産科医療 医師減少、救急対応鈍らす
公明新聞:2007年10月12日
地域の実態踏まえた体制構築を
5日に1回の「当直」
今年(2007年)8月に起きた、奈良県の妊婦が多数の病院に受け入れを断られた末に救急車内で死産したケースなどを受けて、各地で地域内の連携など産科救急の在り方を見直す動きが相次いでいる。
日本産科婦人科学会は、地域の拠点となる病院に医師を集約化することで医療の質を高める構想を発表している。産科救急の見直しに際しては、地域で産科を担う病院や医師数、勤務実態も十分に考慮に入れた体制を構想する必要があるだろう。
病院に勤める産科医の勤務実態を浮き彫りにする全国調査の結果が、日本産婦人科医会から発表された。それによると産婦人科勤務医の当直回数は2006年度で月平均6.3回、6年前に比べ約30%も増えているという。単純に計算すれば5日に1回以上の頻度で当直していることになる。その上、9割以上の施設で医師は当直明けもそのまま勤務を続けていた。
当直明けも働き続けるという実態は、例えば、きょうの朝から勤務を開始したとすれば、ほとんど休憩も取らず、少なくとも、あすの夕方まで働き続けるということだ。乗客の命を預かる電車やバスの運転手であれば到底、許されないような勤務が常態化していることを表している。疲弊というより“燃え尽きる”ような過酷な勤務の中で起きる医療事故も心配される。
当直回数は2000年度に行われた調査では月4.7回だったとされるので、1.6回増えた計算になる。同医会ではこの数字を、小児科や救急などと比べても多いのではないかと分析している。
このように勤務が過酷になる背景には、産科医師数そのものが減り続けている実態がある。日本産科婦人科学会が昨年まとめた調査結果によると、1994年からの10年間に産婦人科医は8.6%減少し、その半数に当たる4.3%が直近の2年間で減っていた。そのあおりを受けて、分娩を扱う医療機関は05年度までの12年間で全国で1200施設も減っていた。地域でお産をする病院がない、いわゆる“お産難民”が生まれる背景にはこうした実情がある。
産婦人科医が辞めてしまう理由には、過酷な勤務実態に加え、他科に比べて訴訟が多く敬遠される、若い世代で急激に増えている女性医師が自らの結婚や出産を機に辞めてしまう問題もある。産科医会は、過重労働やそれに見合わない対価、産科医やお産ができる施設の不足に拍車を掛け、それが妊婦の救急搬送先が見つからない一因になっていると分析している。
産科医療体制の見直し、再構築に当たっては、地域で働く医師数や施設の実態を十分に踏まえた検討を行う必要がある。身近ではあっても産科医が1人か2人しかいない施設がたくさんあるよりは、多少は遠くなっても、医師数が多く設備も充実、ハイリスクのお産にも対応できる施設がある方が、提供される医療の質は高くなる視点を持つ必要があろう。
「産科診療圏」構想も
産婦人科医の育成へ即効策が見つからない中、産科婦人科学会は具体的な対応として、人口30万~100万人ごとに24時間態勢で対応できる中核病院を中心に「産科診療圏」を設定、ハイリスクの妊娠・分娩を扱う医療機関は原則、専任の医師を3人以上置く構想を提言している。その地域にふさわしい構想は、当然のことながらその地域の医師会や病院、行政が連携して知恵を絞るしかない。
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