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最高裁審理どうあるべきか 5判事大激論 強盗強姦事件 

2007年10月13日15時58分

 最高裁の審理はどうあるべきか――。ある強盗強姦(ごうかん)事件の上告審で、最高裁第一小法廷の裁判官らが激論を戦わせたことが、決定書の内容からわかった。「二審判決には明らかな事実の誤認があるので審理を差し戻すべきだ」「最高裁は『法律審』であり、基本的には二審の事実認定を尊重すべきだ」。結局は裁判官5人のうち3人の多数意見で二審判決の結論を維持した。通常は「上告を棄却する」などと2、3行程度の内容で終わることが大半の刑事決定書で、こうした激論の様子が明らかになるのは珍しい。

 被告(40)は強姦と強盗の目的でホテルに女性を連れ込んで実行したとして起訴された。被告に強盗の犯意があったかどうかや、実際に現金2万円を奪ったかどうかなどの事実をめぐり、一審・京都地裁は「被害者の証言は不自然」として執行猶予付きの有罪に。二審・大阪高裁は一審とは逆に被害者の証言を重視して懲役8年とした。

 被害者の証言と被告の供述のどちらを信用するか。横尾和子裁判長(行政官出身)と泉徳治裁判官(裁判官出身)の2人は、証言などの記録を細かく検討して「被害者の証言に信用できない部分があり、二審判決を破棄しなければ著しく正義に反する」と結論に対する反対意見を表明した。

 これに対し、甲斐中辰夫裁判官(検察官出身)は横尾、泉両裁判官の主張を「不確かな前提に基づいたり、二審で取り調べられていない証拠を引用したりしている」と厳しく批判。涌井紀夫裁判官(裁判官出身)は、最高裁は法令違反の有無だけを審理するのが原則であることから「経験則や論理法則に違背する重大な誤りがあるかという観点で判断すべきだ」と述べて、事実関係に「深入り」する姿勢をいさめた。才口千晴裁判官(弁護士出身)は個別の意見は述べなかった。

 決定は10日付。最高裁の審理に詳しい法曹関係者は「裁判員制度が始まると、裁判員は書面よりも、法廷で直接、被告や証人の話を聴いた内容をもとに判断することになる。生の声を聴かず、書面での審理しかできない最高裁は、事実関係についてはより慎重に審理せざるを得なくなるはずで、審理のあり方を改めて確認する必要がある」と話している。

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