35両の実物車両がズラリ!「鉄道博物館」オープン
“貴婦人”の愛称で呼ばれた「C57蒸気機関車」をはじめ35両の実物車両で日本の鉄道の歴史をたどる「ヒストリーゾーン」。本物の持つ迫力は圧巻だ
14日は「鉄道の日」。鉄道開業135年目のこの日、埼玉県さいたま市に「鉄道博物館」が開館する。昨年5月に惜しまれて閉館した交通博物館がダイナミックに生まれ変わったもので、館内にはSLやブルートレインなどの実物展示や日本最大級の鉄道模型ジオラマのほか、日本初のSL運転シミュレータ、運転士体験ができるミニ列車なども用意。この秋、最大の注目スポットの同館。“鉄ちゃん”ならずともワクワクすることまちがいなしだ。
◇
いよいよ14日に開館が迫った「鉄道博物館」(さいたま市大宮区)の敷地は、東京ドーム並みの4万1600平方メートル。床面積は東京・神田にあった「交通博物館」の約4倍の2万8200平方メートルにもなる。
JR東日本発足20周年記念事業の中心として設立されたもので、日本の鉄道の歴史や仕組みなどが体感できる、世界有数規模の鉄道の博物館だ。
圧巻は、「ヒストリーゾーン」(下表)。広さ約6750平方メートル、3階までの吹き抜けの大空間に35両の実物車両が展示され、明治5年の新橋〜横浜間開業から、昭和57年の東北・上越新幹線開業まで、手前から順に時代を追って展示。鉄道の進化の歴史が感じられる。
同館営業部の五島剛課長は、「まずは2階の回廊から俯瞰で全体を見てください。日本の鉄道の歴史を物語る75メートルの巨大年表も展示されていますよ」とアドバイスする。
一番の見どころは、「中央に展示してある『C57形式蒸気機関車』です」と同館解説員の山本大輔さん。“貴婦人”の愛称を持つこの機関車は昭和12年に製造開始。同館では転車台に乗せられており、「ボッボーと汽笛を鳴らして転回するデモンストレーションは見ものです」(同)。
このエリアは体験型の展示でもあり、昭和初期の列車の座席に座れるなど、「内部に入れるのは11両。駅舎や人形などで車両が活躍した時代の情景を再現した展示では、当時の様子がうかがえます」(五島さん)。
また、建物が線路に沿って建つため、1階のレストラン「日本食堂」や2階の回廊部分などの窓からさまざまな列車が走る様子が見られるのも楽しい。五島さんお薦めの展望ポイントは、エントランスゾーン3階のビューデッキで、JR東日本を走るすべての新幹線を真横から見られる。
見どころが満載の同館。関根徹館長によれば「世代によってなじみのある鉄道は違う。60代以上ならSL、下の世代なら特急や新幹線。鉄道ファンだけでなく、鉄道旅行などの思い出がある人たちも、当時を懐かしく思い、癒される。子供や孫たちに思い出を話す場になる。そんな施設を目指しています」。旅心誘われる秋。「鉄道博物館」は、鉄路の旅の楽しさを再発見させてくれる。
【復活した食堂車の味と限定駅弁】
同館1階の「日本食堂」は、かつて列車の食堂車で親しまれてきたメニューがそろうレストランだ。運営する日本レストランエンタプライズ広報室の近藤昌昭次長の一押しは、「懐かしのカレーライス」(700円)。「小麦粉を炒ることから作るレトロな食堂車定番メニューが復活します」という。
上越線「とき号」で初めて出したという「八宝菜ライス」を彷彿させる「中華風あんかけご飯」(600円)や、乗務員用裏メニュー「ハチクマライス」(650円)も注目だ。
さらに、同館限定駅弁「鉄道博物館開業記念弁当」(1300円)は「JR東日本エリアのおいしいものを集結させた、これまでの当社の駅弁の真髄。おみやげにもおすすめです」(同)という。
ちなみに、ウエイトレスの制服は、昭和30〜40年に着用していたものの復刻版。懐かしの旅気分が味わえる。
【迫力満点!日本最大級の鉄道ジオラマ】
同館自慢の「模型鉄道ジオラマ」は、「25メートルプールとほぼ同じ大きさで、鉄道をテーマにしたHOゲージ(在来線1/80スケール、新幹線1/87スケール)では日本最大」(同館解説員の山本大輔さん)。都会、田園、山間部など、日本の鉄道の象徴的な風景を再現、駅舎、発電所、橋梁、トンネルなど、さまざまな鉄道関連施設が配置されている。
