内藤(左)の鋭い左が再三、大毅のレバーにくい込んだ(クリックで拡大) |
大毅に格の違いを見せつけ、「国民の期待に応えた」王者・内藤。元いじめられっ子が「ゴキブリ」とののしられながら乱暴者を成敗し、貧乏生活からビッグマネーを手にするというサクセスストーリーが現出した。
「KOはできなかったけど、勝ったことを素直に喜びたい。亀田に初黒星をつけたことで国民の皆さんの期待に少しは応えられた」
33歳1カ月という日本のジム所属選手の最年長防衛記録を更新した内藤は、心底ホッとした表情で語った。
ただでさえ重圧がかかる初防衛戦。「勝って当然」という空気の中での戦い。「負けて当然」といわれた戴冠戦とは比べものにならない重圧がのしかかった。試合直前は眠れない日が続いた。
母・道子さん(66)は試合後、そんな内藤を思いやり「雰囲気に飲まれると心配していたので勝ってうれしい。王者になって防衛もした。故郷に帰ってきたら、ほめてやりたい」と語った。
8月、内藤は「小さい時からほめられたことがないんですよ。世界タイトルを取ればさすがにほめてもらえると思ったんですが…」と告白していた。母にも認められる王者になった瞬間だった。
今回手にしたファイトマネーは1000万円。北海道・豊浦町で民宿を経営する両親に、この一部を建物のリフォーム代として贈る予定だ。
内藤は中学時代はいじめられっ子。プロボクサーになっても月収12万円の清貧生活を送った。2002年の世界初挑戦では、絶対王者ポンサクレック(タイ)と対戦。史上最短という1R34秒のKO負けを喫し、「日本の恥」とまで言われた。それでも、その相手に奇跡的に勝利し、王座についた。
対する大毅は過激な言動と試合後の歌などパフォーマンスで話題先行型。内藤を「ゴキブリ」とののしり続けた。
こうした亀田家の言動もあり、この一戦はプロレスも真っ青の善玉Vs悪玉の構図となり、会場は内藤への声援、大毅へのブーイングに包まれた。
だが、試合に勝った内藤は、大毅を「いい選手だった」と持ち上げ、「切腹」発言にも「最初から切らないのは分かっているから。ネチネチとこれ以上いったらかわいそう」と大人の対応で好感度を演出した。
ただし、善玉は悪玉がいてこそ輝くのも事実。内藤単体での人気は依然、不透明だ。世界的には、ランク14位の格下を倒しきれずに順当勝ちしたにすぎない。観客のなかには「大毅すら倒せないようでは、期待に応えたのは『少し』だ。興毅とやったら案外負けるかも」(40代男性)と見る向きもあった。
真価が問われるのは次戦。12月にもポンサクレックとの敵地での再戦が浮上するほか、興毅戦や6年前に引き分けたWBA王者・坂田健史との統一選のプランもある。
内藤は「今はゆっくり休みたい」と語ったが、休んでいる暇はない。
ZAKZAK 2007/10/12