政府は9日の閣議で、北朝鮮に対する経済制裁を半年間延長することを決めた。拉致問題の解決なくして日朝国交正常化なし、というのが日本の基本的立場である。拉致問題で具体的進展が見られない現状では、制裁継続はやむをえない。
政府は北朝鮮による昨年7月のミサイル発射と10月の核実験を受けて独自の制裁に踏み切った。北朝鮮からの全品目の輸入禁止や北朝鮮籍船舶の全面入港禁止などが内容だ。今年4月に半年間延長し、今回再延長した。
国連安全保障理事会の決議を受けて実施中のミサイル関連企業・個人に対する口座凍結などの金融制裁やぜいたく品の輸出禁止も継続する。
制裁継続の理由について町村信孝官房長官は、拉致問題で進展がないことと、核問題を含む諸般の情勢という2点を指摘した。日本の対北朝鮮制裁がそもそも、国際社会共通の懸念である核問題と、拉致という日朝間の固有の問題に対する「圧力」という意味合いがあることを考えれば当然の指摘だろう。
核問題については今月上旬の6カ国協議で、北朝鮮が今年12月31日までに3カ所の核施設を無能力化することと、すべての核計画を申告することで合意している。不十分な点を残してはいるが、6カ国協議はこの「第2段階措置」の年内履行へ向けすでに動き出している。
一方、拉致問題については具体的な動きがまったく見られない。政府認定の拉致被害者は17人だが、このうち12人は未帰国だ。このほか、拉致の疑いが濃厚とされる特定失踪(しっそう)者も多数にのぼる。
金正日(キムジョンイル)総書記は3年前、死亡・不明とされている拉致被害者の安否について再調査することを約束した。だが、その後北朝鮮が提出した物証や資料、記録には信ぴょう性を疑わせるものが多々あった。加えて、先週の南北首脳会談で金総書記が「これ以上、拉致された日本人はいない」と発言した、と盧武鉉(ノムヒョン)韓国大統領の随行員が明らかにしている。
北朝鮮は制裁継続に反発するかもしれない。しかし、反発の前に北朝鮮が示さなければならないのは、拉致問題打開へ向けた誠意ある対応である。拉致日本人はもういないという発言が本当だとしたら、北朝鮮は証拠をそろえて説明責任を果たさなければならない。
日本側も「制裁のための制裁」という姿勢であってはならない。先月の日朝作業部会で北朝鮮は「拉致は解決済み」との表現を避けるなど、対話に向け微妙な変化を見せ始めている。この芽を大事にして交渉促進を図るべきだ。
制裁は北朝鮮が誠意ある対応を見せるまで粛々と続けるべきだろう。だが、制裁開始時とは北朝鮮をめぐる環境も、制裁の効果も変化している。北朝鮮への対応で日本と他の6カ国協議参加国との距離が目立ち始めている。日朝交渉を進めるうえで、米国や韓国との連携がますます重要になってきている。
毎日新聞 2007年10月10日 0時05分