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運行最終日、下校のためバスに乗り込む小学生たち。利用者は少なかった=大村市宮代町で |
◇大村バス撤退 住民困惑
大村市内を走る路線バス「大村バス」が経営難を理由に突然、全4路線を廃止し、沿線住民に困惑が広がっている。運行していた地元の運送会社は、規制緩和で05年春にバス事業に新規参入したばかり。生活の足となるはずの公共交通機関が、わずか2年半で撤退に追い込まれたことで、「民間参入」のあり方にも課題を残した。(仙崎信一)
◇規制緩和で参入 負の側面、表に
「今日で終わりとですってね」「寂しかねえ」
運行最終日の10日午後。繁華街を走る大村バスの車内に、廃止を惜しむなじみ客の声が響いた。29人乗りだが、客はわずか6人。ほとんどがお年寄りだ。
この路線は、山あいの大村市萱瀬(かや・ぜ)地区から、市役所近くの大型スーパーまでの約10キロを結んでいた。人口は約2千人で、高齢化率も高い。買い物や病院通いなど、交通手段のないお年寄りにとって、なくてはならない生活の足だった。
大村バスが運行していた4路線のうち3路線は萱瀬地区を通るルート。「これから、どうしようかねえ」。バスの最前列に座る高齢の女性2人が、ため息混じりに顔を見合わせた。
バスを運行していた同市の運送会社「長崎建運」は9日、運輸局に全路線の廃止届を出し、翌10日を最後に運行を中止した。事前の予告はなく、市民には「少なくとも11月上旬までは運行する」との情報が伝わっていた。
◇通学の便 来年3月までは確保
市は萱瀬地区の小、中学の通学の足を確保するため、急きょ県営バスに臨時運行を委託。約20人の小中学生が使う黒木―坂口線に限り、来年3月末まで1日6往復の運行を維持することにした。
ただ、この路線は以前、県営バスが運行していたが、赤字続きで撤退した経緯がある。萱瀬小の徳川敬文教頭(46)は「先行きが見えず、不安は消えない」とこぼした。
長崎建運がバス事業に参入したのは05年4月。県営バスが赤字を理由に撤退した萱瀬地区の「足」を守るのが目的だった。
同社は、市議が実質的なオーナーを務める建設会社を中核とするグループ会社のひとつ。市議は萱瀬地区で長年会社を経営していたこともあり、同社関係者は「支援者が多く、地域に貢献したかった」と明かす。
◇産廃処分場頓挫で行き詰まる
しかし、乗客数は伸び悩み、年間の赤字額は約2千万円。当初は建設会社の利益でバスの赤字分を埋める腹づもりだったが、公共事業削減の影響で、建設会社の経営も悪化した。
加えて、同社関係者の話では「頼みの綱としていた萱瀬地区での産業廃棄物最終処分場が反対運動にあって許可が下りず、行き詰まってしまった」。
同社は市に支援を要請したが、「補助金は求めない」と言って参入した経緯もあり、実現しなかった。最後はバスのリース代も払えなくなった。
乗り合いバス事業は02年の道路運送法改正で免許制から許可制に変更された。一定の条件を満たせば許可が下りるため、民間参入が容易になり、九州では04年以降、大村バスのほか熊本と鹿児島で3事業者が新規参入した。この中で路線廃止は初めてだ。
九州運輸局によると、路線の廃止や休止には、半年前の届け出が義務づけられているが、このルールを無視した撤退は全国でも例がないという。
大村市交通政策課の平本一彦課長は「規制緩和が必ずしも良い方向に働くとは言えないことを示したのではないか」と話す。
一方、ながさき地域政策研究所(長崎市)の菊森淳文常務理事は「デメリットも起こりうるのが規制緩和。行政もこうした事態を想定して、常にチェックしておくことが必要だ」と指摘した。