現在位置:asahi.com>社説 社説2007年10月11日(木曜日)付 給油転用問題―疑惑はとても晴れぬ衆院予算委員会で、海上自衛隊の給油活動をめぐる本格論戦が始まった。だが、疑惑はまだ晴れない。 焦点は、インド洋で日本の補給艦から給油を受けた米国の補給艦が、イラク作戦に従事した米空母に再給油していた問題だ。結果的に、イラク作戦に転用されたのではないかという疑いである。 この問題が浮上したのは03年5月、テロ特措法の最初の延長が論議されたころだ。当時、政府の説明はこうだった。 給油したのは20万ガロン。空母が1日に消費する量で、ペルシャ湾に入る前に使い果たしたはず。だからイラク作戦への転用はありえない。当時官房長官だった福田首相の説明だ。 ところがその後、実際の給油量は80万ガロンで、再給油を受けた空母は1日足らずでペルシャ湾に入り、さらにイラク方面へ湾内を航行していたことが判明した。 首相はきのう、給油量について「情報の取り方にミスがあった」と答弁し、そのことについては謝った。 だが、待ってほしい。ことは量の問題だけではない。「20万ガロン」だから転用はありえないといって疑惑を否定し、テロ特措法を延長したのではなかったか。それを「80万ガロン」に訂正するなら、転用疑惑を否定する論拠が崩れたわけで、給油活動の正当性が疑わしくなる。 特措法延長を通すために、政府がウソをついたのではないのか。民主党の菅直人氏がそう追及したのも無理はない。当時、答弁に立った官房長官が首相の座にあり、石破防衛庁長官もいま防衛相を務める。そろって、いま、その始末を迫られている。 政府は給油継続のための新法を近く提出する方針だ。法案を本気で通したいのなら、この問題の政治的なけじめをきちんとするところから始めるべきだ。間違った数字を報告した官僚のミスというだけで済ますわけにはいくまい。 防衛相は、転用疑惑を否定する新たな理屈を持ち出した。確かに空母はペルシャ湾に入ったが、日本の燃料を使っていたと思われる3日間はあくまでアフガン作戦だけに従事していたというのだ。 空母の艦載機がペルシャ湾内からアフガンまで飛ぶには、国交のないイラン上空を経なければならない。それは無理だろうから、大きく迂回(うかい)して飛んだことになる。事実なら、なんとも不自然だ。 そもそも、空母がイラクに向かってペルシャ湾を航行すること自体が、イラク作戦のための行動であり、テロ特措法の目的から外れているように見える。 さらに深刻なのは、転用疑惑の対象がこの空母の件だけなのかという点だ。給油を受けた米艦の6割が補給艦である。その先にどう使われたのか。給油活動の全容についてデータを開示しなければ、判断のしようがない。 政府が情報を少しずつ明かし始めたのは結構だが、この程度の説明では国会や国民を説得するには不十分だ。 宇宙時代50年―日本の得意技を生かせ直径約60センチ、重さ80キロ余り。アルミ製の小さな球が突然、数百キロの上空に現れて信号を発し、世界を驚かせた。 ちょうど50年前の1957年10月、旧ソ連が打ち上げた人類初の人工衛星スプートニク1号である。冷戦のさなか、米ソの激しい競争とともに、宇宙時代が幕を開けた。 旧ソ連は4年後、ガガーリン少佐による初の有人飛行にも成功した。 人工衛星や探査機などスプートニクの後輩たちは、これまでに6千近くを数え、世界を大きく変えた。 何より変わったのは、人々の地球観だろう。荒れ果てた月面の向こうの真っ暗な宇宙に、奇跡のように青い地球がぽっかりと浮かんでいる。アポロ8号が68年に撮影した地球の写真は、地球人としての意識を生み、地球環境を守ろうという運動の出発点となった。 宇宙競争がむしろ、地球のかけがえのなさに目を向けさせた。宇宙を知ることは、地球を知ることなのだ。 今月初め、日本の月探査機「かぐや」が月の軌道に入った。米ソが激しい先陣争いを繰り広げた月は今、新たな探査ラッシュだ。今後、中国、インド、米国が次々に探査機を飛ばす。欧州やロシアも意欲を見せる。競いつつ、協力もする。そんな時代になった。 さらに、仲間が加わるかもしれない。ネット検索で知られるグーグル社は先月、民間チームが月面に無人探査機を送って写真を撮るのに成功したら、2千万ドルの賞金を贈ると発表した。月探査も国家の独占物ではなくなりつつある。 こんな新しい宇宙時代に、日本は何をめざすのか。 厳しい財政状況の下で、宇宙開発には毎年、3千億円近い予算が投じられている。自然災害の予測や対策、資源の探査などで、国民の生活に役立たせる必要がある。さらに、日本ならではの技術を国際社会で生かす道を探るべきだ。 たとえば、日本の探査機「はやぶさ」は1〜2メートル四方の小さな機体ながら、新開発の高性能エンジンを使って、はるか遠い小惑星に到達した。そこで世界で初めて小惑星の岩石の採取を試みた。3年後、岩石のかけらを持って地球に戻れたら、世界はさらに驚くに違いない。 こうした小粒でもぴりりとからい技術が日本の得意技だ。総花的ではなく、日本の技術の向上につながり、世界からも一目置かれる計画に取り組みたい。 アジアの国々を見渡せば、宇宙技術の進歩から取り残された国も多い。そうした国に対しては、災害対策などで積極的に手を差し伸べなければならない。 一方、世界の宇宙開発はスプートニク以来、今日まで軍事利用と深く結びついていることも事実だ。できるだけ軍事利用を減らし、平和な宇宙空間を築いていくには、どうすればいいのか。平和利用の原則を貫いてきた日本は、ここでも大いに出番がある。 PR情報 |
ここから広告です 広告終わり どらく
一覧企画特集
朝日新聞社から |