今夏は昨夏よりももっとできるはず、と思っていたらそうでもなかった。病後が思わしくないどころか、カイロ1年分の疲労が噴出してきたらしく気力もブッツリ切れた感もある。今年の夏期集中プログラムは昨年度に比べると値上がりしているにもかかわらず、この質の低下は一体何なんだろう。通年プログラムに比べても異常に変だし、最後の最後で出し抜かれた気すらする。教科書も買わなくていいはずだったのに買わざるを得なくなったので、改訂版が出たけどカイロ未入荷の現代標準アラビア語の旧版ものに、エジプトの習慣と伝統を解説した薄い本と音が悪いCDと今夏が終われば使いもしないものに1万円もスッた。

 

やたらと宿題を出す現代標準アラビア語。

どういうわけか今年から教科書が悪名高いシリーズに変わったので悪問が宿題になる。問題文が分かりづらく、意図を読み取るのに時間が掛かる。おかしな条件が付いた作文問題で死ぬ。文法とかはそんなに難しいことはやってないのに、あまりにもアメリカ人に偏向して作られている教科書なだけに設問やプレゼンテーションをしろとかいう課題は日本人の私には妙にきついものもかなりある。アメリカに住んだことがあるとか、アメリカで勉強してればなんとかなるのかも知れないが、私は足かけ2年も中東にいるわけでアメリカ人だけが対応できるようなネタから作られた問題が私に対応できるはずもない。アメリカ映画を1本選んでクイズみたいなプレゼンをしろと言われても、映画をちゃんと見られるような環境には置かれていないしアメリカ映画にも興味がほとんどないからさっぱりだった(結局自分はやらなくていいことになった)。アメリカ人なら誰でも知っているらしい映画の説明をされても、ほとんどさっぱりわからない。「すんませんねぇ」という気持ちと、「アメリカ人になれって言うのかよ」という気持ちが交錯する。8人くらいクラスにいるのだが、私以外は全員今夏だけの短期滞在アメリカ人。1人しかいない長期滞在の珍種日本人に配慮するよりも、名門大学に在籍していて有力な教授の指導を受けていることが明白なほうにペースを合わせて授業をしているので、私にとっては異常に質の悪い宿題が頭痛の種であること以外得るものがない。10分ほどのビデオ制作という課題も、「正味5週間で何をしろというのか」と思ってしまう。狂気の沙汰としか思えない。

 

あまりにも退屈なカイロ方言。

上級レベルというのが嘘のようで、本当につまらない。周りのアメリカ人のカイロ方言が下手すぎて何を言っているか私は理解できない。誰の目にも明らかなほど退屈そうな顔をしているらしくて、先生は私に喋らせようとなにかと仕向けてくる。今日なんか「タクシーの運転手とかエジプト人に結婚してるかとか聞かれたらなんて言うか」を聞かれたのだが、「あんたに関係ない」と言うと言ったら他のアメリカ人は凍り付いていた。短期滞在の奴は旅行気分なんで、足かけ2年もアラブ圏に住んでいる日本人女の対応策はあまりにもきつかったらしい。「楽しいカイロ方言での会話の様子」を期待していたであろうエジプト人の先生は予想外の返答にたじたじだったが、先生自身が最もアラブ人からは下に見られて誤解を受けているイエローの女の現実と私の対処法を全く知らなかったからだろう。夏だけで帰るとか、エジプト初めてといった学生はともかく、私には今さらお楽しみ気分なんてない。アラビア語を話して通じたからうれしいというのももはや消えている。しかも話しかけられることで災難に巻き込まれる可能性は極めて高いことを体験的に知っているからタクシーの運転手やその場その場で出くわした相手と必要ない会話はしないだけである。「エジプトの国際結婚」とかいうネタは、詐欺などと直結している場合が多い現実を私は知っているので問答無用。議論の余地はない。教科書は先生の自著だが、その中身はと言えばカイロ方言に猛烈に現代標準アラビア語が混ざっていたりする。CDが特にそうで、かなりすごいノイズにまぜこぜアラビア語なので聞きにくいことこの上ない。

 

そんなこんなで、夏の勉強に来たというよりも旅行しまくって遊びたいアメリカ人の皆様の浮かれた気持ちと先生の妙な期待感をぶっ壊す発言が多くなりつつあるのだが、まあそれも私の知ったことではない。今さらアラブ世界の素人を期待されると癇に障る。病気からはなんとなく回復しても、疲労は異常に溜まり続けているから元気ではない。電池はもう切れているにも等しいし、リモコンの電池なら電池蓋を開けてグルグルするとちょっと復活してまたしばらく使えるけど、その程度の電力では中東生活には到底足りない。試験が終わる1ヶ月後まで持ちこたえられそうにない。