【植草被告判決要旨】(1)「真後ろに立って臀部をまでまわす」 
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 電車内の痴漢事件で、東京地裁が植草一秀被告に言い渡した懲役4月の実刑判決の要旨は次の通り。

     ◇

【主文】
 1 被告人を懲役4月に処する。
 2 未決拘置日数中60日をその刑に算入する。
 3 訴訟費用は被告人の負担とする。

【理由】(罪となるべき事実)
 被告人は、平成18年9月13日午後10時8分ごろから同日午後10時10分ごろまでの間、東京都港区高輪3丁目26番26号所在の京浜急行電鉄株式会社品川駅から大田区蒲田4丁目50番10号所在の同社京急蒲田駅に至る間を進行中の京浜急行本線電車内において、乗っていた被害者に対し、スカートの上からその臀部付近を両手でなで、さらに、そのスカートを右手でたくし上げ、パンティーの上からその臀部付近を右手でなでるなどし、もって、公共の乗物において、人を著しく羞恥(しゅうち)させ、かつ、人に不安を覚えさせるような卑わいな行為をした。

 1(事実認定の補足説明)
 1 弁護人は、判示記載の被害者が同記載の日時に同記載の電車(京浜急行品川駅午後10時8分発快速特急京急久里浜行き電車)の前から3両目の車両(以下、「本件車両」という。)内において痴漢の被害にあったことおよび被告人がそのころに本件車両内にいたことは争わないものの、被告人は、本件の犯人ではなく、別人が犯人であるから、無罪である旨主張し、被告人も、本件については身に覚えがないことであるとして、これに沿う供述をする。
 したがって、本件の争点は、被告人が本件犯人であるか否か、すなわち、被告人と犯人との同一性いかんということになる。

 2 まず、前提として被告人、被害者、目撃者および逮捕者が本件車両の真ん中ドア付近ないしはその周囲の座席付近に立っていたことは、証拠関係上明らかである。

 3 そこで次に、被告人から臀部付近を触られたと述べる被害者および被告人が被害者の臀部付近を触っているのを目撃したと述べる目撃者の各供述の信用性を検討する。なお、本件で、弁護人は被害者が痴漢の被害にあったこと自体を争わないことは前記のとおりであるが、被害者および目撃者の各供述はいずれも、痴漢の被害そのものに関する部分とその犯人の特定に関する部分が連続する形で述べられているので、以下では、これを併せて検討することとする。

 (1) ア 被害者の供述の要旨は以下のとおりである。
 京浜急行品川駅(以下、駅名はいずれも同会社の駅名をいう。)で、本件車両の真ん中ドアから乗車し、同車両の真ん中に当たるところから進行方向に1歩進んだところに、進行方向を向いて立って、ヘッドホンで音楽を聴いていた。電車が動き出すのと同時くらいに、誰かの上半身が背中に触れるのを感じて、自分の背後の極めて近い距離に人が立っていることに気付いた。
 本件車両内は、席が埋まり、多くの人が立っていたが、ある程度、乗客どうしの間に距離が取れる状態であったので、自分と背後の人物との距離は明らかに不自然だったため、確信はできないまでも痴漢かと思った。
 直後に、腰や尻、太ももの左右の両側面を着衣の上から、手のひらで触られた。左右とも同じように、同じ位置を触ってきたので、背後の人が両手で触っているのではないかと思った。そして、すぐに、左側に置かれた手で、左の臀部付近を、最初に手が置かれたところを中心に円を描くように、なで回され始めた。 感触的には、手のひらの指の腹の部分を使ってなで回されている感じで、手首はさほど動かさず手首を支点にするようにして、手先が動いていたという感じだった。その間、約20~30秒間くらいで、右側の手は動かず、最初と同じ揚所を触られたままだった。明らかに意図的な行為で痴漢だと確信したが、怖さや焦り、これからどうしようという気持ちでいっぱいで、体を移動させたり、痴漢をやめさせたりする行為はとれなかった。左側の手の動きが止まると、続いて右側の手で同じように、最初に触られた部分を中心に円を描くようになで回された。それは、左側よりも長く30秒間以上で、その間、左側の手は触れていたが止まっていた。そうして着衣の上から臀部付近をなで回されているときに、助けを求めようと思い、自分のそばにいた男性に2、3回ほど目線を送ったが、助けてもらえず、これからは自分1人でこれに対処しなくてはいけないと思った。
 そこで、右の臀部付近がなで回されてるときに、背後の人が犯人であるかどうかを確認しようと、まず、頭を下げて右に向くかたちで、なで回している犯人の右手を確認しようとしたが、自分のかばんが邪魔をしてみることができなかった。次に、自分の左側を確認しようと、できるだけ犯人に気付かれないように、体や腕は動かさないで、首だけ傾けて視線を下に向け、触っている左手を確認した。指は5本全部は見えなかったが、手の甲は見えていた気がする。また、袖口は、かすかに見えていた気がする。その左手が来る方向、角度からして、真後ろに立っていなくては置けない位置だったので、背後の人が犯人に間違いないと確信した。
 見えた左手の手首には、厚みのある茶色の木製のものが掛かっていた。そのときははっきりと何かは分からなかったが、今では傘の取っ手だったと思う。背後に立っている人が犯人に間違いないと分かったが、逆に怖さが増して、さらに焦ってしまい、その時点では、痴漢をやめさせる行為には出なかった。
 しかし、その後、犯人の右手の指先が皮膚に触る感触と、足下がスースーする感覚で、犯人の右手でスカートがたくし上げられていることが分かった。そして、下着の上から、臀部付近をなで回された。気持ち悪い、恥ずかしい、やめてほしいという気持ちが高まり、これ以上、行為をエスカレートさせてほしくなかったので、ヘッドホンを取り、右回りに振り返って、「やめてください」と言った。振り返ってみた犯人は、目を見開いて、「やばい」と感じているような表情をした。
 その後、自分は犯人に対して、「恥ずかしくないんですか、子供たちの前で」などと言った。犯人は40歳代半ば、身長170センチ以上で、黒髪を真ん中分けにしており、黒っぽいスーツを着て右肩からかばんをぶら下げていた気がする。眼鏡を掛けていたかははっきりと覚えていない。
 そして、背後にいた人物は、被告人に間違いない。

 イ まず、被害者の被害状況についての供述は、痴漢行為の態様等を被害状況の時間的流れの中で、自らの心理状態も交えつつ、順序立てて具体的詳細に述べるものであって迫真性に富んでおり、後述する目撃者の供述とも極めて符合し、十分に信用できる。
 これは、被害者が、痴漢被害に遭って不安な状況下にありながらも、正確に状況を観察し認識していたこと、その際の記憶をよく保ち、ありのまま誠実に供述していることを示しているといえる。
 他方、犯人を被告人と特定する部分について言えば、まず、被害者は、被告人に対して何の利害関係もないことはもとより、これまで、被告人と面識すらなかったのであるから、ことさら被告人を陥れる理由はない。そして、被告人を犯人と特定した経緯の部分は、まず、犯人の手を確認して犯人の位置を特定した上で、振り返って、犯人と対面するというものであって、犯人を識別した経過につき自らの観察と認識を時間的流れの中で具体的詳細に述べていると評価できるし、その供述内容も極めて自然である。
 他方、被害者の矯正視力は両目で0・7~0・8と支障なく、被告人が、当時、現に木製の取っ手のついた傘を所持していたこともその信用性を裏付けている。
 

 

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