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今どきの高専生があこがれる「石垣工務店」に秘められたドラマ

10月14日15時18分配信 ITmediaエンタープライズ


今どきの高専生があこがれる「石垣工務店」に秘められたドラマ

 写真:ITmedia

高専生にとっての大イベント、「高専プロコン」の季節がやってきた。記者が初めて目にした高専プロコンは、ドラマとロマンが詰まったアミューズメントパークだった。

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●高専生の夢の舞台、「ロボコン」と「プロコン」

 高等専門学校、略して「高専」に通う学生にとって、「全国高等専門学校ロボットコンテスト」(高専ロボコン)と「全国高等専門学校プログラミングコンテスト」(高専プロコン)が2大情報処理技術系コンテストであることに異論を挟む方は多くない。

 どちらの知名度が高いかといえば、高専ロボコンに軍配が上がるかもしれない。高等専門学校連合会、NHK、NHKエンタープライズが主催していることもあり、NHKで放送されることがその大きな理由だが、それ以外でも、2003年には高専ロボコンを題材にした映画「ロボコン」が公開。長澤まさみの初主演映画でもある同作品を見て高専ロボコンを知った方もおられるだろう。

 ハードウェア(マシン)が大きな比重を占める高専ロボコンと好対照なのがソフトウェアが大きな比重を占める高専プロコンだ。といっても、両者の違いは近年、やや希薄化しつつある。高専ロボコンにおいてもソフトウェアは欠かせないものであることは言うまでもないが、高専プロコンにおいても近年、ハードウェア(言い換えるならセンサなどのデバイス群など)を用いたものが多くなってきている。また、放送されることを前提とし、幾分ショーの要素を含む高専ロボコンに対抗するように、高専プロコンもある時期からショー的な要素が強い競技部門を設けている。

●津山市が震えた2日間

 そしてつい先日の10月6日から7日にかけて、岡山県津山市内の津山文化センターで1990年の第1回から数えて18回目となる高専プロコンが開催された。高専プロコンは文部科学省の「生涯学習フェスティバル」(まなびピア)の一環として開催されている関係で、毎年別の場所で開催される。約50年に1度のイベントがやってきたとあって、ホスト校となる津山高専はもちろん、市を巻き込んで同コンテストへの準備が進められていた。

 かつて津山城がそびえ立ち、現在は石垣がその名残を示す鶴山公園の隣で、課題、自由、競技の3部門に分かれ、全国57校96チームと、オープン参加の中国、ベトナムの4チームが出場。それぞれの部門で頂点を目指して知恵と技術を競い合った。このリポートは数回に分けて今回のプロコンを振り返る。

 まずは競技部門の様子からお届けしよう。

●石垣工務店にもん絶する高専生たち

 競技部門は、独立行政法人国立高等専門学校機構の設置する国立学校計55校に、ベトナム国立大学ハノイ校、大連東軟情報学院を加えた計57チームがしのぎを削った。

 「天守閣 めざすアイデア 愛いっぱい」というキャッチコピーが付けられた本大会では、上述したようにかつて津山城が存在した土地柄を考慮した競技内容となっていた。

 「石垣工務店」と命名されたこの競技では、石垣の石に見立てたパズルのピースを、石垣の形に相当する枠に収め、いかに石垣を組み上げていくかを競う。競技では、ピースのことを石、枠のことを石垣枠と呼ぶ。

 一見テトリス風なこの競技には、もう1つ選手たちを悩ませる仕掛けが存在する。それが、石は落札で入手する、というルールである。1回の競技で4〜7回程度設けられた入札はクローズドオークション形式となっているため、ほかのチームがどういった入札をしたのかは開札後に知ることになる。ちなみに、落札に用いるポイントの単位は「TSUTAYA」とされていた。

 つまり、基本的な戦術としては、石垣枠を最も効率よく埋める石の組み合わせを導き出し、その組み合わせに必要な石を可能な限り低価格で落札、落札できた石で最も効率よく石垣を組み立てる方法を導き出す、というアルゴリズムで挑むことになる。

