認定こども園制度から1年

2007/10/11

 保育所と幼稚園の機能を一体化した総合施設「認定こども園」制度がスタートして十月で丸一年が過ぎた。少子化や共働き家庭の増加により多様化する保育・教育ニーズの受け皿として期待される一方、利用料の設定や会計事務の煩雑さに戸惑っている施設や、国の財政補助がないために、継続的な運営に不安を抱く施設も少なくない。現状と課題をまとめた。(坂口紘美)

ニーズ多様化に対応/利用料設定などに課題

 児童福祉の観点から厚生労働省が所管する保育所と、幼児教育を目的に文部科学省が管轄する幼稚園、新たに生まれた認定こども園は、それぞれ利用手続きが異なる=図。保育所は、保護者が働いているなどの理由で家庭での保育が行き届かない「保育に欠ける」ゼロ―五歳児が対象で、入園の申し込みや利用料の支払いは市町村に行う。利用料は所得に応じて定められている。一方、幼稚園は保護者がいつも子どもを見守れる状態で家庭での保育が行き届く「保育に欠けない」三―五歳児が対象。入園の申し込みや利用料の支払いは園に直接し、利用料は所得に関係なく園が一律に決める。認定こども園も直接契約で利用料は園が設定。だが、保育に欠ける家庭に対しては、市町村が定める所得に応じた階層制をとる所が大多数だ。

〈認定こども園〉 親の就労の有無にかかわらず、0―5歳のすべての子どもを対象にし、地域の子育て支援も担う。認定は条例に基づき都道府県が行う。認可保育所が幼稚園の機能を持つ「保育所型」、その逆の「幼稚園型」、保育所と幼稚園が連携する「幼保連携型」、認可外の保育施設が新設する「地方裁量型」の4タイプに分けられる。


兵庫は最多の12施設

国の財政補助なし 全国1000件が無申請

 厚生労働省によると、八月一日時点での認定こども園数は全国で百五件。兵庫県には「地方裁量型」を除いて神戸市や尼崎市などに十二施設あり、全国で最も多い。

 一方、幼稚園に認可外保育施設を設けていたり、保育所と幼稚園が併設され、施設を共用していたりするケースなど、実際は「幼保一元化」しながら認定こども園の認定申請をしていない施設が、全国に約千件あるとされている。兵庫県内にも郡部を中心に公立七カ所、私立が一カ所ある。

 県少子局児童課は「認定こども園に地域の子育て支援への取り組みが義務づけられていることや、国の財政補助がない上、公立の場合、認定されても県から運営費補助が出ないことなどが、申請に結びつかない理由になっているのではないか」と分析する。


好評の半面「試行錯誤」

認定こども園制度の導入で、幼稚園に通えるようになった3、4歳児。友達と食べる給食は格別なようだ=朝来市和田山町、認定こども園市立寺内保育所

▼幼保連携型

 「友達とご飯食べるの、楽しい!」

 朝来市和田山町の認定こども園「市立寺内保育所」。短時間保育の三、四歳児十五人が遊戯室で給食を食べていた。同園は四月、約八十メートル先にある市立寺内幼稚園と連携する形でスタート。これまで幼稚園に通えなかった和田山地域の三、四歳児にも門戸が開かれた。

 保護者からは「近所に同年代の子がいないので助かる」「自分の時間が持て、子育てに余裕が出てきた」などの声が寄せられ、おおむね好評という。

 そもそものきっかけを同市教委幼児対策室の高階通雄室長は「旧朝来郡四町の合併で、幼稚園の入園年齢に地域差が生じたこと」。同市では、旧町時代の名残で幼稚園の対象年齢が和田山、山東地域で五歳のみ、朝来地域で四、五歳、生野地域で三―五歳となっている。

 「少子化で公立保育所・幼稚園はどこも定員割れ。集団の確保と、行革の視点からも認定こども園が問題解決の糸口になる可能性はある。まず、既存施設を生かして寺内で試みることになった」と高階室長。

 しかし、運営面では課題が多い。寺内保育所の山田啓子所長は「この半年は試行錯誤の連続」と打ち明ける。

 「既存施設はどちらも手狭で、子どもたちに保育所と幼稚園を頻繁に行き来させている。年齢や保育時間別に一時的にクラス編成を変えて対応することもあり、一体的、効率的な保育という意味で疑問」。また、保育所と幼稚園の給食の供給元が違うため、週末や長期休暇のみ保育所の給食を利用する長時間保育の五歳児の給食費の計算が、非常に煩雑という。

 

利用者負担の差に疑問

▼保育所型

 「理念は賛成だが、時代の変化に制度がついて行ってないのが問題」と強調するのは、姫路市豊富町の認定こども園「私立はぎ保育園」の萩原勝義理事長。同園は四月、保育に欠けない二―五歳児七十人を新たに受け入れた。

 「すべての子どもに保育と幼児教育を―ということであれば、保育に欠ける・欠けないで利用料に差を付けるのはおかしな話。まして今の時代、幼稚園より保育所に通わせる家庭の方が高収入の場合が多い。保育に欠ける子にだけ税金を投入するのはどうか」と疑問を投げかける。

 同園では、保育に欠けない家庭にも源泉徴収票を出してもらい、保育に欠ける家庭の負担と同程度になるよう利用料を設定している。

 「保育所は厚労省、幼稚園は文科省という縦割りを、認定こども園にも持ち込むのは制度浸透を遅らせる」と萩原理事長は心配する。

 また、保育所型の園では、これまで市町村がしていた利用料の徴収や入園手続きを担うことになり、事務量が急増した。しかし、一方で「保護者から直接、利用料を集めるようになり、未納者がいなくなった」とメリットも明かす。

 

持続できる制度設計を

▼幼稚園型

 認定こども園制度の導入で、保育所や幼稚園が新たに機能を追加しても、その部分に対する国の補助はない。兵庫県は独自に私立の認定こども園に対して、運営費の一部を助成しているが、三田市弥生が丘五、認定こども園「私立やよい幼稚園」の川田長嗣理事長は「額としては不十分で、今は県のほかの補助制度をいくつか組み合わせて、やりくりしている状況。国には持続可能な制度設計をしてほしい」と訴える。

[ BACK ] 


Copyright(C) 2007 The Kobe Shimbun All Rights Reserved.