2007年10月12日 更新
【BOX】罵声の嵐!大毅弱かった…王者・内藤に0−3大差負け
内藤(背中)のトランクスにある「最短男」−。02年4月の世界初挑戦でフライ級の世界戦史上最短となる1回34秒で散った初心を忘れない。そんな王者を投げ捨てる、レスリング行為をはたらいた大毅(左)。まさにプロレス技のスープレクスだ(撮影・佐藤雄彦)
ベルトは王者の腰に。内藤がガッツポーズ(撮影・斎藤浩一)
プロボクシング・WBC世界フライ級タイトルマッチ(11日、有明コロシアム、観衆=6000)オイオイ、これってボクシング!? 「亀田3兄弟」の二男で挑戦者の大毅が、王者・内藤大助(33)に0−3の大差判定負け。世界初挑戦での王座奪取に失敗し、プロ初黒星を喫した。18歳9カ月5日の大毅は、井岡弘樹(グリーンツダ)が持つ世界王座獲得の日本人最年少記録(18歳9カ月10日)の更新を狙ったが、かなわず。元WBA世界Lフライ級王者で長男・興毅(20)=協栄=に続く、国内初の兄弟世界王者もならなかった。
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聖域が汚される。最後はもはやボクシングではなかった。12回は度重なるレスリング行為を2度はたらき、減点3を受けた。前代未聞の反則の連発。最大で10点差が開く大差の判定で、大毅が醜く散った。
場内からは激しいブーイングが巻き起こる。「この試合で負けたら、切腹する」。前日の会見の席上、激しい言葉で意気込みをアピールした大毅に、「切腹はどうした!」「腹を切れ!」と罵声が浴びせられた。
父・史郎トレーナー(42)、長男の興毅(20)=協栄、大毅は下を向いたまま。16歳の三男・和毅(ともき)も含め、一家は一切言葉を発することなく、控室から15人以上の警備員に囲まれて、逃げ出すように会場をあとにした。
亀田家にとって、初の日本人対決。興毅と築いてきた無敗ロード、「亀田家神話」がついに崩壊した。ガードを高く上げて前へ出るが、得意の左フックが当たらない。内藤の右フック、ボディーアッパーを浴びて、イライラだけが募った。4回、8回のオープンスコアリングで大差を確認すると、クリンチから無用な投げ技を連発した。史郎トレーナーも、大毅も王者・内藤を「ゴキブリ」とののしったが、さらした醜態はそれ以上に、みにくかった。
昨年2月のデビュー以来、序盤でのKO勝ちを積み重ねてきた。だが、対戦相手は戦闘意欲に欠ける外国人選手ばかり。試合よりも、KO勝ちしたリング上で見せる熱唱パフォーマンスの時間のほうが長いことも多く、日本人との試合をしてこなかった大毅に、批判の声も根強かった。
97年6月、WBA世界ヘビー級タイトルマッチで元統一世界同級王者マイク・タイソンが、王者イベンダー・ホリフィールド(いずれも米国)の耳を噛み切って、3回失格負けとなったことがある。このとき、ホリフィールドは「(相手に)勝てないと思ったボクサーの醜い蛮行」と斬って捨てた。試合後、無言で会場をあとにした一家に、ホリフィールドの言葉が重くのしかかる。内藤の一言も痛烈だ。「大毅は(7月に王座を奪った)ポンサクレックよりも全然弱かったな」。
今回の試合の興行権は、内藤が王座を奪った前王者ポンサクレック・ウォンジョンカム(タイ)側にあり、資金力の乏しい宮田ジムでは手に負えず、協栄ジムが興行権を買い取ることで成立。日本人選手の最年少世界王座獲得を狙う大毅に機会をつくったが、大きな期待も裏切った。
だが、協栄ジム・金平桂一郎会長(42)は「18歳としてはいい展開になったと思う」と評価した。デビュー戦で兄のKOタイムを抜く、1回23秒で勝利。兄より1試合早い11戦目で世界初挑戦を実現させたガッツも持ち合わせている。
史郎トレーナーは「この悔しさをバネに、またがんばるしかない。大毅は一から出直しや」と関係者を通じてコメントした。腹は切らない。もう1度、力強く再生する。
(伊藤隆)
★観戦した森田審判員「わたしなら失格負けにする」
最終12回、大毅が内藤をリング上で放り投げ、レスリング行為として計3点の減点を取られ、場内からは大ブーイング。前代未聞の失態に、WBC審判委員を務める森田健氏(72)は「わたしなら失格負けにする。あの行為はひどい」とあきれ、嘆いていた。同氏は41年間の審判員生活で、約100試合の世界戦のレフェリー、ジャッジを務めた。
■亀田 大毅(かめだ・だいき)
1989(昭和64)年1月6日、大阪・西成区天下茶屋生まれ、18歳。小3でボクシングを始め、04年5月、15歳4カ月の史上最年少で全日本実業団選手権バンタム級優勝、同年の全日本社会人選手権同級で準優勝。06年2月プロデビュー。KO勝ちしたリング上では、熱唱パフォーマンスを披露。11戦10勝(7KO)1敗。1メートル68。右ファイター。
▼レスリング行為
世界戦でも適用される日本ボクシングコミッション規約「第28章 ダウン及びファウル」第89条の5では、咽喉を締めたり、腕または肘で相手の顔を圧したり、足を掬ったり蹴ったり、膝で突き上げたり、あるいは抱えつき、抱え投げ、引っ張り、引き倒したりすることを禁止している
WBC世界フライ級タイトルマッチ (11日、有明コロシアム) | ||||
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▼12回戦 | ||||
同 級 王 者 | 内藤 大助 (宮 田、33) 50.8キロ | 判定 3−0 | 亀田 大毅 (協 栄、18) 50.8キロ | 同 級 14 位 |
※内藤は初防衛 |
内藤大助 | 亀田大毅 | |||||
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ブルナー | ローレンス | モレッティ | 採 点 表 | モレッティ | ローレンス | ブルナー |
10 | 10 | 9 | (1) | 10 | 9 | 9 |
10 | 10 | 10 | (2) | 9 | 9 | 9 |
10 | 10 | 10 | (3) | 9 | 9 | 9 |
9 | 10 | 10 | (4) | 9 | 9 | 10 |
10 | 10 | 10 | (5) | 9 | 9 | 9 |
10 | 10 | 10 | (6) | 9 | 9 | 9 |
9 | 9 | 10 | (7) | 9 | 10 | 10 |
10 | 10 | 10 | (8) | 9 | 9 | 9 |
9 | 9 | 9 | (9) | 9 | 9 | 9 |
9 | 9 | 10 | (10) | 9 | 10 | 10 |
10 | 10 | 10 | (11) | 9 | 9 | 9 |
10 | 10 | 9 | (12) | 7 | 6 | 6 |
116 | 117 | 117 | 計 | 107 | 107 | 108 |
【注】レフェリーはビック・ドラクリッチ(米国)。ジャッジはマルコム・ブルナー(豪州)、ハロルド・ローレンス(オランダ領キュラソー)、デーブ・モレッティ(米国)。内藤は9回に減点1、亀田は12回に減点3 |