◎乳児殺害で猶予刑 考えさせる「小さな命」の重さ
七尾市で出産直後の女児を殺害し、車内に放置したとして、殺人、死体遺棄罪に問われ
た女性に、金沢地裁は執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。通常の殺人に比べ、今回のような母親による乳児殺害は刑の執行が猶予されるケースが多い中、検察側が「人命の尊さを無視した判決」と控訴を検討する意向を示したのは、熊本県で運用が始まった「赤ちゃんポスト」などの背景に通じる安易な妊娠、出産に一石を投じるものであろう。
今回の事件では、女性は出会い系サイトで知り合った複数の男性と関係を持った末に妊
娠し、中絶できないまま出産した。金沢地裁は「自己中心的で非道な犯行」と断じながら、「女児への愛情や慈悲も認められる」として、二十三歳の母親に懲役三年、保護観察付き執行猶予五年を言い渡した。求刑が懲役七年であることを考えれば、金沢地検が判決に疑問を呈したのも無理はない。
一般の殺人事件でも、被害者との関係などで、被告に配慮すべき事情があれば執行猶予
になる例は少なくない。反省の態度が顕著で、刑に服させるより、社会で更生する機会を与えた方がよいケースもあろう。
今回のような判決は決して珍しくないが、危惧するのは同種の判決が定着することによ
って、検察が指摘するように、生まれたばかりの子に対する「人命の尊さ」が揺らぎはしないかということだ。
出産直後の子は被害者としての声も上げられないはかない存在であり、「独立した人格
」というより「母親の一部」であるかのような受け止め方さえある。一般の殺人と区別されるような判決が出るのも理解できなくはないが、「小さな命」だからといって軽んじていいはずがない。ましてや、出産直後の乳児に手をかけても執行猶予になるなどという短絡的な考え方が広がることだけは避けねばならない。
中絶件数が年々減少する中で、十代など若い世代は逆に増加傾向にあるという憂慮すべ
き現実がある。熊本市の慈恵病院で「赤ちゃんポスト」ができたのも、「望まない妊娠」が深刻化している世相を映し出している。判決の背景にある命の問題を司法や医療の現場だけでなく、社会全体で考えていきたい。
◎温暖化ガス削減目標 達成より正直が大切だ
〇八年から一二年までの五年間に、温室効果ガス排出量を一九九〇年比で6%減らすと
いうのが京都議定書で約束した日本の達成目的だ。
レースでいえば、今は助走期間だが、本番を前に排出量が大きい主要産業の化学、製紙
、石油など十三の業界団体が削減目標を三割程度上積みした。
自主的な上積みとされているが、内実は政府の要請にこたえたものである。来年の北海
道洞爺湖サミットでは、京都議定書後の取り組みが主たる議題となる。6%達成の見通しが立たないまま、このサミットを迎えるわけにはいかないと政府が強く頼んだわけだ。
問題が多くても、何とか達成するという姿勢はいい。が、ムリをする余りインチキに走
る者を出すより、仮に目標がクリアできなくても、正直に誠実に努力することの方が大事だと指摘しておきたい。
京都議定書を受けて地球温暖化対策推進法ができ、それを改正し、目標達成計画を閣議
決定し、さらに政府に推進本部を設けてきたというのがこれまでの歩みだ。しかし、排出量が減るどころか、逆に〇五年には一九九〇年比で約7・8%増えたといわれる。この増加分を入れると、単純計算で13・8%減らさねばならないことになった。
助走期間中に産業部門で頑張ったところが少なくなく、削減の効果を大いに挙げた半面
、運輸やオフィスなど他の部門や家庭の排出が増加して全体として増えてしまい、目標達成が危ぶまれ、達成計画の見直しも避けられなくなったわけだ。
安倍前政権はハイリゲンダム・サミットでポスト京都議定書の取り組みに意欲を燃やし
、二〇五〇年までに50%削減するという野心的な「美しい星50」のアドバルーンをあげたが、後を引き継いだ福田政権はそれどころでなくなっている。
京都議定書では排出権を売買できる仕組みになっている。排出権を買い増しても約束し
た目標を達成することに越したことはないのだが、原発が想定を上回る地震に見舞われたように、この先何が起きるかもしれないのである。目標達成も大事だが、正直に努力することの方がもっと大事だと釘をさしておきたいのだ。