2007年05月24日

台湾ロビー政権の新動向:政治評論家 本澤二郎

 台北政府と連携している日米の政治家グループを台湾ロビーと呼んでいるが、彼らが中心となって日米政府とその政策を牛耳ることも少なくない。全てでないにしても台北からの秘密工作資金の大きさを物語っているのだが、その結果、日米のアジア外交と安全保障政策を左右することにもなる。独立国の政策を動かす台北の政治力は、日米右翼政府の下では、蒋介石の独裁政権を離脱した今日においても小さくない。実績から判断すると、むしろ巨大化しているという分析も可能なようである。

<歴代親台政権>
 台湾政府と連携してきた日本政府の元祖は、岸信介内閣である。A級戦犯から逃れることができたことで、岸は米国政府と当時・中華民国の蒋介石に対して忠誠を尽くすことになるのだが、彼の政府は無論、中国との交流を阻害する形で表面化する。岸こそが日本における台湾ロビーの元祖である。しかも、台北の秘密工作は東京とワシントンにおいて同時に進行しているところに特徴がある。その効果は倍することにもなるのである。
 台湾が戦後60年もの間、大陸から事実上の独立、独自の政府を有してこられた原動力は、日米政府の加護があってのものである。日本は主に経済面、米国は軍事面で台湾を支えてきたからである。久しく台湾経済の発展が人々を大陸との合流を阻んできた。その点で日本の台湾ロビーの役割は甚大であった。

 米国の方は、もっぱら軍事支援という口実で莫大な利益を手にしてきた。同時に北京の共産党政権の解放政策をけん制し、それは今日も基本的に変わっていない。中国と日米間に突き刺さったトゲとなって久しい。それも新中国誕生以来から変わっていないのだから、双方の政府・国民の間での誠実な信頼関係の確立を阻害してきている。これが日米、特に右翼政府の場合は、台湾と単に政治的のみならず、経済的な利権という非道徳な形で甘い汁を吸ってきたことは否めない。東京とワシントンにおいて、台湾ロビーが大手を広げる元凶なのだ。台湾独立を叫ぶ政府の存在もまた、こうした政治状況を継続させてきている。岸路線は実弟・佐藤栄作の政府にも継承され、文字通り台湾ロビー政府として蒋介石政権を支えてきた。

 他方、日本国内では岸―佐藤路線に対抗する勢力が台頭する。中国との関係正常化を求める与党・リベラル派と民間貿易に期待をかける経済界、そして野党・革新政党の3者の動きをマスコミが大々的に支援したことで、いわば一種の国民統一戦線のような形で台湾ロビー内閣に対抗した。石橋湛山・池田勇人両内閣もそうした目となったが、池田の後継者である大平正芳と同内閣で大蔵大臣を歴任した田中角栄が、佐藤後継政局で共闘を組んで政権を奪取するに及んで、遂に悲願の日中国交回復を実現した。72年9月のことである。

 この戦後政治の分岐点という重要局面で反対した右翼政治家の森喜朗は、岸の意向を体して反中国派の青嵐会メンバーで活躍した。彼は小渕恵三内閣で運良く自民党幹事長に就任して、小渕急逝のあと急遽天下人になった。これが日中関係を大きく傷つける契機となった。岸後継派閥の森派を守り、維持したのが森内閣のあとを引き継いだ小泉純一郎である。昨今では、森は台湾ロビーの第一人者として安倍内閣の後見人を任じている。前台湾総統の李登輝との深く長い付き合いには定評がある。

 森内閣の誕生は、台湾ロビー政権の黄金時代を約束することになる。続く小泉政権は靖国参拝の強行で中国と対立、台北政府を喜ばせた。「日本は天皇中心の神の国」と豪語した森政治そのもので、小泉は天皇のために、主に戦場で倒れた兵士を合祀した靖国神社を参拝することで民族主義を形成した。まだ記憶に新しい。これを強力に支えたのが安倍である。森―小泉―安倍ともに岸一族である。小泉―安倍内閣ともに、台湾防衛を任務とすると断定してもいい米軍再編に取り組んでいる。これこそが日米右翼政権の野望実現である。台湾独立派が狂喜する事態である。台湾ロビーによって動いている日米アジア・太平洋の軍事戦略そのものであろう。米軍司令部の日本移転という日本独立を放棄した政策に、ひたすら従う世論・議会というのも異常である。2008年オリンピックで動こうとしない北京をあざ笑うような予想外の政策を、安倍内閣はこともなげに強行している。

 それにしても、岸の傀儡政権が3代も続く日本政府である。台北の高笑いが聞こえてくるではないか。北京の対日問題担当者の苦悩は、推して知るべしだろう。

<与野党の台湾ロビー>
 なにゆえ、こんな不条理がまかり通ってしまうのか。これこそが台湾ロビーの実力を物語っている。
 安倍内閣の誕生をこの世で一番喜んだ人物は、筆者の目には台湾前総統の李登輝だと映る。二人の会話には通訳がいらない。しかも、携帯電話という便利な武器がある。李登輝はいつでも安倍と秘密裏に連絡をとることができる。いちいち後見人の森を経由する必要もない。安倍こそが李登輝が息子のように大事にして面倒を見てきた日本の政治家なのだから。

