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【植草被告判決要旨(5)完】「社会内での更生は期待し難い」 

10月16日12時56分配信 産経新聞


 (3) 被告人は、捜査段階から一貫して犯行を否認しているため、その供述の信用性を検討する。
 ア 被告人は、本件直前の宴会でビールをグラス5、6杯、紹興酒を20〜30杯飲んで酔っ払ったため、その宴会の後半から断片的にしか記憶がなく、本件車両に乗り込んだ時点では、強い睡魔に襲われて記憶がなくなるほどの酒酔い状態でぐったりしており、本件当時も、「子供がいるのに」などという女性の大きな声で驚いて意識が覚めるまで記憶があいまいであるが、被害者と密着していたことはなく、痴漢行為はしていないなどとした上で、次のように述べる。
 目が覚めたとき、自分は、進行方向左側ドアの方向を向き、右肩にかばんを下げ、右手でつり革をつかみ、左手で傘の取っ手をつえのように上から押さえつけるようなかたちで持っていた。目を開けると自分の前にいたと思われる女性が、左回りに後ろを振り返るように、自分から70、80センチメートル離れた右前方に移動しているのが見えた。
 これは痴漢騒ぎかな、かかわり合いになりたくないと思い、進行方向へと体の向きを右に変え、元のように目をつむって下を向いていた。すると、30秒から1分間くらいたってから、突然体をつかまれたので、痴漢の犯人に間違えられたのではないかと思って、「ちょっと待ってくださいよ、何もしていませんよ」と非常に小さい声でつぶやいた。
 自分は人に良く知られており、また、前に事件に巻き込まれたということもあったので、ここで騒ぎにしたくない、駅に到着したら、しかるべき場所で女性に事情を聴き誤解を解いて、自分が無関係であることを理解してもらおうと思い、それ以上大きな声を出して痴漢行為を否定するようなことは言わず、電車が蒲田駅に着くまで、つり革を持って目をつむって顔を下に向けた状態で静かにしていた。手を挙げて謝るような動作はしていない。
 蒲田駅到着直前に、逮捕者らから「逃げるなよ」と言われたので「逃げませんよ」と答えた。到着後、逮捕者らから押さえつけられるかたちで駅事務室に連れていかれたので、女性と話すことはできなかった。ホーム上や駅事務室で、女性と話をさせてくれるよう何度も頼んだが応じてもらえなかった。
 痴漢の疑いをかけられたことは理解していたが、駅員など他の人にやっていないと言わなかったのは、女性と話をすることが先決と考えたためである。女性と話そうとして女性を捜そうとしたが、駅員から力ずくで阻止され、このまま女性の誤解を解かず、警察が来たら、一方的に犯人にされてしまう、マスコミなどにより、家族にも大きな迷惑がかかり、揚げ句の果てに無実の真相を明らかにできず悲惨なことが起こる、それを防ぐには、この場で自分が死んですべてのことを遮断するしか方法がないととっさに考え自分のネクタイで首を絞めて自殺を図った。
 しかし、ネクタイを駅員に取り上げられた。駅事務室に来た警察官からあなたは何をしたのですかとか、何があったのですかなどとは問われていないし、電車の中で女性に不快感を与えるようなことをしましたとは答えていない。犯行を認めるようなことを言ったことは一切ない。
 イ たしかに、本件直後の被告人の呼気から0・47ミリリットルのアルコールが検出されており、本件当時、被告人が酔っ払っていたことは否定できない。
 しかし、犯行を否定し、その後の行動について述べる被告人の供述は前記信用できる各供述に反するほか、それ自体以下のとおり不自然な点が多々あり、信用できない。
 すなわち、被告人は月に6、7回も品川駅を利用すると自ら認めているところ、いくら酔っているとはいえ別ホームから発車する上りと下りを間違えるのはいささか不自然であるし、それはさておくとしても、被告人の目的駅は品川駅から1駅であるところ、被告人は、電車に乗車した時点では逆方向であることに気付き、それから出発するまでに1分間以上もあったというにもかかわらず面倒であるからそのままその電車に乗っていたのは合理的な理由とは言い難い。
 また、電車内で犯人扱いされた際も、被害者や逮捕者らに対し、ほとんど否定しようとせず、騒ぎにするのを恐れていたとしても、目撃者等も捜すことなく、そのまま連行されたというのも理解しがたいし、駅事務室に来た警察官から、人定以外聞かれていないというのも不自然である。
