなみに、「たたかう」キャンセルの技でキャラを成長させることは可能ですか?
時田:あれはバグですからね(笑)。バグ系の技は取っているものが多いです。ただ、パーティアタックでの成長技やブラッドソードが強いといったモノは、今回も健在です。そうそう、バグといえば、当時、僕がデバッグしていたときに、遊び半分でラスボスに「トード」をかけたんですよ。そしたら、皇帝が「ケロッ」とか言ってカエルになっちゃった。慌てて、プログラマに電話してやらしてみたら、プログラマも「あ、ほんとだ」って。ラスボスにトードがかかりやすくちゃいけないでしょう(笑)。もちろん、直してもらいましたけどね。
──船に乗ってコマンドを入力すると、なぜかミニゲームがプレイできたり、飛空艇が速くなったりと、いろいろウラワザも豊富でしたよね。
時田:あのミニゲームは、ナーシャが頼んでもいないのに勝手に入れてきたんです。突然やってきて「ハーイ。ミニゲームを入れたよ!」って。彼があまりにもうれしそうなので、誰も文句が言えなかったんですよ(笑)。でも、RPG初のミニゲームを採用したのは『FF』になるのかな? ちなみに今回は、ミニゲームに加えてモンスター図鑑なんかも入れてありますよ。
──本編のシナリオにも手が加えられているようですが、どの程度、変わっているのですか?
時田:ガラっとは変えていません。ファミコン時代は容量が足りなくて、今見ると、そっけないメッセージが多かったんですよね。「なんじゃこりゃ?」っていうような(笑)。それを気の効いた言い回しにしつつ、テンポもいい感じにしています。ところどころに、『FF』シリーズを遊んでいる人がニヤリとできるメッセージも入れていますよ。テキスト量としては、昔の3倍程度にはなってますね。
──イベントでのキャラの動きの変更は?
時田:そこはあまり手を加えていません。『FFIV』で凝ったイベントを作った自分が言うのもなんですが、ユーザーさんはイベントを見せられるより、キャラを操作したいんじゃないかと。だから、見せる場面と遊ぶところをテンポよくつなぐのが、いちばん大切なことだと思って制作しています。
──あの当時、ドキドキした『FFII』でのヒルダ王女の誘惑シーンがどうなるのか期待してるんですけど……。
時田:あのテイストは、当時としても素晴らしいものがありましたね。フリオニールが「ゴクッ」とか言っちゃって(笑)。小さいキャラが演じているから、逆に想像力がかき立てられる部分もありますからね。もちろん、アドバンス版にも入ってますよ。
●オリジナル要素はファミコン版に思い入れがあるほど楽しめる
──アドバンス版で追加されたダンジョンとシナリオというのは、どのようないきさつで決まったのですか?
時田:『FF』は、本編で節目となる4体の悪のカオスが印象的だったので、彼らのダンジョンを新設したんです。本編をプレイしつつ、力試し的にチャレンジしたり、そのダンジョンでしか入手できないアイテムを集めにいったりできる場所があるといいかなと思って、4か所に設置してみました。
──ということは、本編をプレイ中でも遊べる?
時田:はい。最初から行くことはできませんが、本編を進めていると、徐々に入れるようになっていきます。ダンジョン内には、『FF』シリーズをプレイしている人なら、より楽しめる仕掛けをいくつも
用意しているので楽しみにしておいてください。
──歴代シリーズの有名なモンスターが出現するようですが、どの作品あたりまで出てくるのですか?
時田:『FFIII』から『FFVI』までです。『FFVII』以降になるとモンスターのグラフィックが3Dになるので、それを2Dにすると違和感があると思って採用を見送りました。PSから『FF』シリーズをプレイしはじめたユーザーさんなら、セフィロスなどの敵を登場させてほしいかもしれませんが(笑)。
──『FFII』に関しては、シナリオを追加されたようですが、これはどのようなモノなのですか?
時田:『FFII』では、次々と仲間がいなくなっていくじゃないですか。彼らにスポットを当てたかったので、ミンウを主役にして、本編とは違う世界で活躍する場所を作ったんです。『FF』シリーズは、メインキャラよりも、脇役のほうが味のあるキャラが多いですし、ファミコン版をクリアした人でも、それがあるならプレイしたいという要素を追加したかったので、今回のような内容になりました。
──3月時点での開発の進み具合はどのくらいですか?
