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2007年10月16日
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厚生労働白書/医療のひずみ修正したい

2007/09/25

 ここまで躍起になって医療費を削減しないといけないものか。二〇〇七年版「厚生労働白書」の読後感である。

 昨年の医療制度改革は、近年の大改造といわれた。今年の白書はその医療制度を主テーマとし、「医療構造改革の目指すもの」を副題に掲げている。詳しく解説し、広く理解を求めようとする内容だ。

 その改革の骨格は、一言でいえば高齢者に負担増を求め、医療費削減を図ることにほかならない。窓口負担の増額、長期入院する療養病床の六割削減、七十五歳以上対象の新健康保険、診療報酬の削減…。

 少子高齢化が進む中、改革は二十年後には国民医療費が二倍に膨らむとする推計に基づく。もちろん、国民皆保険が崩れるような事態は避けねばならない。かといって、「医療費の危機」を避けることを重視する余り、「医療の危機」を招いてはならないはずだ。

 しかし現実には、産科や小児科の医師が不足し、療養病床から行き場を失う高齢患者も出始め、“医療崩壊”とさえいわれる状況が広がる。すでに低所得層や入院中の高齢者は悲鳴を上げているのだ。

 白書は、その現状把握と原因分析が不十分といわざるを得ない。

 医師不足問題への踏み込みも不十分だ。一九八〇年代に過剰予測が出て、医学部定員の削減を図ってきた。その結果、今日の医師不足を招いたとみるべきだが、白書は決して「不足」と認めない。むしろ「偏在が原因」と読み取れるのだ。

 確かに偏在も大きな課題に違いない。だが、人口に対する医師数を国際比較すれば、日本は先進諸国の中でも最低ランクにあることは隠しようのない事実である。

 今春、政府・与党の主導で「緊急医師確保対策」がまとめられ、一部の医学部定員を暫定的に増やすなどの施策が決まった。このことについても白書は、十分に書き込んでいない。

 ただ、白書は高齢者医療費に関して興味深い統計を示している。七十歳以上の高齢者は就業率が高いほど医療費が少ないというのだ。つまり「元気で働ける」ことが医療費削減につながることにほかならない。

 そのためには病気予防が大切になる。厚労省が近年取り組んできた施策「健康日本21」は病気予防に重点を置いており、方向としては間違いないだろう。

 だが財政の厳しさから医療費削減を急ぐあまり、高齢者医療では性急過ぎる部分が目につく。いま一度、現状を把握し直し、ひずみの修正に力を注いでほしい。


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