デジタルカメラはWatchシリーズと不可分の道具だ。取材先に単身乗り込んだ記者やライターが速報を書き、デジカメで撮影した画像とともに、世界中からインターネットで編集部に送りつけ、掲載する。そんなスタイルを確立できたのも、デジカメあってこそ。コンシューマー向けデジカメの嚆矢「カシオ
QV-10」の発売がWatchを生んだ、とも言えるかもしれない。ここではそんなWatchシリーズの“報道カメラ史”を書いてみよう。
● QV-10ありきのWatch誕生
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QV-10 |
「報道カメラ」といえばニコンFシリーズやキヤノンEOS-1のような、ゴツくて頑丈なカメラを思い浮かべるが、Watchシリーズの報道カメラのほとんどは、そうしたゴツいカメラと比べるとおもちゃのようなデジカメたちだ。
今でこそコンパクトデジカメで取材する記者は珍しくないけれど、Watchシリーズ立ち上げの頃は、冒頭にあげたようなゴツい報道カメラの放列の隙間で、けげんな視線を浴びながら小さなカメラをかざして撮影していたのだった。
ごく初期の頃は、レンズ付きフィルムで撮影し、45分DPEでプリントした写真をスキャンして、使ったこともあったという。が、基本はQV-10による取材だった。
90年代にWatchシリーズで使われた主なデジカメを、主要なスペックとともに書き連ねてみよう。
メーカー/機種名 |
撮像素子 サイズ |
画素数 |
レンズ |
液晶 |
記録媒体 |
カシオ QV-10 |
1/5インチCCD |
25万画素(総画素数) |
60mm F2 |
1.8型 |
内蔵メモリ(2MB) |
リコー DC-2 |
1/4インチCCD |
有効約38万画素 |
35/55mm F2 |
1.8型 |
内蔵メモリ(4MB)
PCMCIA 2.1/JEIDA 4.2フラッシュメモリカード" |
富士写真フイルム DS-7 |
1/3インチCCD |
35万画素 |
38mm F2.2 |
1.8型 |
スマートメディア |
オリンパス C-1400L |
2/3インチCCD |
有効131万画素 |
36-110mm F2.8-3.9 |
1.8型 |
スマートメディア |
ミノルタ Dimage V |
1/3インチCCD |
有効35万画素 |
34-92mm F5-5.6 |
1.8型 |
スマートメディア |
富士写真フイルム FinePix 1700Z |
1/2.2インチCCD |
約150万画素(総画素数) |
38-114mm F3.2-5 |
2型 |
スマートメディア |
ニコン COOLPIX950 |
1/2インチCCD |
211万画素(総画素数) |
38〜115mm F2.6〜4 |
2型 |
CF |
ソニー サイバーショット DSC-F505K |
1/2インチCCD |
有効202万画素 |
38-190mm F2.8-3.3 |
2型 |
メモリースティック |
キヤノン PowerShot S10 |
1/2インチCCD |
有効約202万画素 |
35-70mm F2.8-4 |
1.8型 |
CF |
※社名表記はカメラの発表当時のものです。
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オリンパス C-800L |
WatchシリーズではQV-10以外にも、カシオ QV-10A、QV-30、オリンパス C-800L、ニコン COOLPIX800などが使用されている。普通、報道機関のカメラというものは1社の製品に統一されるものだが、Watchにはさまざまなメーカーの、非常に多様なデジカメが集まっている。理由の1つには、この頃はデジカメの性能向上が著しく、またWatch編集部の人数も増えており、新規に購入する際にはなるべく最新の機種を、メーカーにこだわらずに導入していったということがあげられるだろう。また、編集部で購入した機材だけでなく、編集部員が個人的に購入したデジカメを取材に使用したこともある。
いまや1.8インチ前後と2.5インチ前後に統一された感のあるコンパクトデジカメのCCDだが、'90年代はさまざまな光学サイズが採用されていたことがわかる。画素数の表記がまちまちなのも時代を感じさせる。デジタルカメラの画素数表記で有効画素数を優先させるように決められたのは2001年のことだ。
上記のリストでWatchシリーズらしさを感じさせるのは、レンズの焦点距離だろう。90年代のデジカメで単焦点レンズ搭載機はめずらしいものではなかったが、Watch編集部で使用された単焦点機はQV-10、QV-10A、C-800L程度で、そのほかはみなズーム機(一部2焦点レンズ搭載機)だ。