 安倍の周囲には右翼どころか極右のような人物がまとわりついている。「日本会議」だけではない。今回、集団的自衛権を行使できる懇談会を立ち上げた13人衆も、である。台湾防衛に向けた策略と理解すべきだろう。いずれも反共主義で、かつ台湾派の面々と見られている。小泉の対応をはるかに凌駕している。外務大臣の麻生太郎も徹底した台湾派として知られる。自民党の政策責任者である政調会長の中川昭一も安倍並みの右翼思想の持ち主だ。親子2代の台湾派である。

 台湾防衛政策は、米国の戦略に服従しているような形をとっているが、その実、台湾ロビーの願望でもある。台北の巧みな工作の成果だとも分析したい。周辺事態法もそうだし、有事法制も、そして防衛省昇格もまた、台湾防衛にかける台湾ロビーのかくかくたる戦果なのである。
 こうした危険な憲法無視の悪しき政策を、経済優先・オリンピック優先の北京という政治環境を悪用して推進してしまう。以前なら社会党や自民党内リベラル派が反対して潰してしまう制度・法律を次々と実現しているのである。
 本来、社会党に取って代わったはずの民主党だが、どっこい同党もまた台湾ロビーに侵食されて久しい。党首の小沢一郎はきわめつきの台湾ロビーである。
 もとはといえば、田中派の流れを汲む竹下派は、竹下登と金丸信の2頭立ての派閥で、それこそ見事に役割分担していた。前者が北京、後者が台北とすっきり分けて双方から利益を享受してきた。竹下の後継が小渕で、金丸後継が小沢だった。
 小渕の成果の一つが北京郊外の盧溝橋近くに友好の森林公園を造成したことで、筆者は偶然、現地を歩いたことがある。小沢は台湾利権に食らいついた。もう一つが金丸の軍事利権も、である。小沢の民主党の、対自公戦略の切れ味がよくない原因である。安倍と同じムジナだから対抗できない。早くも7月参院選挙で自公を退治できないだろうと指摘されるゆえんだ。

 さらに民主党内には、松下幸之助が民族主義教育でもって育成した松下政経塾議員が沢山いる。いずれも台湾派だ。面白いことに、松下を評価する本が中国で何冊も出版されている。しかも松下企業は、中国で莫大な利益を得ている。中国人のおおらかさに違いないが、度が過ぎるように思えてならない。日本もアメリカもそうだが、人はなかなか賢くはなれないのだろう。松下政経塾議員は自民党内にもいる。閣僚をしている女性議員の歴史認識は、度肝を抜かれるほどの皇国史観かぶれである。安倍や森との深い付き合いが入閣事情と見られている。

 ともあれ自民・民主という2大政党の最高幹部が、そろって台湾ロビーである。李登輝がいつでも日本を訪問できる裏事情である。
 北京派には加藤紘一、河野洋平、野田毅、田中直樹・真紀子夫妻、小坂憲次などがいる。他にも少しいるが泥をかぶれるような政治家は少ない。正に日本は台湾ロビーの天下なのである。

<言論も右へ倣え>
 昨年亡くなった大学先輩・読売新聞OBの多田実の自慢話の一つが、日中国交回復に向けて一番乗りしたという実績である。「財界新聞の日経も早かった。ソ連との関係が強かった朝日新聞はおたおたしていた」という。当時、彼は政治部長として指揮をとるだけでなく自ら香港経由で、正常化前に北京入りしていた。
 自民党三木派を長く担当したリベラル派で、現在読売グループを率いる渡辺恒雄を快く思っていなかった。大野伴睦や中曽根康弘との癒着はいいとしても、右翼・暴力団の頂点に君臨する児玉誉士夫との深い関係を許せなかった。案の定、彼はそうした悪しき人脈を利用して実権をにぎると、紙面を右旋回させてしまった。中曽根内閣誕生に一役買うと、公器を中曽根新聞に変えてしまったのだ。

 中央公論というリベラルな雑誌を買収すると、そこへと右翼学者を登場させて政府ブレーンに仕立て上げた。「中曽根に対抗する政治家を叩き潰すことなど簡単なことだった」といわれたものである。リベラルな記者をことごとく窓際に追いやり、中枢からはずしてしまった。
 読売変身に、それまで財界右翼が再建を図ってきていた産経新聞とフジテレビも、一段と自信を深めてリベラルたたきに力を入れた。もともと反共主義を旗印にしてきた文春メディアも勢い付いた。あたかも石原慎太郎雑誌のようにして中国批判を繰り広げてきた。

 こうした背後に「台湾の秘密工作が存在した」との指摘も考えられなくはない。秘密工作は政治家・政党とマスコミ・メディアに対してなされる。理由はもっとも効果的だからである。

 その点で、ロッキード事件で表面化した米航空機会社からの賄賂などは、台北の工作資金に比べれば「ない」に等しいだろう。いつの日かこれがあぶり出されるはずだ。既に一部暴露されているが。
 こうした読売主導による露骨な反共親米路線には、財閥が強引に推し進める軍国主義復活への動きを見て取れる。愚かだ。