時田:65%くらいかな。コンセプトがしっかり決まっているので、順調ですよ。
──では、『FF』と『FFII』をプレイしたことのないユーザーさんと、当時、ファミコン版をプレイしたことのある人たちへのメッセージを頂けますか?
時田:『FF』がはじめての人には、いろいろ難しそうに見えるゲームだと思いますが、好きなジョブになれたり、剣が好きだから剣を育てたりと、自由に楽しめるゲームなので気軽に楽しんでください。昔からのユーザーの方が、ファミコン版を今プレイしようと思っても、あのバランスは正直キツイはずです(笑)。アドバンス版は、ゲームバランスが変わっているので、そういう人でもサクサク遊べます。ゲームのキモは変わっていないので、ノスタルジーに浸ってください。特にファミコン版に思い入れがある人は、「おお、こうくるか!」という追加要素も入れていますので、プレイしてみてください。
●誰もが気になる、どのハードにも移植されていない『FFIII』だが?
──『FFI・II』が発売されるとなると、封印されている『FFIII』を期待しちゃうんですが。
時田:別に、封印しているわけではないんですけどね。たまたま、発売するタイミングを逃しているだけなんです。『FFIII』は、簡単にジョブチェンジできたり、召還獣や大掛かりなイベントがあったりと、『FF』シリーズがエンターテイメント的なモノを意識するキッカケとなった作品だと思うので、個人的にはチャンスがあれば、いろいろ仕掛けたいとは思っています。ただ、ここまで引っ張ったので、期待感が高まっているでしょうから、変わりすぎても文句が出そうだし、そのまますぎても文句が出そうだし…サジ加減が難しいですよね。
──あの伝説になっている長いラストダンジョンがどうなるか楽しみなんですけど。
時田:本当は、あのダンジョンにはセーブと回復ポイントがあったんですけどね。当時のデバッグのバイトが、「こんなの楽勝ですよ」って言ったもんだから、それを聞いたプロデューサーが怒って、「じゃ取ってやる!」って言って、ああなっちゃったんですよ(笑)。あの長いダンジョンをクリアすると、すごい達成感がありますけどね。
──バイトの一言で…。ちなみに、スーパーファミコンで発売された『FFIV』以降のシリーズも、アドバンスなら、そのまま移植できると思うのですが。それは考えていないのでしょうか?
時田:そのまま移植するだけでは、意味がないですから。アドバンスに移植するなら、今回の『FFI・II』のように、いろいろ手を加えないといけないのでタイヘンだと思いますよ〜。
──そうですか。でも、否定しないということは…『FFIII』以降も期待させていただきます。本日はどうもありがとうございました。
時田:いや、『III』まだ決まってないって(笑)。
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時田
貴司 氏
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(株)スクウェア・エニックス
第7開発事業部事業部長
『FFI・IIアドバンス』プロデューサー
当初は、グラフィックデザイナーのアルバイトとしてスクウェアに入社し、現在では、第7開発事業部の部長。最初に関わったタイトルはMSX版『エイリアン2』。なんと、1人でグラフィックのすべてを描いたとか。ファミコン版『FF』と『FFII』の開発に関わり、さらにスーパーファミコン版『FFIV』では、ほとんどのイベントを担当している。代表作は『半熟英雄』や『魔界塔士サガ』など。
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FINAL
FANTASY I・II
ADVANCE
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■メーカー:スクウェア・エニックス
■対応機種:GBA
■発売日:7月予定
■価格:6,090円
(C)987,1988,2000,2001,2002,2004,
SQUARE ENIX CO.,LTD.All Rights Reserved. |
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ファミコン版から、17年。『FF』がゲームボーイアドバンスで復活! |
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アドバンス版では、キャラクターの等身もかわいく変更された。「子どもさんにもなじめるように、キャラクターイラストも一新しました」(時田氏)。 |
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メッセージは、漢字とひらがなのどちらかを選択可能(写真は、ひらがな)。 |
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『FF』の追加要素は、「Soul
of Chaos(ソウルオブカオス)」という4つのオリジナルダンジョン。歴代の『FF』シリーズに登場したモンスターがプレイヤーに襲いかかる! |
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『FFII』の追加要素は、「Soul
of Re-Birth(ソウルオブリバース)」というオリジナルシナリオ。主役は、冒険の途中で命を落とす偉大なる白魔導士、ミンウだ。 |
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