 なお、勝敗は次のような優先度で判定される。

1. ゲームの終了時点で、石垣枠の空いている部分が少ない

2. 石垣枠の上部の平坦部に抜けている部分が少ない

3. 残っている通貨ポイントの多さ

4. 使った石の数

5. 獲得し使わなかった石が少ない

6. いずれも同数の場合はじゃんけん

 優先度を考えるに、早い段階で面積の大きな石を落札し、設置面積を稼ぎつつ、後半はその間を埋める小さな石を落札する戦術が有効だが、当然ほかのチームも同じアルゴリズムであれば、バッティングして落札できず、その結果、設置面積を大幅に損なう可能性も生じる。また石垣上部を埋めることが優先度の2番目に来ているため、可能な限りそこは石をすき間なく配置したい。そうした線引きをどう考えるかが戦略上重要となるおもしろい競技内容に仕上がっていた。

 学生たちも分岐限定法を用いてすべての組み合わせを総当たりで行ったり、遺伝的アルゴリズムを用いて設置面積が多い遺伝子(組み合わせ)を導きだそうとアルゴリズムを考えるが、いずれにしても本来計算時間が膨大になる計算方法なため、計算量の削減に腐心していた。

●ショー的な要素も

 上述したように競技そのものだけでなく、観客に「魅せる」ことも視野に入れられた競技部門では、ステージ上に実際の石垣のモデルを設置するとともに、プログラム上で落札した石が実際に補助員の手でそれぞれのチームに配布され、競技終了までに実際に組み上げるという趣向も凝らされた。もちろんプログラム上で完結できるものだが、それでは観客が楽しくないであろうという配慮からのものだ。観客にとってはより楽しめる競技内容になった一方で、選手たちからすると、リアルに組み立てる必要が生じるため、さらに大変な競技となる。無論、戦略が功を奏し、思い通りの石を手に入れることができても、組み上げることができなければそれはポイントとならない。

 1度に8チーム前後が同時に参戦する同競技では、開始15分前に、石垣枠の形、出品される石の種類と数、入札回数、各入札で入札可能な最大数と落札可能な落札数(例えば10個入札可能だが、落札できるのは最大8個まで)がチームに伝えられる。この情報を基に戦略を練るのだ。また、履歴参照APIなども公開されるなど、現代的な試みも取り入れられた。

●FPGAまで登場、これが高専生の実力か

 予選では57チームが8チーム程度のグループに分けられ、それぞれのグループで上位2チームが勝ち抜け、という流れで進められた。

 思い通りの石が落札できたのか、勝利を確信しガッツポーズを見せるチーム、ほかのチームに邪魔されて石を落札できず、PCの再計算結果を祈るような目で見つめるチーム、石垣の組み立て中に「崩落」の憂き目にあってしまうチームとそれぞれの時間が無情に過ぎていった。

 次々と予選が消化されていく中、会場がどよめいたのは沼津高専。同校は、FPGAの内部論理を用いてマイクロプロセッサの機能を実現、それを外部計算エンジンとして用いるという「これぞプロコン」といったアプローチで会場を沸かせた。残念ながら結果はふるわなかったものの、痛烈な印象を観客に残した。

 7グループに分けて行われた予選が終了した時点で、各グループ上位2チーム、計14チームは準決勝に進むことが確定し、初日の競技を終えたが、ここで負けたチームも終わりではない。敗者復活戦として、10チームが準決勝に進むことができるためだ。どのチームも2日目に向けて眠れぬ夜を過ごしたようだ。

●敗者が勝者を飲み込む意外な展開に

 敗者復活したチームを加えて行われた準決勝、そして決勝戦では、予選と比べると石垣も大きくなるなど、より高度なものとなったが、選手たちが心血を注いだプログラムの前にはさほど問題ではなかったようだ。なお、地元の津山高専は残念ながら予選敗退、敗者復活でも思うように実力を発揮できず準決勝に進めなかった。

 決勝戦に進んだのは以下の6校。なんと、予選から勝ち上がってきたのは、沖縄高専と広島商船高専の2チームのみ。残りの4チームは1度は破れはしたものの、敗者復活戦から勝ち上がったチームである。

高専名   チーム名

宇部高専   オレンジ

高知高専   がき☆すた

沖縄高専   テトラポッター ピノコ

鳥羽商船高専   TOKATORA!!

