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更新:10月12日 11:43デジタル家電&エンタメ:最新ニュース

Wiiソフト、任天堂の一人勝ちが止まらない理由

 「任天堂カンファレンス07秋」に取材のため参加してきた。今回の発表では、多くの耳目を集めるようなサプライズはなかった。ただ、全体のプレゼンテーションを聞きながら、ぐうの音も出ないような気分になった。任天堂が打ち出した今後のメニューは決して万全とは言えないが、それでも「Wii」のサービスレベルを着実に向上させる材料が抜かりなく盛り込まれている点は評価せざるを得ないからだ。(新清士のゲームスクランブル)

 このところ、Wii向けゲームソフトの販売本数がハードの普及台数と比較して少なく勢いも止まってきていると、変調を指摘する声が出始めている。事実、100万本を突破するようなタイトルはWii発売時のものだけにとどまっている。しかしこれから年末商戦に向けては、健康管理をテーマにした「WiiFit」などさまざまなキラータイトルが用意され、引き続き市場を引っ張っていくであろう。

 WiiFitの8800円という価格設定は、予想の範囲内といえたが決して安い金額ではない。適正と感じられる価格よりも若干高めに設定するのが、このところの任天堂の価格戦略だ。売れるか売れないかといわれると、私は売れるのではないかと思っている。

■任天堂のノウハウの圧倒的なアドバンテージ

「WiiFit」について話す岩田社長=10日

 むしろ今の任天堂の最大の問題は、任天堂以外のサードパーティー製タイトルがなかなか実績を出せないことにある。「ドラゴンクエスト」という国内トップブランドの冠を乗せた「ドラゴンクエストソード」(スクウェア・エニックス)ですら販売本数は50万本に届かず、サードパーティーのタイトルはWiiでは成功しないという事実を歴然と示した。これは世界的に見ても同様で、結局のところ販売本数で上位を占めているのは任天堂のタイトルなのだ。

 なぜ、販売本数にこれだけの差がつくのか。その大きな要因として、任天堂が蓄積している技術的なノウハウとサードパーティーとのそれにかなりのレベル差があることはほぼ間違いない。

 1つは色調の問題である。任天堂とサードパーティーのタイトルを比較して見て、すぐにピンと来るのがグラフィックの違いだ。任天堂製タイトルの方がグラフィックが豪華に見えるのだ。

 サードパーティーと任天堂の間に開発環境の差はない。ところが任天堂は、Wiiというハードではどういう色調でどういう絵作りをすれば「プレイステーション3(PS3)」や「Xbox360」に引けを取らない豪華さを出せるかというノウハウの蓄積が着実に進んでいる。

 カンファレンス会場のデモで、セガのガンシューティングゲーム「ゴースト・スカッド」を触ってみた。ガンアタッチメント「Wiiザッパー」を利用するタイトルで、ゲームとしては相当におもしろい。ただ、グラフィック面ではどうしても1世代古いという印象をぬぐうことができず、絵的な体験としては物足りなさを感じてしまう。ところが、「スーパーマリオギャラクシー」を遊んでみると、そういうグラフィック的に弱いという印象は受けない。

スーパーマリオギャラクシーの画面

セガのゴースト・スカッドの画面

 三次元グラフィックを使った一人称シューティングは日本ではあまり人気が出ないが、その理由として、プレーヤーがゲームをやっているときに酔ったようになりやすいため、といわれている。しかし、スーパーマリオギャラクシーではそう感じにくいように、視点や構図が非常に計算されて設計されている。個人的にプレーしてみた印象としても、酔いを感じるということはなかった。

■ハードを単なる機械ではなくウェットに感じさせる工夫

 これは、WiiFitにも言えることで、画面の色味の選択からインターフェイスまで、とにかく細かいところの気が利いている。WiiFitのインターフェイスが、自分のことを画面内の説明で「ワタクシ」と呼んでみたり、くねくねと形を変形させながら画面内を歩いてみたりと、ハード自体に親近感を抱かせる工夫が随所に盛り込まれている。「ワタクシに乗ってください」なんて自分を呼ぶような体重計は聞いたことがない。

 任天堂の開発チームは、そういうちょっとした工夫を通じて満足度を引き上げるコツという面で、他のサードパーティーと比べすばぬけてレベルが高い。この差は、一朝一夕で埋めることは難しい。Wiiでは、他のハードとは違うゲームの文法に基づいた作り方をしなければ、市場で高い評価を得るのは難しいのではと感じられた。