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ソニー
サイバーショット DSC-F505K |
これは、発表会場などでの取材時には、記者席から壇上の演者やモノ、プレゼンテーション画面などを撮影するために、長い焦点距離が必要とされるから。リストの最後にサイバーショット
DSC-F505Kがあるが、これはこのリスト唯一のメモリースティック採用機だ。今ほどメモリカードが安くなかった90年代に、すでに編集部にあるスマートメディアやCFを使えないデジカメを導入したのは、ひとえに5倍ズームレンズのためだ。
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NV-DE3 |
変わったところでは、パナソニックの「エレガンス デジカム NV-DE3」、「パワーデジカム NV-DL1」というDVカメラが使用されていたこともある。これらは静止画をDVテープに記録し、シリアル経由でPCに転送することができるDVカメラで、NV-DE3は10倍、NV-DL1は14倍ズームレンズを搭載していた。
● 高倍率ズーム+手ブレ補正が基本に
メーカー/機種名 |
撮像素子 サイズ |
画素数 |
レンズ |
液晶 |
記録媒体 |
ソニー Mavica MVC-FD95 |
1/2.7インチCCD |
有効202万画素 |
40-400mm F2.8 |
2.5型 |
3.5型フロッピーディスク
メモリースティック |
オリンパス E-100RS |
1/2インチCCD |
有効145万画素 |
38-380mm F2.8-3.5 |
1.8型 |
スマートメディア、CF |
キヤノン PowerShot G2 |
1/1.8インチCCD |
有効約400万画素 |
34-102mm F2-2.5 |
1.8型 |
CF |
パナソニック LUMIX DMC-FZ1 |
1/3.2インチCCD |
有効200万画素 |
35-420mm F2.8 |
1.5型 |
SDメモリーカード、MMC |
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ソニー
Mavica MVC-FD95 |
2000年代になっても高倍率ズームレンズを求める傾向は変わらず、10倍ズームレンズを搭載したMavicaが導入されている。
そして、2000年代に新たにWatchシリーズの報道デジカメに欠かせない要素が登場する。「光学手ブレ補正機構」だ。発表会場では望遠ズームが必要とされるうえに、暗いことが多い。だからといって、1人で取材も撮影もしなければならないWatch記者は、三脚をすえつけて悠々と撮影に専念するわけにもいかない。光学手ブレ補正がなければ、ブレ写真ばかりになってしまうのだ。
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オリンパス
E-100RS |
コンパクトデジタルカメラでは、2000年にオリンパスから発売されたC-2100 Ultra Zoomにキヤノン製の10倍ズーム/レンズシフト式手ブレ補正ユニットが搭載されていたが、編集部で本格的に導入されたのは同じユニットを搭載するオリンパス
E-100RSだった。
E-100RSの画素数は有効145万画素と、200万画素機が主流だった当時にはすでに控えめなスペックだったが、その代わりに最大15コマ/秒の高速連写機能を搭載していた。Watchにはうってつけのこのコンセプトは、残念ながら市場に受け入れられず、モデル末期に大幅な値引き販売がされた。これに乗じて、編集部では大量にE-100RSを導入したのだった。
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2002年にWatchシリーズで使われていたカメラ。左からニコンD100+AF
VR Zoom Nikkor ED 80〜400mm F4.5〜5.6D、DMC-FZ1、E-100RS、MVC-CD1000 |
E-100RSに続いてほぼ「Watch標準報道カメラ」の地位を得たのはパナソニック LUMIX DMC-FZ1だった。小型軽量なボディに手ブレ補正機構付きの光学12倍ズームレンズ(しかも全域F2.8)を搭載し、当時としてはバーゲンプライスの59,800円で発売されたのだから、飛びつかないわけがない。Watchだけではなく、発表会場などの取材現場でも非常によく見られたカメラであった。