 他方、被告人の供述を全体としてみた場合、本件車両に乗り込んだ時点のことについては、酒酔いのため記憶がないかあるいはあいまいだと述べる部分が多々見られる一方で、痴漢行為をしていないことは間違いないなど、自己に都合のいい点は明確に覚えているとしているのであり、自己の都合に従って供述しているとうかがえる面がある。
 弁護人は、被告人がいう位置関係からは、被害者の述べる態様の痴漢行為をすることはできず、かかる被告人の立ち位置は逮捕者の供述からも裏付けられているとするが、まず、逮捕者の地点は、各図面で見る限り、被害者の右後方という点では一致しているものの、位置としては異なっている。また、その点をおくとしても、逮捕者は、被害者の「やめてください」との言葉を聞いてから、被告人や被害者の方を見ているのであって、被告人が数歩後退した後から目撃を開始し始めていると認められるから、逮捕者の供述によって、本件当時の被告人の位置についての被告人の供述を裏付けることにはならない。弁護人の主張はその前提において採用することができない。
 (4) 以上のように、被告人が痴漢行為をしていないとする供述はいずれも信用性を欠くと言うべきであり、少なくとも、前記被害者および目撃者の各供述における被害状況および犯人識別供述部分の各信用性およびこれらを裏付けるその他の関係各証拠を排斥するに足りるものではない。
 7 以上より、被告人が本件の犯人である認定は揺らがない。
 (量刑の理由)
 痴漢行為は、混雑した電車内で、羞恥心や恐怖心から表立った抵抗が難しい女性の弱みにつけ込んで、自己の性的欲求の赴くまま、女性の気持ちを顧みることなく敢行されるもので、女性の人格を無視するのも甚だしい身勝手極まりない犯罪である。
 本件で、被告人は、年若い被害者に対し、その背後に密着して立った上、スカートの上からその臀部付近を両手でなで回し、さらに同女が声をあげるなどして騒がなかったのに乗じて、スカートの中まで右手を差し入れて下着の上から臀部付近をなで回すなど態様をエスカレートさせており、卑劣で悪質な犯行態様である。
 被害者の感じた嫌悪感や恐怖心は大きく、自ら被害を訴え出るのは相当な勇気が必要であったと推察されるが、被告人は被害者に対し何らの慰謝の措置も講じていないばかりか、自分は犯人ではないと主張し、被害者に証人としての出頭を余儀なくさせ、その精神的苦痛を増大させたといえる。
 被害者が、被告人に対して、被告人が本件を認めていないこととも併せて「本当に悔しい、許せない気持ちでいっぱい」「刑務所の中で、今まで自分がしたこと、これからの自分をちゃんと考えて」などと厳しい処罰感情を吐露しているのも、もっともである。
 加えて、被告人は、平成10年6月16日に電車内で女性の両ひざを触るなどした痴漢行為による迷惑防止条例違反により罰金5万円に処せられ、さらに、17年3月23日に、女子高生のスカート内をのぞき見る目的で手鏡を差し出したとする同条例違反で罰金50万円に処せられ、厳に自重自戒するべき立場にあったにもかかわらず、それからわずか1年半にもならないうちにまたもや本件犯行に及んでいるのであって、この種事犯に対する規範意識に相当問題があると言わざるをえず、再犯のおそれも否定できない。
 しかも被告人は、その失うものの大きさにかんがみれば理解できなくもない面もあるにせよ、前述のとおり、本件での犯人性を争い、不合理な弁解を弄しており、真摯(しんし)に反省しようとする姿勢が全く認められず、強い非難を免れない。
 そうすると、本件の犯情は悪く、被告人の刑事責任は重いというべきである。
 3 他方、被告人は、前記の罰金前科以外に体刑前科はないこと、本件によって、110日間余りにわたる身体拘束を受け、マスコミの報道等を通じて厳しい社会的非難を浴びたほか、勤めていた大学の職も失うなどの相応の社会的制裁を受けているといえること、養うべき妻子がいることなど、被告人のために酌むべき事情も認められる。
 4 しかし、これらを十分に斟酌しても、被告人は、前記のとおり、既に2回にわたって同種事犯により罰金刑に処せられていた上、本件犯行時点で、妻子を有し、大学に勤める身上であったのであり、その挙動には強い自重が求められていたにもかかわらず、本件犯行に及んだことは、その社会的責任を放棄するにも等しく、厳しい非難に値する。そうすると、もはや社会内での更生は期待し難く、被告人を主文のとおり実刑に処するのを相当と判断した。

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最終更新:10月16日12時56分

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