WiiFitの画面

 ゲーム機を単なるハードではなく、擬人化しウェットな存在として感じさせるための工夫が任天堂は非常に上手い。しかも、控えめに、さりげなくそういう要素を入れてくる。そこには、無機物にどうやって暖かみを感じさせるかというコンセプトが流れているように思われる。これはニンテンドーDSの「おいでよどうぶつの森」や「脳トレ」などのヒットソフトにも共通している。

 単に適切なユーザーインターフェースを設計するという要素を超えたそのノウハウを、任天堂の開発チームがどう蓄積して発展させてきたのかは正直わからない。しかし、こうした開発スタイルは欧米の開発企業にも、私の知る限り存在しない。これが任天堂の強力なアドバンテージなのだろう。

■日本市場だけで収益を上げられる優位性

 岩田聡社長もプレゼンテーションで認めていたが、今年の年末商戦は、特にWii向けタイトルでは任天堂の独壇場とならざるを得ないだろう。一方で、DSはサードパーティーのキャッチアップが進んでラインアップが非常に多彩となり、サードパーティー製タイトルのヒットも登場してくると思われる。

 気になったのは、DSの25本ある新作タイトルのうち、一本も海外製のタイトルが含まれていなかった点だ。Wiiも同様で、発表になった約40タイトルのうち海外のタイトルはわずか2本にすぎない。任天堂は少なくとも日本市場においては、自社タイトルと国内サードパーティー製タイトルで勝負するという戦略が明白である。

 そこからは、海外タイトルに依存しなければラインアップを拡充できない他のハードに比べて、日本のユーザーにアピールしやすい優位性があるというメッセージが伝わってきた。国内サードパーティーが日本市場で収益を上げるためには、任天堂の2つのハードが有利なプラットフォームであると判断せざるを得ない部分があるだろう。

■ゲーム人口拡大のためのさらなる手

 岩田社長は「ゲーム人口拡大を一過性の現象に終わらせないために」として、継続的なゲーム人口拡大のために何をするかを述べている。

 Wiiのコンセプトとして「1.家族とゲーム機の関係を変える」「2.テレビとゲーム機の関係を変える」「3.インターネットとテレビの関係を変える」という柱を立てていたが、うち1と2については成功した。3については、現在のWiiのインターネット接続率が40%であり、さらに引き上げるために施策を進めると強調した。

 その目玉の1つは、新作ソフトをインターネット経由で配信する「WiiWare」の来年3月スタートだが、「WiiChannel」に追加される新しい番組にも注目すべきだろう。特に、新作タイトルのデモ動画などをリリースする「みんなのニンテンドーチャンネル」は、すでに他の競合ハードでも行われているサービスであるが、他にはない要素を持っている。

 デモ動画やタイトルそのものの評価をユーザーが投稿でき、それを集計するといういわゆる「集合知」を活かした仕組みである。これは北米のゲームメディアでは一般的に行われているが、ゲーム機自体にその仕組みを組み込んでサービスを展開するものとしては初めてになる。ユーザーは他のプレーヤーがどのように遊んでいるかという傾向や評価などをWiiを通じて知ることができ、非常に強力なツールとして機能する可能性がある。

 このところ、Wii向けタイトルの販売本数が任天堂製タイトルでさえ伸び悩みはじめているという事実が数字として出ている。ただ、ハードの販売台数が1000万台を超えているのもまた事実で、何かのきっかけがあればソフトの販売本数はすぐに上ブレを起こすだろう。年末商戦が任天堂を中心に進むことは間違いなく、その勢いが急に止まることもなかなか考えにくいと感じた。

[2007年10月12日]

-筆者紹介-

新 清士(しん きよし)

ゲームジャーナリスト。立命館大学映像学部講師

略歴

 1970年生まれ。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心にリサーチするジャーナリストに。他に、ゲーム専門学校デ
ジタルエンタテイメントアカデミー講師。ゲーム開発者を対象とした国際NPO、国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表。コンピュータエンタテインメント協会(CESA)理
事。ブロードバンド推進協議会(BBA)オンラインゲーム専門部会部会長。日本デジタルゲーム学会(DiGRA Japan)理事。著書に『「侍」はこうして作られた』(新紀元社)
<関連リンク>

国際ゲーム開発者協会日本
E-mail:sakugetu@gmail.com

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