学生時代を過ごした京都市に先月、久しぶりに出向いた際のひとこまです。人があふれる繁華街から、少し離れた場所にある、ガラスペンの小さな工房を訪ねようと、百貨店の前で客待ちしていたタクシーに乗り込みました。
「北白川の○○町へお願いします」。あらかじめインターネットで調べておいた工房の町名を丁寧に告げたところ、白髪を振り乱した運転手はいきなり「そんな町名言われても分からしまへん。町名言うて、行き先が分かる京都の運転手なんか、おりまへんでえ」とつれない返事。そこで、印刷してきた地図を見せようと運転席へ差し出すと、すかさず「あかんあかん、わたしゃ、老眼で見えまへんのや」。地図には目もくれません。
京都は碁盤の目のように道路が通る街。結局、東西の通りと南北の通りの名称で目的地を表現する京都ならではの道案内により、工房周辺へ連れて行ってもらいました。
世界でも抜群の知名度を誇る国際観光都市、京都。そこで稼ぐ客商売のタクシーの接客が、このありさまとは。「もてなしの心は無いんか」と思う半面、そんな接客でもやっていけるほど、黙っていても国内外から年間数千万人が訪れ、どんどん金を落としていく、この都市が持つ力に、やっかみも覚えました。
さて、お目当ての工房。岡山からやってきたことを告げると、あるじの職人のご老体は「遠いところから、ようこそ、ようこそ」といきなり三千円の値引き。これでくだんのタクシー代の元は取れることに。やはり京都は懐が深い…。
(玉野支社・小松原竜司)