◎住宅着工数の減少 厳格化と効率化の両立を
耐震偽装の再発防止を目的とした着工前審査の厳格化で、石川県と富山県の七、八月の
新設住宅着工戸数がともに二カ月連続で二けた台も下落したのは、地域経済にとって新たな不安材料だ。事務処理に不慣れなための一時的な遅れというが、住宅着工戸数は、景気の「体温」を測る指標とされるほど、経済波及効果が高いだけに、景気への悪影響が心配される。
審査の厳格化によって、二度と偽装事件を起こさぬようにしなければならないが、事務
処理を必要以上に煩雑化させていないかどうか、総点検をしてもよいのではないか。厳格化と煩雑化は必ずしもイコールではない。チェックを厳しくすると同時に、効率化にも十分配慮し、両者の両立を図る知恵が求められる。
国土交通省がまとめた八月の新設住宅着工戸数によると、石川県の新設住宅着工戸数は
、前年同月比24・2%減と大幅に減った。七月の38・6%減に比べると、いくらかましになったとはいえ、これほどの下落幅が続くのは異常である。富山県も石川県ほどではないにせよ、八月は19・1%減、七月は15・9%と大幅下落が続いている。住宅着工がこんな状態では、北陸の個人消費に影響が出てくるのは避けられまい。
大幅減の原因は、耐震偽装問題を受けて、今年六月から改正建築基準法が施行され、審
査期間が延びるなどの影響が出ているためである。設計側は法改正で提出書類に加えられた構造計算概要書の作成などに手間取り、これを受け付ける行政の側も膨大な書類の審査がなかなか進まないという。国交省側は「一時的な混乱であり、いずれ元に戻る」としているが、日本建築士事務所協会連合会は、混乱が長引くとの見方を示している。
改正建築基準法では、マンションなど大規模な建物の構造計算を二重チェックし、慣例
化していた申請後の修正を認めないなど、建築確認を厳しくした。耐震偽装事件の反省から生まれた改正だが、建築確認の現場が混乱状態にあるのは見過ごせない。全国的には住宅着工の延期が相次いでおり、七―九月のGDP(国内総生産)を相当程度押し下げるのは確実だろう。建築確認の厳格化で増えた事務作業を効率化していく工夫が必要だ。
◎全国学力テスト 応用力も高い学校公表を
文部科学省が今年四月、小学六年生と中学三年生の全員を対象に四十三年ぶりに実施し
た全国学力テストの平均正答率の概要が分かったとして、それが報道された。やはりそうかという感想を持たされるものだった。すなわち、小中学校いずれも各教科で基礎知識を問う問題は予想を上回る約70―80%に達したが、応用力をみる問題では、それより10―20ポイント程度低い約60―70%だったのだ。
文科省は「成績ランキング」に転用できる情報は公表しないとしており、都道府県教育
委員会にもそうするよう通達している。が、「応用力も(・)高い」学校については、その指導法は他の学校にとって参考になるはずだ。百歩譲って学校名は伏せてもいいから、何らかのかたちで公表してほしいものだ。
教えられた知識がどれだけ身についているかをみる問題はそれなりにできるけれども、
教えられた知識の応用となると、相当に問題があるというのは日本の学校教育の弱点といわれてきた。公表された概要からすると、その弱点はなお克服されていないと考えざるを得ない。
が、応用になると、思ったようにいかないのは日本だけか。そうではないと思う。たと
えば、米国に留学したことのある人が必ずといっていいほど口にすることがある。それは「自ら学ぶ」ということを非常に大事にして、そのための指導に力を入れているということである。
教えられる側からすると、教育には「学ぶことを学ぶ」という面と、もっぱら詰め込ま
れる「教えられる」という面とがあるといわれる。英語でいえば、前者は「learning」で、応用力を鍛えることにつながり、後者は「teaching」であり、知識を教えてもらうことといえる。
米国がlearningを重くみているというのは、応用力を鍛えることの難しさを知
ってのことだろうと思う。言い換えれば、教育の弱点を正視し、それを克服するために頑張っていると考えることができる。
弱点を克服する指導法とはどんなものかを公表してこそ学校教育が改善されるのではな
いか。序列化を恐れてそうした急所を公表しないのは間違いに思われるのだ。