RD-Style の企画は、もともと僕の音楽好きから始まったものといえるかもしれません。
自宅のビデオテープは2000本、C D は5000枚ある。テープの大半は音楽なんですね。音楽は多様化していて趣味で分かれるので、C D を100万枚売れる力もあるアーティストでも、ビデオは10万本という世界です。
ビジネスという観点でいうと、音楽とビデオソフトの相性は悪かったんですね。 そしてユーザとしては、好きなアーティストが出演した TV 番組の、その部分だけを録画してコレクションしておきたい。しかし、自分で使いこなすにはどこに何が入ってるかの管理がポイントというかネックになる。
音楽番組で使いものになる録画機をつくるには、どうしたらいいのだろう。これが僕の出発点。
仲間が大好きな海外アーティストを来日させ、その録音を頼まれたりして、ライブハウスでマイクを立ててレコーディング。C D にしてアーチスト本人に渡したりします。ボランティアでイベントのPA(音響の設定)をやったり。ともかく人生は音楽中心にあるんです。でも楽しみだけではなく、そこで学んだことも大きい。
特にモノをつくるという時にはエゴがでる。個々にこだわる部分が異なるし、使い方も全部違う。
仕事も同じ。いってみれば1人1人が「いろいろなこだわりを持った塊」になるのだ。僕はこの塊の真ん中にいて、コミュニケーションしながら調整していく。これが僕の商品企画上の立場なんですね。
もう1つ音楽と共に忘れてはならないのがSF好きという側面です。SFというと一般には宇宙船が飛びかうアクションものなどをイメージする人が多いかもしれませんが、どちらかというと心理学とか社会学、文化人類学、神話・伝説などがベースになっている人文科学系のものが好きです。そして、サイバーパンクや最近の量子力学系、軽めのものも入れて1700冊くらいあります。
同様にSF漫画好きで、特に70年代から80年代に名作を残した女流漫画家を好んで読んでいます。その延長線上にSFアニメ好きがあり、これが音楽に続く RD-Style の用途です。
主な作品はほとんど見ているつもりですが、見ていない興味深い作品が続々と登場する今、ビデオテープで苦労していた問題の解決と、世界観のある作品をライブラリ化するための手段としても RD-Style が必然だったわけです。私のまわりにはこのような人はたくさんいますので、同じニーズのある方には共感いただいているのではないでしようか。
初めての我が子と言える商品は RD です。その前は DVD 規格の立ちあげ、さらに前は東芝初のWebサイトを立ちあげ、広告部でビデオデッキ ARENA の宣伝を担当。もっと前、実は入社時の販売実習で1ヵ月だけど量販店のビデオ売り場にいた。なんだか運命的でしょう。
そこで、「どうやって東芝を売ろうか」。お客様の反応を肌で感じた経験が今も生きています。
とみると、過去にやってきたコトの集大成が RD の仕事に生きているといえますね。
いってみれば僕は人間関係部門を担当している。いろいろな人の意見がぶつかり合う RD に組み込むソフトウエア、ユーザビリティ、市場調査、広告・宣伝の媒体戦略、取材対応とPR。また仕様の取りまとめとか、こんな機能を付けられないかといったアイデア出し。仕掛け役と調整役の両方をやる。すべてが正反対も含めた極大のレンジのなかで、どこを落とし、どう組み合わせるか。
しかも対外的なアウトプットにも PR というスタンスで関わっている。それは、RD の記事を書くときには単なるハードではなく、作った人々のこだわりを思い出してもらえたらと思うから。そのために、興味を持ってもらえるストーリーを10くらい用意して会いにいったこともある。それで、東芝のこだわりや商品のスピリットが伝われば、それまでしてきたことの意味がある。
僕は人と人を仲介するインターフェース、翻訳者であろうと思っている。
操作性はシンプルに使いやすくしよう、と誰もが言い、でも同じ人が、少し使っていくと、やっぱりさらにこんな機能が必要だよね、とか言う。そういった相反する<こだわり>を全部集めて、主要メンバーで咀嚼して順番を付けて実現していく。
『初心者にも使えて、かつヘビーユーザがこだわろうと思えばこだわれる』仕組みの両立を目指している。 例えば、パソコンのデジカメ画像管理ソフトのなかには、ボタン一つで高度かつ実用的な機能を実現したり、プルダウンメニューをおき、オプション設定で細かいところまで設定できるようになっているものもある。でもマニアックかというとそうでもなく、眠い色の補正や、逆光の補正、赤眼の修正など実用的だ。それがボタン一つでできるようにしてある。さらに細かい設定も可能。
RD でいえば、ディスク1枚や空き容量にうまく収める画質・音質の調整に似ている。標準モードで問題ないと思っていると、そのうちに空き容量が気になってくる。こういう使い方って、経験して使い込んでいくことで、ユーザ側も変わっていくんですよ。
お仕着せではなく、ユーザが自分のかゆいところを見つけていける操作スタイルだと感じてもらえたらうれしいですね。 |