線路の長さは延べ1.4キロで、現在では少なくなったループ線やスイッチバックなども用意。10編成以上の多彩な車両が一望できる。1日4〜6回、照明で朝から晩までを演出したショーも実施。同館営業部の五島剛課長は、「線路の上を多くの列車が走行するシーンは迫力満点」と話す。
【運転士気分が味わえるシミュレータの数々】
注目は日本初の本物のD51蒸気機関車の運転が体験できるシミュレータ(1回500円)。解説員の山本さんによると「ペダルを踏んで、たき口を開け石炭(ゴム製の模造品)をくべるなど、実際のD51と同じ手順も踏め、当時の運転士の気分が味わえる。速度やカーブに合わせて車体が上下左右に揺れ、臨場感もたっぷり」とか。
このほか、ATC(自動列車制御装置)やATS−P(自動列車停止装置)を装備した長さ2.4メートルの小さな電車を運転して、1周230メートルの線路を走らせる「ミニ運転列車」(1回200円)も。鉄道システムを学ぶプログラムでは、列車のドアの開閉体験など、車掌気分が味わえる。
また、旧「交通博物館」から新幹線(200系)や山手線(205系)など人気運転シミュレータ(無料)を移設。ファンに喜ばれそうだ。
◆鉄道博物館ヒストリーゾーンの注目の展示車両◆ |
---|
★150形式蒸気機関車=明治5年に新橋〜横浜間に開業した日本初の鉄道に使われた10両のうちの1両。重要文化財・鉄道記念物に指定。明治4年に英国で製造、平均運転速度は時速約30キロ。機関車本体に水や石炭を載せるタンク式で、今の鉄道車両に比べると車体が小型 |
★1290形式蒸気機関車「善光号」=明治24年、日本初の私鉄で、現在のJR東日本路線の多くを建設・運営していた日本鉄道が上野〜熊谷間建設のために英国から輸入した鉄道工事用小型機関車。レールの下にピットが設置されており、下部構造を見ることができる |
★ED17形式直流電気機関車=大正14年、日本の幹線電化の先がけとなった東京〜小田原間に登場した英国製の電気機関車。前頭部にデッキがない箱形車体のスマートな外観が特徴 |
★ナデ6110形式電車=大正3年に初めて製造され、昭和にかけて活躍した国産最古の大型木造電車。窓側に1列に座席が並ぶロングシートを採用するなど都市型電車の原型。木造車体は漆塗り技術で塗装 |
★オハ31形式三等客車=昭和2年に製造の日本初の鋼製客車。車体長が17メートルと小型で、戦後、青森県の津軽鉄道に譲渡。同鉄道で、昭和58年までストーブ列車として活躍、人気を博した |
★クモハ40形式客車=昭和7年に大阪地区、翌年に東京地区に登場したラッシュ対応の通勤型電車。ロングシートや自動扉などを標準装備。現在の標準的な車体長の20メートルを初めて採用 |
★キハ41000 形式気動車=昭和9年製造の国鉄初の本格的大型ガソリン気動車(客車自体に動力装置をつけて走る車両)。ローカル線で活躍 |
★ナハネフ22形式客車=昭和33年に登場したブルートレインの元祖で「走るホテル」と呼ばれた特急「あさかぜ」号に連結される3等寝台(後のB寝台)車両で、昭和39年から使用された |
★222形式新幹線電車=昭和57年に開業した東北・上越新幹線用の初代先頭車 |
★御料車=明治9年製造の明治天皇専用の「初代第1号御料車」(重要文化財・鉄道記念物)、大正4年に大正天皇が即位の御大礼のために東京から京都へ行幸される目的で新設された4両の中で、漆塗りで螺鈿や蒔絵細工が施された扉や絹張りの内装など、最も豪華な「7号御料車 御料客車」、大正11年製造の、唯一展望室がある国賓用の「10号御料車 御料客車」など6両を展示 |
【ガイド】
開館時間は10〜18時、毎週火曜日および年末年始休館(年内は12月28日まで無休)。入館料大人1000円、小中高生500円、幼児200円。交通はJR大宮駅から埼玉新都市交通「鉄道博物館駅」(旧大成駅)下車、徒歩1分。問い合わせは同館TEL048・651・0088。