現在位置:asahi.com>社説 社説2007年10月14日(日曜日)付 中国の党大会―政治改革に踏み出すとき「あなたたちは利益を得て、我々は病を得る。あなたたちは昇進し、我々は昇天する」 がん患者が多発する河南省の村をルポした中国紙の記事にあった、村人たちの言葉だ。近くの川に流れ込んだ工場廃水が原因だとみられている。 深刻化する公害、激しい格差、党幹部の腐敗……。急速な発展に伴う様々な問題を抱えるなかで、5年に1度の中国共産党大会があす北京で始まる。 7300万人を超える党員を代表する約2200人が出席する。胡錦濤総書記が再任されるのは確実なので、5年後の「ポスト胡」を占う意味でどんな若手が登用されるかが注目されている。 もう一つの焦点は、トウ小平時代から続く経済発展一本やりの路線をどう修正するかである。02年に発足した胡政権は公害など負の側面を重視し、是正のため政策転換を図ろうとしてきた。 だが、さらなる発展を望む社会の勢いはとどまるところを知らない。資源を浪費し、汚染を広げる工場や発電所が増え続け、格差や腐敗は広がるばかりだ。汚染物質は海を越えて日本にも届く。排出量の規模が大きいだけに、世界への影響も懸念されている。 今回の党大会では、中央のコントロールを利かせるためのさまざまな手立てが検討されるはずだ。しかし、中国が抱える諸問題を解決するには、もはや上からの指示だけでは難しいだろう。 人々の政治的な自由を広げる政治改革を真剣に考えるべき時期に来ていることを認識すべきではないか。 たとえば公害を克服するには、その実態を伝えて企業や行政の責任を問う報道や、市民団体、研究者たちの活動など、様々な力が必要だ。社会の総合力が求められる。住民運動や報道に対する規制はそうした力をそいでしまう。 党幹部の腐敗も同じだ。身内による調査や処理だけでは信用されまい。上海のトップを除名して腐敗への厳しい姿勢を見せたが、党の中枢にいる人まで腐敗していたともいえる。メディアや人民代表大会がもっと監視できる力を持たなければ、有効な歯止めにならない。 中国は共産党の一党支配が絶対化されているが、もっと住民の声を政策形成や決定に反映するシステムをつくれなければ、いずれ行き詰まるだろう。 胡政権は民主化をまず党内から進める方針だ。今回の党大会代表者の選出においては、定員より15%多い候補者を立てたという。確かに前回の10%よりも増やしてはいるが、あまりに歩みが遅いのではないだろうか。 政治改革については、中国の多くの学者たちもいろいろな具体策を提言し、メディアも取り上げている。党はそれらを十分に検討すべきだろう。 国際社会での中国の存在感がますます高まっているだけに、共産党大会の選択に注目したい。 自殺サイト―もはや見過ごせないひとりの若い女性の命が断ち切られたきっかけは、だれでも簡単に接続できる携帯電話の自殺サイトだった。 サイトを開いた電気工の男は、自殺志願の人を募るような書き込みを重ねていたらしい。死にたいと望んで連絡をしてきた川崎市の女性に「薬を使えば楽に死ねますよ」などと持ちかけた。 報酬として20万円を受け取ると、約束どおり女性の自宅へ出向いた。睡眠導入剤を飲ませたうえで、顔にポリ袋をかぶせて窒息させたという。 見ず知らずの2人を結びつけ、最悪の結末を招いた。ネット社会の危うい側面に、背筋が寒くなる思いがする。 今回とくに見逃せないのは、男が金を目当てにしていたらしい点だ。 自殺サイトに集まってきたほかの人たちに対しても、「死ねる薬」などとうたって睡眠導入剤を違法に販売していた。売り上げは100万円になるとみられている。男は消費者金融などから数百万円の借金があったという。 それにしても、ネットを入り口にした事件が広がっており、見過ごせないところまできている。 殺人や強盗などを企てる人間が、ネット上の「闇サイト」で仲間を誘う。そんな悪質きわまりない例も相次いでいる。8月にも、ネットで知り合った3人が、通りかかった名古屋市の女性を拉致して殺害する事件が起きたばかりだ。 自殺サイトもなくならない。自殺志願者がいっしょに死ぬ相手を募る。「楽に死ねる方法」を教え合う。そうしたサイトが数百あるともいわれ、たびたび集団自殺の引き金になってきた。 こうした危ういサイトが野放図に広がっていくことは、なんとしても食い止めなくてはならない。 それには、ネット上の書き込みを点検するサイバーパトロールが欠かせない。法に触れる内容が書かれていたら、警察がすぐに摘発する。ただちに違法といえなくても、有害な書き込みがあればプロバイダーに削除を要請する。 警察だけでなく、連携して活動する民間団体がもっと増えてほしいものだ。 新たな書き込みは、毎日、次々と現れる。削除の要請をしても「モグラたたき」のようではあるが、ねばり強く続ける以外になさそうだ。 問題のあるサイトや書き込みを事前に取り締まることは技術的に難しいし、もし規制が行き過ぎれば「表現の自由」を侵す恐れがあるからだ。 もう一つ、今回の事件で残念でならないことがある。亡くなった女性が自殺を考えたとき、最後に相談した先が男のサイトだったことだ。 ネット上には、死にたいと思う人の悩みに耳を傾け、生きる気持ちを取り戻す方向へと導いているサイトもある。 死ぬことを思いとどまらせる窓口を増やし広げることも、危ういサイトの罠(わな)から防ぐ手だてになる。 PR情報 |
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