紙端国体劇場デジタル

ゆるかったりゆるくなかったり鉄道だったりを擬人化して遊んでる隅っこサークル。
全裸大好きな管理人が羞恥心に負けて半裸で営業するブログです。
意味のわからない人は、アレだ、とりあえず脱げ。
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東海道先輩と長野新幹線
上空、と言っても宿舎二階のベランダなのだが、そこではためく、事実上そこにあってはいけないであろうものがその部屋の主の粗相具合を静かに伝えていた。
一階の庭で歯磨きをしながら秋の陽気を暢気に堪能していた山陽は顔を上げた瞬間のその様子ににふと視線を止める。じっと見詰めて、また視線を元に戻した。何事も無かったかのように止めていた手の動きを再開させる。ああまたやった、あいつ。
三時過ぎになればまるで突然の惨事に運休した時のような、悲壮な顔をした彼に会うことが出来るだろう。生憎と趣味じゃないので見学に行く気はさらさら無いが。
今日は絶好の掃除日和だから、そう思いながら足を出てきた一階のベランダに向け、同時にぼんやりと彼のことを考える。せめて上越に見付からなければいいな、とは彼なりの思いやりだった。


気温も落ち着いてきた午後三時、先ほど山陽が見上げた部屋で予想通りの主はがっくりと項垂れていた。彼が両手で握り締めている見るも無残なカシミアのセーターが、その人の嘆きの理由を全て伝えていた。彼は洗濯表示が読めないのだ。
否、読めないという訳ではない、彼は国語も漢字も古文も、はたまた理数学の小難しい公式も全て理解できる堪能な頭脳を持っている。そんな彼が読めない、というのは図形のことであった。きちんと言語で説明されていることは理解できる、が、図柄で表現されていることはとんと解らない。彼は美術や芸術関係に兎に角疎かった。生きていく上で、必要なかったので。
先日もドライマークの秋物をごっそり洗いまくったばかりだった彼は、それにもめげずに本日再度の失敗を繰り返した。何故そんなに何度も馬鹿なことを繰り返すのかと言われれば、彼は人一倍プライドが高く、己の失敗談を知人や同僚との談笑の糧として与えるのを良しとしなかったからだ。
他人に言うことが無ければ聞くことすら出来ない彼の性格は、只只同じ失敗を繰り返す無限ループに陥りやすいものだった。
しかしながら何度も繰り返す失敗に周囲は薄々気付いてはいたのだけれど、彼のプライドを傷付けないようにあえて気付かない振りを続けていた。結果、可哀想な衣類たちが季節の変わり目の度に大量発生することになる。
毎回繰り返すならもういっそ全てをクリーニングに任せればいいのに、悲しいかな彼は負けず嫌いでもあったのだ。
「どうしてだ…これは何のマークなんだ…一体何を間違ったんだ…」
正座したままぶつぶつと文句を言い続ける背中は悲壮感に溢れていて、相当の手腕で無い限りは声を掛けることすら憚られた。窓から見える秋色の空とは雲泥の差を誇る室内に足を踏み入れようと云う勇者は早々現れる事は無かったのだ、ただ一人を除いては。

