今年1月の「67歳で出産、体外受精で」の報道以来、中年女性から緊急避妊を受けたいとの相談が増えています。「妊娠なんて自分とは無縁だと思っていたのに」というのが異口同音に向けられる言葉です。
常識的には65歳での妊娠はあり得ません。この方の場合、凍結保存していた受精卵を子宮の中に戻すという方法が採られたと考えるのが妥当で、そのため医師団は妊娠を維持するための子宮内膜づくりに相当な労力を割いたはずです。閉経によって卵巣の働きが止まり、排卵がなくなるわけですが、外からの女性ホルモンに子宮の内膜が反応し、さらに体外受精・胚移植に成功すれば妊娠、出産は可能だということです。
ちなみに、2005年の国内統計によれば45歳以上の出産は598件。うち50歳以上は34件で14歳以下の42件に近い数となっています。テレビドラマでは『14歳の母』が話題になりましたが、世の中『55歳の母』だって夢の話ではないということです。 そのドラマは、次のシーンから始まります--。
公園で遊ぶ子供たち。近くには臨月と思われる母親らしい女性がその様子を楽しそうに見守っています。しかし、子供たちからかけられた言葉で事態は一転します。「おばあちゃんも一緒に遊ぼうよ!」。
やがて時は流れ、分娩台の上で襲いくる陣痛と戦っているAさん(55歳)。ほどなく3千グラムの赤ちゃんが誕生。可愛さのあまり顔をぐしゃぐしゃに泣き崩すAさん。第3子を産んでから、すでに30年の時が過ぎていました。ふと我に返るとベッドの周りには、禿げ上がった夫と娘、2人の孫の顔がありました。「おばあちゃん、おめでとう!」
◇ 高い中絶率が示す お粗末な思秋期の性
06年度の世界保健報告によれば、日本人女性の平均寿命が86歳と単独世界一になっている今日、このような光景はあり得ないことではありませんが、人工妊娠中絶で終わるのが普通のようです。ちなみに、45歳以上の中絶件数は1691件。40歳以上まで広げると21010件(05年度)。これだけの数値をご覧いただいても驚かれない読者には、もう少し解説が必要かもしれませんね。
出生数と中絶数を足し合わせたものを妊娠総数と定義したうえで、その中絶割合をみますと、中絶が決して若者の問題でないことは一目瞭然です。中絶割合が最も低いのは30~34歳で12.9%、次いで25~29歳の15.0%、35~39歳23.1%、20~24歳36%、15~19歳64.3%となっています。結婚しないと子どもを産めないというわが国の特徴を如実に表しているともいえます。その一方で、結婚しているにもかかわらず産めない世代が、ひょっとしたら本誌『毎日らいふ』世代ではないでしょうか。40~44歳の中絶割合は49.4%、45~49歳74.7%、50歳以上45.2%というのですから、思秋期の女性たちの性のお粗末な現実が浮き彫りされています。
確かに頻繁ではなくなった性交回数。でも思春期のような緊張と戸惑いの中で性交が行われるわけではありますまい。避妊のことだって知らないとは言わせません。しかし、避妊は男任せでいいだろうと思っているのか、腟外射精、よくてコンドームというのでしょうね。これでは望まない妊娠を回避できません。妊娠は男性には絶対に起こり得ない現象なのですから、女性が主体的に取り組む姿勢を保つ必要があります。(つづく)
2007年10月13日