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【植草被告判決要旨(3)】「不快感をあたえることした」 

10月16日12時22分配信 産経新聞


 なにより、各自の本件車両内での立ち位置については、それを正確に記憶した上、さらに的確に表現することには限界があると言わざるを得ず、あいまいな点があったり、些細(ささい)なずれが生じてくるのはやむを得ない面がある。目撃者と逮捕者が、公判で供述したのが、それぞれ本件から3カ月余り、半年あまりたった後であり、相当な時聞が経過していたことからすれば、なおさらである。 この点についての弁護人の主張は採用できない。
 そして、目撃者は、痴漢行為時点における犯人の姿を見ていたのみではなく、その後も継続して、蒲田駅で被告人らが下車するまでの過程で、被害者から抗議を受けたり、逮捕者からネクタイをつかまれたりした人物の姿も目撃しているのであり、かつ、この人物が被告人であることは証拠上明らかであり、争いもない。弁護人は、目撃者が、被告人の眼鏡やかばん、傘を覚えていないのはおかしい、被告人の顔や体格がやせていることに気付かないのは不自然であるなどの理由で、目撃者が見たという痴湊行為時の男は、被告人ではなく、眼鏡を掛けていない、かばんや傘を持っていない別のやせた人物である旨を主張するのであるが、目撃者は、本件時における被告人の姿形、所持品等について、痴漢行為時とその後について分けて述べているわけでもなく、弁護人がこうした理由で、目撃者が見た人物が痴漢行為時においてのみ被告人ではないと主張するのは強弁といわざるをえない。弁護人は、その主張を整合させようと、目撃者と逮捕者が各供述する被告人の位置が異なっていることを理由に、目撃者は犯人が後退した後その姿をいったん見失ったとするのであるが、位置の異動については前述のとおりであるし、そもそも目撃者は犯人の姿を見失ったなどとは一切述べておらず、また、当時の混み具合からして、痴漢騒ぎが起こった後に犯人を見失うというのも考え難く、弁護人の推論に過ぎない。
 その他、弁護人の述べるところは目撃者の供述中の些細なことを論難し、独自の推論を組み立てているに過ぎず、目撃者の供述の信用性を下げるものでは全くないし、推論も合理性を欠いており、その主張を採用することはできない。
 4 以上のように、被害者および目撃者の各供述中の犯人を識別する供述部分はそれ自体信用性の高いものであるが、さらに、以下の事情から、その信用性が補強される。
 (1) ア 前記信用できる破害者および目撃者の各供述に加え、被害者が被告人に対して抗議をしているのを目撃し、被告人を逮捕した逮捕者、蒲田駅事務室で被告人に対する事情聴取を行った警察官の各供述など関連各証拠から、次の事実が認められる。
 被害者が、振り返り「やめてください」といったところ、被告人は、目を見開いて「やばい」と感じているような表情をして、数歩後退し、少し右方向に向きを変え進行方向右側ドアの方を向いた。そのとき、手を顔の前に失礼というような感じで上げて、被害者に対して2、3回頭を下げた。
 被害者は、被告人に対し、「恥ずかしくないんですか、子供たちの前で」「次で降りてもらいますから」などと言ったが、被告人は、目をつむって抗議に反応を示さなかった。被害者は抗議しながら泣きはじめ、そのまま泣いていると、逮捕者が近寄り、「触られたの、突き出す」と尋ねてきたので、うなずいた。逮捕者が、被告人の右腕を軽くたたいて、「突き出すからね」と告げたところ、被告人は、黙ったまま、かすかにうなずいた。その後、蒲田駅まで、被告人はつり革につかまって目を閉じていた。
 電軍が蒲田駅に着くと、逮捕者は被告人のネクタイをつかんで、逮捕者に協力した者は、被告人を押し出すかたちで本件車両から下車し、被害者はその後に続いて降りた。ホーム上で、被告人は、後ろにいる被害者のところへ行こうとしたが、逮捕者に止められた。そして、各人は、蒲田駅事務室に行き事情を聴かれるなどし、さらに蒲田警察署に行って詳しい事情を聴かれるなどした。
 被告人は、駅事務室に行ってからも被害者と話をしようとしたものの、それを駅員により止められると、自分のネクタイを使って自殺を試みたが、それも同人から止められた。当日午後10時30分ごろ、通報を受けて、蒲田警察署地域課地域第1係所属の警察官らが同事務室に来た。被告人は、警察官による聴取において、「あなたは何をしたのですか」との質問に対し、「電車の中で、女性に不快感を与えるようなことをしました」と答え、また、「間違いないのか」との質問に対し、「私がやったことには問違いありま」と答えた。
 その後、被告人は蒲田署に連行され、午後10時45分に生活安全課の警察官に身柄を引き継がれた。その間、被告人は、電車内や、降車後のホーム、駅事務室、蒲田署に連行されるに至るまで、被害者と話させてほしい旨は繰り返し訴えたが、やっていない、人違いなどと痴漢行為を否定するような言動や記憶にないなどとの弁解はしなかった。
 イ 前述したように、被害者および目撃者の各供述は、全般的に信用性が高いところ、被害者が振り返った後の状況について、被害者と目撃者の供述は極めて符合し、相互にその信用性を補強し合っているだけでなく、逮捕者の供述にも符合しているといえるから、その点でも両供述の信用性は高いと認められる。
 ウ 逮捕者は、被告人や被害者と利害関係はなく、その供述は被害者や目撃者の各供述とも符合するものであり(逮捕者の供述が、被害者が被告人に抗議した際、被告人は身をひいたのみであるとする点は、数歩後退したとする被害者および目撃者の各供述と異なるが、そもそも逮捕者は、被害者の「やめてください」との言葉を聞いてから、被告人や被害者の方を見ているのであって、目撃を開始した時点が目撃者らと異なるのであるから、矛盾するものではない)、十分信用できる。
 エ 警察官は、駅事務室で被告人を聴取したときのことについて、被告人が、同警察官の「あなたは何をしたのですか」との質問に対し、1度目は答えなかったものの、2度目はしばらく間隔をおいて「電車の中で、女性に不快感を与えるようなことをしました」と下を向いたまま答えた、その後「不快感って、どういうことなんだ」と尋ねたが、被告人は無言だったなどと具体的詳細に述べ、その内容も自然といえ、体験した者でなければ供述できない会話の流れである。
 また、同警察官は覚えていることと覚えていないことを明確に区別して述べており、警察官としてその職務上経験したことを誠実に供述していると認められる。同警察官の供述の信用性は高い(弁護人は、るる述べて同警察宮供述の信用性を弾劾するが、以上の具体的かつ自然な同警察官供述の信用性を損なうものではない)。したがって、同警察官が供述するとおりの事実が認定できる。

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最終更新:10月16日12時22分

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