WWW http://www.iwate-np.co.jp

奈良の救急妊婦死産 母と子の大切な命救え


 妊娠中の女性や家族に気がかりな出来事がまた、起きた。

 奈良県橿原市で8月下旬、妊娠6カ月の女性(38)が夜中にスーパーで買い物中に腹痛を起こし、救急車で搬送されながら、受け入れる病院が見つからないまま救急車内で破水。数分後に起きた救急車の交通事故も重なり、病院には通報から約3時間後にようやく到着したが、胎児の死亡が確認された。

 救急隊が県内や大阪府内の9つの病院に受け入れを要請したが次々に断られ、ようやく受け入れ先が見つかったのは通報から約1時間半後。橿原市から41キロ離れた大阪府高槻市の病院に向かっていた。

 奈良県では昨年8月にも県内の病院で分娩(ぶんべん)中の妊婦が意識不明となったが、約20カ所ほどの病院に転院を断られ、約1週間後に死亡している。

 厚労省は都道府県ごとに、リスクが高い妊産婦や新生児を24時間受け入れる「総合周産期母子医療センター」の整備を目指しているが、同県は未整備。教訓は生かされなかった。

 重要な緊急搬送体制

 本県は東北地方で最も早く、2001年から盛岡市の岩手医大付属病院を総合周産期母子医療センターに指定。24時間体制の母胎・胎児集中治療管理室や新生児集中治療管理室などを備え、重症の妊娠中毒症や切迫早産などリスクの高い妊産婦を全県から受け入れている。情報センターを備え、搬送受け入れなどの相談にも対応する。

 また、地域周産期母子医療センターに位置づける久慈、中央、大船渡の県立3病院を中心に県内に3つの2次医療圏を設定。主に正常の妊婦や分娩を担当する産科や小児科の1次医療機関と連携し、比較的高度な医療を必要とする異常分娩などは2次医療の地域センター、さらにリスクが高い場合などは3次医療となる岩手医大付属病院の総合センターが担当する役割分担をしている。

 医療体制は整備されているとはいえ、広い県土を持つ本県の場合は医療機関まで搬送する時間がかかる。

 全国的な産婦人科医不足の中で、県医療局も県立病院の産科体制を見直し、集約化を進めている。万一の場合の救急搬送体制整備はさらに重要度を増す。

 健診全額公費補助を

 奈良県のケースのもう1つの問題点は、女性にかかりつけ医がいなかった点だ。同県の周産期医療搬送は、妊婦のかかりつけ病院が県内の2病院に連絡し、それぞれが受け入れ先を探す仕組みになっている。

 医師による妊婦健診は、妊娠や出産に伴うリスク管理の重要な部分を担う。周産期医療体制が整えられても健診を受けなければリスク管理ができない。

 一般的に妊婦健診は14、5回受ける必要があり、1回当たり3000−5000円程度の費用がかかる。

 厚労省は今年1月、市町村に対し健診のうち5回程度を公費補助とするよう通知。県内でも一戸町や山田町が従来2−3回だった公費補助をこの4月から5回に拡大した。

 岩泉町は、従来から指定検査の範囲内は6回まで公費負担とし、町内で医師の健診が受けられない妊婦の負担軽減に努めている。

 厚労省の04年の調査では、一時でも「生命に危険がある」と判断される重篤な状態に陥った妊産婦は、実際の死亡者数の70倍以上に上っている。

 少子化対策をいうなら、こうした危険回避のためにも、国は妊婦健診を全額補助するぐらいの決断がほしい。

小笠原裕(2007.9.5)

     論説トップへ戻る

トップへ