戦後、歌謡界で一時代を築いた三橋美智也が歌手になったのは、金を稼いで駅弁を食べる夢があったからだという味わい深い話がある 北陸や東北から夜行列車で上京した経験のある年配者なら分かる「哀愁列車」の光景だ。駅弁の蓋の裏に付いたご飯粒を箸でつまんでから食べる至福のひと時、今もそれに勝る味はない。昨今の駅弁とコンビニ弁当の区別も付かない若者にはさっぱり理解できない話だろう 先日、北陸農政局の職員らとそんな話をしていたら、駅弁に代表される幕の内弁当は栄養バランスがよく、おかずも地産地消の優等生だとのことだったが、ご飯の部分が年々狭くなっていて、弁当は日本人のコメ離れの象徴でもあるという きょうは「鉄道の日」。北陸線も小松まで開通してことしで百十年。首都圏では新しい鉄道博物館がさいたま市にオープンし、日本が誇る自動改札機が故障するなど鉄道の話題には事欠かない秋である 北陸新幹線開通まで何とか元気でいたいと願う年配者が少なくない。時鐘子もその一人で、新幹線開通時の記念駅弁をぜひ食べたい。いつの時代も鉄路には過去と未来の夢が交差している。
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