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生前葬:思いさまざま 自ら別れを告げたい/「お仕着せ」でない式を…

 ◇自ら別れを告げたい/「お仕着せ」でない式を/社会的な関係の始末

 本人が生きているうちに葬儀を行う「生前葬」。1993年に元女優の水の江滝子さんが開いて知られるようになったが、一般の人が行うケースも出てきた。「元気なうちに身近な人に別れを告げたい」「形式にとらわれた葬式はいや」など思いはさまざまだ。【石塚淳子】

 ■名称は「授戒会」

 甲府市の下薗八二さん(80)、安子さん(73)夫妻は今年7月、市内のホテルで夫婦一緒に生前葬を開いた。お世話になった人たちにお礼を言うとともに、遠方に住む八二さんの兄弟と会う機会を作りたいという理由からだったが、葬儀会社に言われるままに進められる一般的な葬儀への疑問もあった。

 墓は10年前に作ってあり、住職に生前戒名をもらうことにした。生前葬という呼び方に身内から反対があったため、招待状は戒名をもらう「授戒会(じゅかいえ)」と言い換えた。読経や戒名を披露した後、会食しながら八二さんの傘寿も併せ祝った。

 生前葬後、八二さんは「区切りがついて安心した」。安子さんは「出席者に元気づけられ、これからも健康で頑張ろうという気持ちがわいてきた」と言う。

 本当に亡くなった時の葬式は、会葬者に焼香と記帳だけしてもらい、香典も辞退することにしている。

 ■まるで結婚式

 公益社執行役員の廣江輝夫さん(53)は2年前、当時80歳の川端千鶴子さんの生前葬をプロデュースした。川端さんは、大手教科書出版社に30年以上勤め「誰の世話にもならず、自分の人生を自分で支えてきた」と自負していた。第二次世界大戦で若い男性の多くが命を落としたため、独身を余儀なくされた女性の集まり「女の碑の会」の役員も務め、死後、お骨は京都・嵯峨野にある常寂光寺の納骨堂に納めてもらうと決めていた。

 葬儀の手配もしようと見積もりを取ったが、死んだ後では友人と話すこともできない。高齢になった友人・知人が葬儀に来られなくなることも心配だった。水の江さんの例が印象に残っていたこともあり、生前葬を開くことにした。

 05年5月、大阪駅前のホテルで、元同僚や友人ら38人を招き「感謝とお別れの会」として開催した。前半は川端さんの人生や生きてきた時代を振り返るビデオ上映と、常寂光寺の副住職による法話。後半は会食と出席者のスピーチ。フルートと尺八の演奏や出席者による歌も。最後に川端さんが出席者一人一人とあいさつを交わし、まるで結婚式のようだった。

 川端さんは昨年12月に亡くなったが、「一度『死』という場所に身を置いたことで、それまでの自分の人生がいとおしいものに思えてきた」と周囲に話していたという。

 ■趣旨はっきりと

 廣江さんは「生前葬は祭壇を飾って葬儀のまねごとをするイメージが強く、家族に反対されることもある。誤解を解くためにも、どういう趣旨で開くのかはっきりさせる必要がある」と話す。

 ◇死を意識し、人生丁寧に

 ■考え方、自由に

 東京都生活文化局が02年3月にまとめた「葬儀にかかわる費用等調査報告書」によると、生前葬について「ぜひやってみたい」は0・2%。「機会があれば、やってみてもよい」を合わせても2%に満たず、まだ一般的とは言えない。

 一方で自分の葬式について「形式にとらわれないで行ってほしい」と考えている人は46・6%と半数近くに上る。葬式に対する考え方自体はかなり自由になっているといえそうだ。

 お葬式コーディネーターの柴田徇也さん(60)は、今後、「団塊の世代」が自分の死や葬儀を意識するようになると、葬儀のあり方も変わってくるだろうと予測する。「自分で感謝を述べ、社会的な関係の始末ができるという点から、生前葬という考え方があってもいいのでは」

 ■遺族の負担減も

 ハッピー・エンディング・プロデューサーの若尾裕之さん(46)は「家族が亡くなった時、誰に連絡したらよいのか、また本人はどんな葬式を望んでいたか、分からないことが多い」と指摘。にもかかわらず、遺族は短期間のうちに通夜や葬式の段取りをつけなければならず、別れを惜しむ余裕すらないこともある。「生前葬を行い、亡くなった時は家族葬などの形で簡単に済ますことにし、葬儀会社も決めておけば家族は楽だろう」と若尾さん。

 若尾さん自身、今年2月に急性肝炎で死と隣り合わせの経験をしたこともあり、近著「ハッピーなお葬式がしたい!」(マガジンハウス)の出版記念パーティーを「生前葬」と銘打ち、サックス演奏あり、サンバありのにぎやかな会にした。「生前葬なら自分で企画・運営し、自分の目で見届けられる。死を意識することで、残りの人生を丁寧に生きたいと思うようになった」と話す。

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 ◇費用

 ●下薗さん夫妻の場合

 会場費、飲食代、出席者(親類、友人ら88人)へのお土産、遠方からの出席者の宿泊や食事代、戒名の謝礼などすべて合わせて400万円弱。会費は取らなかったが、お祝いを包んでくれた人が多かった。

 ●川端千鶴子さんの場合

 飲食費、会場費が60万円、自分史ビデオの製作、自作の仏像などを置くための展示コーナーの設置、企画費などが60万円。全員を招待した。

 *葬儀会社やホテルなどで相談を受け付けているところもある。公益社は電話0120・347・556。

毎日新聞 2007年10月12日 東京朝刊

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