「刑事の恋」

「刑事の恋」(山田太一/「月刊ドラマ」1994年4月号/映人社)品切れ

→平成6年放送作品。単発ドラマ。
山田太一ドラマにしては極めて低調。
理由は付属されたインタビューで山田本人が答えている。
事件とは無縁のひまな刑事をドラマの主人公にしたらどうだろうかと考えたそうである。
で、実際の刑事さんに取材をした。これが失敗だったというのである。
取材対象者から聞きえた警察のマイナスをドラマに書くことができない。
なぜなら取材をした刑事に迷惑をかけてしまうからである。秘密をばらしたと。
山田太一は徹底してモラリストである。
おもしろければ他人に迷惑をかけてもいいなどとはゆめゆめ思わぬ。
だが、結果として、
このドラマは中井貴一と富田靖子の甘いラブストーリーというほかなく……。
まあ、美男美女の、愛がどうの恋がどうのというドラマはそれだけで視聴者を満足させる。
だからふつうの視聴者はこの程度のドラマでいいのだろうが、
マニアックな山田ファンとしてはなんとも物足りない仕上がりである。

山田太一ドラマ定番の長台詞を一箇所引用しておこう。
敏腕刑事の中井貴一は恋人の富田靖子と別れる。
というのも、富田が暴力団と関係があるとわかったからである。
富田のことは好きだが、刑事という職務のさまたげになる。
むろん、最後には結ばれるのだが、以下はその過程における中井の苦悩である。

「――笑わせんなよ。好きな女と一緒にならなきゃ人間のクズか。(椅子を蹴る)
なにもかもおっぽり出して、好きだ好きだっていってりゃあいいのか?
結婚して、三、四年たってみろ。大抵しらけてるじゃねえか。
そんなもんのために、なにもかも、おっぽり出せっていうのか?
女なんて、いくらだっているんだ。みんな、そんなに、ちがいやしない。
なんで、よりによって、ヤクザと縁のある女を、刑事の俺が、
好きにならなきゃならないんだ? なぜなんだ?
いくらでも女はいるのに、なぜ、好きになったんだ? 何故なんだ?」(P135)

COMMENT









 

TRACKBACK http://yondance.blog25.fc2.com/tb.php/1349-83e5b926