狂犬病予防法が義務付ける年1回のワクチン接種率が、岡山県内で低下の一途をたどっている。2006年度は、全国ワースト2の05年度に続いて約6割。国内での感染例は1957年以降、確認されていないが、専門家は「外国から密輸された動物に未接種の犬がかまれて、感染が拡大する恐れもある」と危機感を強めており、飼い主のモラル向上や制度の周知徹底が急がれる。
県によると、06年度に飼い犬として登録された約4万9000匹のうち、接種済みは3万匹弱で接種率60・7%。記録の残る92年度(99・1%)から下降線をたどり続け、05年度の61・8%は沖縄県に次ぐ低さ。世界保健機関(WHO)は、まん延防止の目安に「接種率70%」を掲げているが、県生活衛生課の担当者は「県内の接種率は向上の兆しが見えない」と頭を抱える。
理解不足も
ワクチン接種は、50年施行の狂犬病予防法で義務付けられた。06年には京都、横浜市の男性がフィリピンで犬にかまれ、帰国後に発症、70年以来36年ぶりの死亡例となった。しかし、国内では半世紀にわたり発生がなく、狂犬病に詳しい日本大生物資源科学部長の酒井健夫教授は「飼い主の危機意識の低下が接種率を引き下げている」と指摘する。
制度の理解不足も背景の一つとして挙げられる。県獣医師会と市町村による集合注射(4―6月ごろ実施)を受ければ、自動的に「注射済み」として登録されるが、動物病院で接種する場合、多くのケースで病院の証明書を登録窓口の市町村に提出しなければならない。このため、「手間を嫌って予防接種を受けなかったり、証明書を提出しない飼い主も多い」(ある獣医師)という。
啓発へ講習会
接種率低下を防ぐには、自治体が制度の趣旨をPRした上で、どう対策を打ち出すのかが鍵を握る。
狂犬病予防法は、未接種の飼い主らに20万円以下の罰金を科すが、05年度に接種率全国一だった長野県(94・8%)は、未接種の飼い主に督促状を送付。岡山県は8月、予防接種事務を担う市町村の担当職員を動物愛護推進員に委嘱し、講習会を開くなど対策に乗り出した。
韓国では90年代、野生のタヌキから犬や家畜を通じ、狂犬病が再びまん延したケースがある。
酒井教授は「日本でも外国船員が犬を不法に上陸させたり、リスなどげっ歯類の密輸が増えており、狂犬病がいつ発生してもおかしくない。“防波堤”となるワクチン接種は愛犬家の最低限のマナー」と強調する。