「とうかいどうせんぱいっ!」
ガチャ、というドアノブの音と共に御歳十歳くらいの子供が顔を出した。休日なのかトレーナーにハーフパンツのラフな格好で子供特有の遠慮の無さでどかどか部屋に乗り込んでくる。振り返った彼が思わず持っていたセーターを両手で背中に隠した。慌ててどもらないように一度、気付かれない程度の深呼吸をする。
「なんだ長野、何か用か」
「とうかいどうせんぱいっこれ作ってください!」
「これ……?」
「かっぷらーめんです!」
長野が両手で差し出したのはよくCMで見るお湯を注ぐだけの簡単食材だった。反射的に差し出された物を手に取ってしまい、まじまじと眺める。
「作るのか…?」
「はい!」
「こんなものを食わずとも食堂があるじゃないか」
「食べてみたいんです!」
ふぅん、と納得したようなしないような曖昧な言葉を口から発し、パッケージに書かれている模様のような文字を追う。何だか解らない添加物表示に紛れて簡素な作り方が書いてあった。こんなに小さく書かれていて他の人間は探し出せるのだろうか。
「お湯を注いで三分間待ってください…」
「三分ですかっ?早いですね!」
「いや…三分ぐらいは普通だろう…」
多分、と心の中で付け加える。多分、そう、よくよく聞くフレーズじゃないか、カップラーメンが出来る内に〜とか何とか、確か、聞いたことあるような。表示を目で追いながらくるりとカップを一周させた。それ以外に作り方らしい作り方は乗っていない。ふたの部分に「ここまで」の表示が入っているが、一体何がここまでなのか。
お湯を注いで三分待ってください。
「お湯を注いで三分待つそうだ」
「さっき聞きました」
「やってみればいいだろう」
「だから、よくわからないから、せんぱいも一緒に作ってください!」
長野の、子供特有のキラキラした目が自分を見詰めている。疑いようも無いまっすぐな目だ。彼の思考の中で「とうかいどうせんぱい」は絶対で、彼に聞けば宇宙の創生すら語ってくれるだろうという、全てを信じきった目。思わず横に逸らしそうになった視線を必死の思いで食い止めた。
「わかっ、た。今からお湯を作るから…」
「お湯ならぼくの部屋にあります!」
行きましょう!と長野が東海道の手を引っ張った。思わず身体が後ろに引いてしまったのを気付かれないように腰を上げる、と、背中に隠していた可哀想なカシミアのセーターが顔を覗かせてしまい、焦ってそれをベットの上に投げ置いた。立ち上がる拍子に掛け布団の中に紛れ込ませ、気付かれないように証拠隠滅を測る。あとでこっそり捨てなければならない、次回の燃えるごみの…いや資源ゴミか…?衣類だからリサイクルかもしれない。もしリサイクルだった場合一ヶ月に一度だ、それまで隠し通せるかどうか。
「とうかいどうせんぱい?」
どうしたんですか?と言いたげな長野の問い掛けにふと我に返った東海道は「ああ、うん」という曖昧な返事をしつつ長野の背を押した。「とりあえずお湯がいるんだろう?」
「そうです!お湯なんです!」
いっぱい作っておきました!と元気に答える長野を先に部屋から出し、後ろ手にドアを閉めると普段は余り掛けない鍵をしっかりと掛ける。二度ほど鍵の掛かりを確認してから数歩先で待つ長野を振り返った。
「お湯を注いで三分間待ってください……」
「三分ですよ!せんぱい!!」
東海道が無意識に呟いた言葉に長野が笑顔で返した。


