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周産期医療が危ない

2007年10月12日

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小児科の時間外の救急医療体制を一部縮小した公立甲賀病院。建物の老朽化で、移転が検討されている=甲賀市水口町鹿深で

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【分娩受け入れ総合病院14に減少】
【医師不足、県が公募で対策】

 医師不足で分娩(ぶんべん)の受け入れを取りやめる総合病院が増え、県内の周産期医療(妊娠満22週から生後7日未満の産科・小児科双方による医療)が厳しい局面を迎えている。03年に県内に20カ所あった分娩が受け入れ可能な総合病院の数は、今年8月末現在で14カ所にまで減少。開業医の負担も増えている。医療水準の低下に危機感を持った県は、公募による医師確保に踏み切るなど対策に乗り出した。(上田悠)

 彦根市に住む山本友香さん(31)は昨年10月、次女を出産する際に救急車で彦根市立病院(彦根市八坂町)に搬送された。帝王切開の緊急手術が必要だったため、病院にあと5分到着するのが遅れたら、無事出産できたかわからなかったという。

 同病院は今年3月、3人いた産婦人科医のうち2人が退職したことから、分娩の受け入れを中止。山本さんは同病院での分娩継続を求めて「彦根市立病院での安心なお産を願う会」(現・安心なお産を願う会)に加わり、署名活動や勉強会に参加してきた。山本さんは「市立病院で分娩ができなくなり、これから出産する人たちは、容体が悪化した場合や手術が必要な時にどうすればいいのか……」と、不安を口にする。

 6月、彦根市立病院に続き、近江八幡市立総合医療センター(近江八幡市土田町)も新たな妊婦の分娩の予約受け付けを中止した。10月には公立甲賀病院(甲賀市水口町鹿深)が、医師の退職を理由に小児科の時間外の救急医療体制を一部縮小。同病院の冨永芳徳院長(64)は「全国的な医師不足で、地方の一病院の努力で対応することが出来ない状況になった」とコメントしている。

 彦根市消防本部では、市立病院が分娩の受け入れをやめて以降、近江八幡市立総合医療センターなど市外の3病院に妊婦を搬送してきたが、そこも分娩の受け入れを断念したことで、9月以降は、妊婦や新生児の搬送先が長浜市内の病院に限られた。今のところ、他府県の病院に受け入れを依頼するケースや、受け入れ先が見つからない事態は起きていないが、「病院からいつ妊婦や新生児の受け入れを断られるかわからず心配。一日も早く市内に搬送先を整えてほしい」(同本部)と訴える。

 こうした事態を受け、県は7月、医師免許を取得して5年以上経過した産婦人科と小児科の医師をそれぞれ1人ずつ公募した。県職員として身分を保証するほか、「地域医療研究資金」として500万円を貸し出す。返済は公立病院などで2年間勤務すれば免除されるという。8月の期限までに応募者がいなかったため、10月末まで募集を延長したという。

 また、県は9月、周産期医療の実態を調べるため、年間2750万円を拠出して滋賀医大(大津市瀬田月輪町)に「地域医療システム学講座」を開設。同大学の産婦人科と小児科の医師に、新生児や母体の治療に携わる医師の養成方法や医療機関の役割分担などについての研究を依頼した。県医療制度改革推進室は「今後、研究成果を県の政策に反映させ、医療機関への支援を強化していきたい」と話している。

 厚労省の人口動態統計によると、県内の06年の出生1千人あたりの周産期(生後7日未満)死亡率は6.2人で、全国平均4.7人を大きく上回っている。新生児(生後4週間未満)、乳児(生後1年未満)の死亡率も全国平均を大きく上回っており、過去10年間、ワースト10の常連になっている。今後、医師不足が続けば、医療水準が低下し、数値が悪化することも考えられる。

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