LUMIXシリーズは、マニュアル露出ができるようになった後継機のFZ2、500万画素になったFZ5、CCDやボディが大型化され、よりマニュアル機能が充実したFZ10など多数のモデルが導入された。LUMIXシリーズ以外では、CCDシフト式手ブレ補正機構を採用したコニカミノルタのDiMAGE
Z3/Z5や、8cm CD-Rを記録媒体とするソニーのMavica MVC-CD1000が導入されている。
● デジタル一眼の登場とこれから
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EOS
Kiss Digital |
こうしていまのところ、高倍率ズーム+光学手ブレ補正のコンパクトデジカメが、Watch用報道デジカメの標準となっているが、並行してデジタル一眼レフももうひとつの柱となっている。
デジタル一眼レフカメラがWatchに導入されたのは、2003年の初代EOS Kiss Digitalからだ。それ以前にも私物のニコン
D100が何台か使用されていたが、編集部で購入したのはKiss Digitalが始めてである。これは主に、発表会場でタレントを撮影することが多いGAME
WatchやAV Watchに導入された。
ちなみに筆者も私物のD100を使っていたひとりである。D100を購入するに至った動機は、とあるライターさんが送ってきた、EOS D60で撮影した画像を見たからだ。そのライターさんは決して写真がうまい方ではなく、掲載前のレタッチに苦労することが多かったのだが、D60で撮影した画像は、彼が撮影したとは信じられないくらいクオリティが高く、レタッチも不要だった。「デジタル一眼レフがあれば、こんなにきれいな写真を俺も撮れるかも」。そんな小さな誤解(?)が雪ダルマ式に大きくなって、デジカメWatchにつながってしまうとは。閑話休題。
デジタル一眼の魅力は、大きな撮像素子がもたらす画質の高さもさることながら、AFの速度をはじめとするレスポンスのよさや、オートホワイトバランスやAFの精度の高さだ。発表会では事前に予想もしていなかったようなところからタレントや製品が登場するような、サプライズが起きることがある。コンパクトデジカメではそのようなシーンは逃しがちだが、デジタル一眼ならフォローできることが多い。掲載時には画像が800×600ピクセル程度にリサイズされてしまうWeb媒体では、コンパクトデジカメでも十分なクオリティが得られるが、操作性の高さだけはデジタル一眼に勝るものはない。
現在では、タレントなどを被写体とすることが多く、画質の高さを求められるGAME/AV/デジカメ/家電の各WatchでD200、Kiss
Digital Xなどのデジタル一眼に使われており、そのほかのWatchではDMC-FZ7などのコンパクトデジカメが愛用されている。Watchでカバーする分野が広がるのと、デジカメの細分化がシンクロしているように見える。
ところで、取材現場では、デジタル一眼がデジカメの最終的な形態ではない、と感じさせられることが多々ある。Watch特有の事情を言えば、発表会や展示会で製品の写真を撮影するときは、大きな撮像素子によるボケがじゃまになって、むしろ小さな撮像素子で、被写界深度が稼げるほうが便利なこともあるし、デジタル一眼にしかないような超望遠域もそうそう必要とはされない。現状のデジタル一眼では動画を撮影できないのも痛い。動画と音を掲載できるのは、紙媒体にはできない、Web媒体ならではのメリットだからだ。
小型軽量なボディは、1人で広範囲を動き回らなければならない取材現場では、大きな武器だ。またファインダーに接眼せずにフレーミングできたり、ホワイトバランスや露出の効果を撮影前に液晶モニターやビューファインダー上で確認できるのも、撮影後のレタッチの手間を省くために有効だろう。
近年流行の顔を検出してAFやAEを行なう機構とか、通信機能の内蔵も、コンパクトデジカメならではの有望な技術といえる。パターン認識や通信は、まだデジカメにおける明確なメリットを見出せずにいる技術だが、手ブレ補正や高感度撮影機能のようなポテンシャルを秘めている予感は、たっぷりとある。
一方で、デジタル一眼の精度とレスポンスが、よりよい画像を得るためには有効であるのも、先に書いたとおりだ。双方のメリットを融合した、究極の「Watch用報道デジカメ」、あるいは「スーパーコンパクトデジカメ」が登場するのはいつのことだろうか。そして、それは決してWatchの記者だけに便利なカメラではないはずだ。
(デジカメ Watch デスク 田中 真一郎) |
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