お湯を注ぐということは、つまりを持ってして蓋を開けるということだろう。それは間違っていなかったはずだ。では何が違ったのか、否、足らなかったのか。
そもそもが解り難い作りなのだ。お湯を注ぐにもどれだけ入れればいいのか解らない。目安の線すら入っていないのでは解りようが無いではないか。説明も作りも説明不足だ、消費者に作り方を解りやすく説明するのが生産者の勤めでは無いのか。第一にそれを放棄しているのが気に食わない。JRだったら即刻クレーム物の全体会議だ。
「とうかいどうせんぱい…」
伸びたり固まりのままだったりする麺をとりあえず突付いていた長野が沈んだ声を出した。その声が余りにもしょんぼりとしていたので落ち込んでいた気持ちがうろたえに変わってしまう。何かを伝えようとして口を開き、しかし伝えらる言葉を捜せずにそのまま閉ざした。周囲には重い沈黙。
「とうかいどうせんぱい、硬いです」
あと柔らかいし、濃いし、薄いし、まずいです…。ぽつぽつと伝えてくる長野の声が段々と震えていくのを感じた。そっと盗み見た先で必死に涙を堪えている姿を見付ける。思わず顔を逸らした先にあった電気ポットを、攻めるように睨み付けた。ひょっとして悪いのはこれかも知れないのだし。
「とうかいどうせんぱい……」
涙声の子供に責められているような錯覚に陥って、同時に年端も行かない子供を泣かせている自分自身をどうしようもなく恥じた、と、今度は自分の目頭も熱くなった。元より涙腺が強いほうじゃない。長野から電気ポットに移した視線を強め、流れそうになる涙を必死に堪える。こんな所で。というか、こんなことで、情けない。
「なが…」
名前を呼ぼうとして、しかし自分の声が揺れている事に気付いて口を噤んだ。すまない長野、泣かせるつもりじゃなかった。カップラーメンくらい簡単に作れるものだと思っていたんだ、わたしは簡易食品を舐めていた。簡易とは名ばかりの、どうしょうもなく困難な食べ物だと、今更気付いた。次からはもっと勉強して、難しいかもしれないけれど努力してカップラーメンも作れるようになるから。
撫でようと伸ばした先で小さな頭が俯いた。すんっと鼻を鳴らす音が聞こえる。この目の前の小さな生き物の楽しみを奪ったのが自分だとは考えたくなかった。
「……やまっ……やまがたっ…やまがた…山形!」
ふらりと後ろに傾いた身体をキッチンの端で支え、その腕を軸にくるりと反転した。動揺する気持ちのまま勢いよく部屋のドアを開け、靴を履くのすら忘れて外に飛び出す。目的の部屋は良く知った並びの先にあった。
「やまがたっ…!!」
鍵の掛かっていないドアを勢いよく開け、そのまま部屋に中に飛び込む。椅子に座って音楽を聴いていたらしい山形が驚いたように僅かに目を瞬かせた。動揺する気持ちのまま正面から飛びついた、というか抱き付いた。首に手を回してきつく身体を合わせたらヘッドホンが落ちて鈍い音を立てながら部屋の中を転がった。そこから僅かに信号音のような音が漏れていた。
真正面で突如膝に乗って着た東海道が、抱き付いた姿勢のまま小さく震えている。それを静める様にそっと背中に手を回し、ゆっくり二度ほど撫でた。震える東海道が、耳元で小さく、山形、と名前を呼んだ。

「カップラーメンの作り方を教えてくれ」


「すごいです!おいしいですよ!とうかいどうせんぱい!!」
長野が嬉しそうに声を弾ませながらニコニコ笑ってカップの中身をすすっている。それを正面で見ながら小さな頭を撫で「そうがぁ、よがったなぁ」と返す山形の姿。それを少し離れた場所で見守る東海道の姿。
笑いながら東海道を見詰める無邪気な長野の視線に、微笑み返したつもりが苦笑いになるのを抑えられなかったのは、当然東海道の方だ。
「とうかいどうせんぱいも食べますか?おいしいですよ!本当ですよ!」
「いやわたしは…さっき食べたばかりだから」
嘘だ。だが気持ちは食べたつもりだった。というか知られざる満腹感で一杯だ。
あれから山形は三十秒ほど考えた様子で動きが止まり、その後は特に驚いた様子も無く行動を始めた。山陽の所に出向き買い置きのカップラーメンを調達し、その足で長野の部屋へ行き未だ泣いていた長野を慰め、彼が握っているカップラーメンを簡単に処分し、新しいのを作り上げた。今現在長野がニコニコしながら食べているのは山陽の買い置きを山形が調理したカップラーメンだった。
視線を長野から山形に移すとそれに気付いた彼が視線を合わせ、小さく笑んだ。そのままゆっくり東海道のほうへ歩み寄ってくる。何事か、と思った東海道がそのままの視線で彼の姿を追っていると、何故か鼻先五センチの距離まで接近された。思わず頭を後ろに逸らす、と右手でそれを阻止された。
彼の唇が自分の唇に触れる寸前で静かに右頬へ通過し、耳元に届いた。
「ウールもんはクリーニングさ出すのが懸命だべ」
「う…あ…?」
「洗濯、苦手ってんなら、オレがしてやんべ。今度から持っで来い」
「あ…う……」
囁かれた耳が熱いのか、それとも内容に羞恥しているのか。囁かれた東海道の顔は今まで見たことも無いほど赤くなっていた。


| ■ひっそりとなにか | 04:39 | - | - |
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