現在位置:asahi.com>社説 社説2007年10月13日(土曜日)付 ノーベル平和賞―温暖化という脅威に警鐘私たちの地球を温暖化から守る。その挑戦の先頭に立つ人々にノーベル平和賞が贈られることになった。 世界の科学者らでつくる「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」と、米国のアル・ゴア前副大統領である。 平和や人権などに光をあててきた賞が地球環境に目を向けたことを歓迎する。 いま「気候の安全保障」が叫ばれている。地球温暖化は、戦争や核の拡散と同じように人類の生存を脅かすとみなされる時代になった。今回の授賞は、この潮目を読み取った。これを機に世界の取り組みが加速されるよう期待したい。 今年、脱温暖化の動きを決定づけたきっかけは、IPCC部会の報告だった。 温暖化の主因は、人間の活動が出す二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスだとほぼ断定し、悪くすれば今世紀末の気温は1980〜90年代より4度ほども上がると予測した。上昇幅が2〜3度以上でも、温暖化の被害は地球全域に及ぶという警告も発している。 温暖化と人間の活動を結びつけることに疑いを抱く見方も根強いが、一連の報告はその勢いを一気にしぼませた。 6月のG8サミットが「温室効果ガス排出を50年までに半減」という目標を真剣に検討することで合意したのも、IPCCが背中を押したからだった。 科学の力が政治を動かしたのである。 ゴア氏は、脱温暖化の語り部として大きな役割を果たした。 00年の大統領選に敗れた後、地球環境の危機を訴える講演に力を入れた。その記録映画「不都合な真実」は世界中で話題を呼び、アカデミー賞を受賞した。 「地球は今、かつてない危機にある」「熱を出した子どもは医者に診てもらうように、発熱した地球にも手当てを」。映像やグラフを使って説く情熱と信念が、聴く者、見る者の心を動かした。 原点は、学生時代に見た1枚のグラフだった。大気中のCO2がじわじわ増えていることを示すハワイ島での観測データだ。それを授業で目にしたときの驚きは決して忘れない、と語っている。 議員になると早速、この問題で公聴会を開いた。温暖化に取り組んだ最初の政治家の一人であることは間違いない。 IPCCも、90年の最初の報告書で温暖化対策の必要を提起した。 この流れが、92年にブラジルで開かれた「地球サミット」や97年採択の京都議定書などの動きにつながった。 脱温暖化に向けて、いま最大の課題は、京都議定書第1期が12年に終わった後の枠組みづくりだ。CO2の最大排出国でありながら、議定書を離れた米国の出方がカギを握る。 ゴア氏の受賞が米世論を動かし、米国の変化が中国やインドなど、今は義務を課されていない排出国を引き込む。そんな流れが起こればよい。 今回の授賞からは、こんなメッセージも感じとれる。 パロマ事件―不作為の罪が問われたつくった製品については、改造されて事故が起きた場合でも、メーカーは知らぬ顔ができないということだろう。 ガス湯沸かし器をつくっているパロマ工業の前社長ら3人が、業務上過失致死傷容疑で警視庁から書類送検された。 安全装置に不正改造が横行し、事故が多発しているにもかかわらず、製品を回収するなどの対策を取らなかった。そのため、05年に東京都内の大学生ら2人を死傷させたという容疑である。 今回の事件の特徴は、直接改造した代理店の作業員にとどまらず、メーカーが「不作為」の責任を問われたことだ。メーカーは製品の表も裏も知り尽くしており、事故の情報も集まりやすい。そのメーカーが、安全を守る重い責任を負わされるのは当然のことだ。 同じような事故は85年以降、27件起き、20人が死亡している。ほかの事故は時効にかかっているため、刑事責任を問えないが、パロマ工業の責任が消えるわけではない。 メーカーが直接かかわっていない事故で、トップの責任まで追及したのも画期的だ。 パロマ工業は同族企業で、創業家の前社長が20年以上も君臨していた。前社長は何度も報告を受けていたというのだから、対策を決断していれば、多くの事故を防げただろう。取締役会がきちんと機能していなかったことを考えると、前社長の責任はきわめて重い。 前社長らもいまでは「対策を取っていればよかった」と容疑を大筋で認めているという。同社は「安全確保に全力を尽くす」とのコメントを発表した。 一連の事故が明らかになった後、パロマ工業の生産は一時、例年の5割にまで落ち込んだ。それがいまでは9割にまで回復している。 だが、教訓は生かされているのか。 確かに、事故情報を扱う管理部を新設し、情報の取り扱いをチェックする社外の有識者委員も任命した。 だが、2月に就任した今の社長は前社長の妹の夫だ。同社が設けた第三者委員会が株式の公開や社外取締役の選任などを提言したが、実現されていない。 経済産業省は問題の湯沸かし器を欠陥製品と認定し、回収を命じた。パロマ工業は事故への対応のまずさは認めたが、いまだに製品そのものの欠陥は認めていない。損害賠償を求める別の遺族らの民事訴訟でも争い続けている。事故の責任を認めているとは思えない。 パロマ工業の事故をきっかけに、消費生活用製品安全法が改正され、事故情報を報告することがメーカーに義務づけられた。さらに、販売して10年後などに、メーカーが利用者に点検してはどうかと通知する制度を盛り込んだ改正案が閣議決定された。 製品の改善を図りつつ、利用者の安全を守る。その重い責任があることをメーカーは忘れてはいけない。 PR情報 |
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