急病やけがで回復の見込みがなく、死期が迫った救急患者の終末期医療について、日本救急医学会は十五日、人工呼吸器の取り外しを選択肢の一つとする延命治療中止基準を明記した指針を決定した。患者の死に直結する呼吸器外しを容認する指針は、これまで病院や大学単位では例があるが、学会レベルは初。
終末期医療をめぐっては、厚生労働省が五月に「患者意思の尊重」をうたった国として初の指針をまとめたが、個々の医療行為には踏み込んでおらず、医療現場からは「原則論だけでは使いづらい」と指摘があった。同学会は具体的な治療中止の流れを盛り込んだ指針案を二月に公表。医師や国民から広く意見を募った結果「おおむね肯定的な評価を得られた」として、同日大阪市内で開いた評議員会で承認した。
ただ、どのような場合なら医師が「殺人罪」に問われないか司法の判断が定まっておらず、昨年三月に富山・射水市民病院で表面化した呼吸器外しをめぐる捜査も結論が出ない中、指針が社会に広く受け入れられるかは未知数だ。
指針はまず、救急患者の終末期を「死が間近に迫っている状態」で、かつ(1)不可逆的な全脳機能不全(脳死)と診断された(2)生命が人工的な装置に依存し、移植などの代替手段もない(3)治療を継続しても数日以内の死亡が予測される―などの場合とした。
その上で、患者が延命治療を望まない意思を文書などで事前に示し家族も同意しているか、家族が患者の意思や希望を推定できる場合は家族の容認する範囲で「延命治療を中止する」とした。
家族が判断できない場合は中止の是非や方法は「医療チームの判断に委ねられる」とし、患者の意思が不明で家族と接触できない場合も「医療チームが慎重に判断する」としている。医療チームも判断できない場合は病院の倫理委員会などにかけるとした。
中止の選択肢として「呼吸器や人工心肺などの中止、取り外し」「人工透析などを行わない」「呼吸器の設定や薬剤の投与量などを変更」「水分、栄養補給の制限や中止」を挙げた。
一方で「薬剤の過量投与や筋弛緩剤投与などで死期を早めることはしない」とし、積極的安楽死は認めていない。また、延命中止の妥当性をいつでも検証できるよう一連の過程を詳細に診療録に記載することも求めた。
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