広島商船高専   石垣名人

茨城高専   イッツマイティ 一日一善一心

 

 2002年に設立されたばかりの沖縄高専は2、3年生のみで編成されたチームだが、その“若さ”が優勝を勝ち取るのか、それとも某アニメのキャラよろしく団長腕章を腕に、「攻撃こそ最大の防御なり」と言わんばかりの攻めを見せる湯浅優香さん率いる茨城高専か、予選では今ひとつ力を発揮できなかったものの、敗者復活戦、準決勝と驚異的なスコアでほかのチームを圧倒した宇部高専か、はたまた……。いずれも決勝戦まで上がってきただけに甲乙付けがたい実力を備えるチームによる最後の戦いが始まった。石垣の面積は予選のときと比べて1.5倍以上にまで拡大している。

 7回行われた入札で、各チームとも順調に落札しているように見えたが、実際に組み上げていく段階ではわずかながら差がつき始めていた。はた目にも宇部高専は石垣の埋まり具合がほかのチームと比べても頭1つ抜きんでていたが、高知高専、広島商船高専、茨城高専は、石が設置されていない大きな空白があるものの、それ以外はかなり埋まっている。一方で、沖縄高専や鳥羽商船高専はところどころに空白が生じており、トータルでは結構な数になっていそうだった。

 「ここまで」と司会者が終了を告げたとき、宇部高専は確実に勝利を予感していた。そして、少しの後に示された結果は、彼らの予感が正しかったことを証明してくれた。

 壇上では茨城高専の湯浅さんが今にも泣き出しそうな様子でいたのが印象的だった。同チームは、残りポイントから考えても、あと1つくらいの石は落札可能であったはずが、なぜかそれをしなかった。勝負の世界で「たられば」の話は禁物ではあるが、そうしていれば優勝はかなわないとしても2位にはなっていたはずだ。記者の見る限り、入札可能な回数を見誤っていたように感じた。入札のオペレーションを担当していたのが湯浅さんだったため、彼女の様子は、もしかするとそれを悔いてのことだったのかもしれない。すべてのチームにドラマがあることを再確認した瞬間だった。

 優勝した宇部高専の木村照隆さんは、「すべての対戦履歴は見られるようになっているので、それを取得して落札履歴を見ていると、序盤から大きな石と小さな石という両端から落札されていく傾向があるようだった」と話しながら、それを考慮しつつ、あらかじめ最適なパターンを計算。その配置とそのために必要な石を示した表を示しながら、「当然落札できない石も出てくるわけで、石垣上部のあたりは競技中に自分たちで最適な配置を考えました。それが“マニュアル最適化”。彼我の戦力差は人間も含めたシステムの違いといえるのかも」と振り返る。

 ある大会関係者はこう話す「今、高専って実は熱いんですよ」――大会前なら聞き流していたであろうこの言葉も、大会を観戦してみると、うなずけるところがある。ひたむきに、そして楽しんで高いレベルのプログラミングに熱中する彼らに話を聞くと、「自分のやっていることなんてたいしたことありませんよ」と笑って返されることが多かったが、おそらくは自分たちがやっていることのすごさに気がついていないのかもしれない。世に出てはじめて、それがすごいことであることに気がつくのだろう。そんな技術や能力が高専には存在する、そう思わずにはいられない高専プロコン。今大会に参加した彼らや彼らの意志を受け継ぐ後輩の手によって、来年の高専プロコンはさらに白熱するのだろう。

【関連キーワード】 アルゴリズム | プログラミング | アイデア(発想)

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最終更新:10月14日15時18分

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