<革命派が消えた北京>
 中曽根内閣以降、とりわけ森内閣・小泉内閣の右への急旋回を可能にさせた遠因は、隣国の政策変更の賜物といっていいだろう。よくいうと大人になった北京である。革命派不存在の北京である。90年代以降の経済優先政策が、日本の右翼陣営に格好の政治環境をつくりあげていることも、まぎれもない事実である。したがって江沢民の日本訪問における歴史認識の重要発言は、いわば当然のことであるが、右旋回していたマスコミの激しい反発が北京の日本研究者に誤まれる伝言をしてしまった。

 日本の右旋回は、その実、北京の学者をも取り込んでいたのである。「中国の日本研究は普遍的なものではない」という事実を突きつけられることになる。その時点での政治に大きく左右される。日中友好をアジアの平和と安定の基礎であるとする普遍的理念で、北京を見つめている日本人は時折肘鉄を食らうことになる。遂には離反することになる。日本に真の友人が少ない理由だろう。

 北京の柔軟な対日政策は、一方で経済成長による自信からもきている。中世から近代のヨーロッパ政治は、経済と軍事力が比例していることを後世に伝えている。もともと革命を成功させた人民解放軍である。軍の意向は強い。軍事強化とそれへの自信とみたい。
 米国、とりわけ台湾政府にてこ入れする東京とワシントンを苦々しく思って当然だ。対台湾政策の核心に軍事を置くことになる。既に核保有に成功している。おいそれと米国も手を出せない。日本への脅威などない。こうした軍事的優位が大人の対応を取らせているのかもしれない。

 逆に日本の台湾ロビー政府は、米軍との一体化に突き進むことになる。それこそ天皇制国家主義の帝国の復活を夢見る反共・台湾ロビー政府を興奮させることになるのだろう。

<憲法クーデターへ突進>
 日本は戦争しない国である。戦争ができない憲法を世界に先駆けて保持している。21世紀の誇れる国家である。
 だが、戦前の帝国を夢見る右翼政府・台湾ロビー政府は、9条憲法を屈辱な規定であると信じて疑わない。右翼の思想と国民一般の思いとは天地の開きがある。しかし、平和憲法の改正をワシントンが、これまでは許さなかった。アジアの声を重視してきたからでもある。

 だが、今は違う。ブッシュ政権が変身したのだ。それどころか「1日も早く」とせっついてきている。かくして安倍は、小躍りして改憲を公約にして登場した。北京のオリンピックと安倍の改憲準備が、双方に呉越同舟の機会を作ったようだ。現在の静けさの原因はこんなところだろう。嵐の前の静けさともいえる。

 ところで、日本国憲法は実によくできた世界に冠たるものであるが、それゆえに前文で「これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」と宣言している。
 平和主義・人権主義・国際主義は憲法の基本原理であり、人類普遍の原理でもある。これの変更を憲法は認めない。したがって安倍や自民党が目指している「戦争のできる国」への変更を現憲法は容認しない。

 憲法が禁じる改憲を強行しようとしている安倍自民党は、現憲法を破壊しようというものだから、これは憲法のいう改正ではない。革命である。クーデターなのだ。21世紀に近代国家が断じてしてはならない政治行為なのである。
 戦争できない国から「戦争のできる国」という革命的国家改造は、国際公約の放棄・違反であろう。アジア諸国民が許してくれるだろうか。「内政干渉」などと反撃できる事柄ではないだろう。

 しかも、日米両国の右翼政権の9条改憲の狙いが、台湾ロビーの願望だとすると、中国のみならず南北朝鮮やロシア、東南アジア諸国が沈黙するはずもない。
 今春の安倍初訪米の手土産は憲法解釈による集団的自衛権の行使を可能にさせたい、というものだった。9条改憲の前に台湾海峡の危機に対応するためだという。他方、自公は9条改憲を可能にするための国民投票法を、そそくさと2007年の通常国会で強行成立させた。ブッシュの任期に合わせるような忙しさである。台湾ロビーの背後には、日米の産軍複合体ががっちりと隊伍を組んで支えている。軍事と同ロビーは一体なのである。

 日本は戦後60年を経て初めて忘却していた「戦争」という言葉が、実感として国民の胸を圧し始めている。 2007年5月23日記(無断転用禁)

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1. Posted by 香蕉    2007年10月01日 21:10
>平和主義・人権主義・国際主義は憲法の基本原理であ>り、人類普遍の原理でもある。

ならば、中国の悲惨な政治社会状況の根本である5,000年の王朝政治の再来である共産党政治を批判するのは当たり前ですし、そうした大陸と共同して台湾人を売り渡そうとする国民党は、台湾人の敵以外何者でもありません。

民族自決の国際的な基本理念を尊重するならば、中華民国体制から脱却する台湾時の民意を尊重するべきです。

なお、6月の李登輝氏の来日前日までアジア太平洋局長は氏の来日・行動を阻止しようと画策していたのを知らないのですか?日本外務省こそが、中国の手先です。

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