スウェーデン王立科学アカデミーは9日、07年のノーベル物理学賞を、仏パリ南大のアルベール・フェール教授(69)と独ユーリヒ固体物理研究所のペーター・グリュンベルク教授(68)に授与すると発表した。授賞理由は「巨大磁気抵抗現象(GMR)の発見」。わずかな磁気の変化によって電気抵抗が大きく変化する現象で、この発見によりパソコンや携帯音楽プレーヤーに搭載されるハードディスクの小型化、大容量化が可能になり、新しいエレクトロニクス分野を開拓した。授賞式は12月10日にストックホルムで開かれ、賞金1000万クローナ(約1億8000万円)が贈られる。
ハードディスクには磁気的に情報が書き込まれており、読み取る際には、磁気ヘッドが電流に変換する。狭い領域に多くの情報を詰め込めば、ハードディスクを小型化できるが、その情報を読み取るには感度の高い磁気ヘッドが必要だ。小さな磁気の変化でも、大きな電気抵抗に変換できる巨大磁気抵抗現象を磁気ヘッドに利用することで、小型化、大容量化が可能になった。
今回受賞した2人は、1988年にそれぞれ独立に、この現象を発見した。グリュンベルク氏は、鉄、クロム、鉄の薄い膜の3層構造が室温で巨大抵抗を示すことを見つけた。フェール氏は鉄とクロムの薄膜を約60層重ねた構造が絶対温度4・2度で約50%も抵抗が変化する現象を発見した。
2人が見つけたこの現象を示す素材はいずれも、原子数個分の薄さで、ナノテクノロジーが最初に実用化された事例。97年には早くも、この現象を利用した磁気ヘッドが実用化され、急速に普及した。2人は今年の日本国際賞を「基礎研究が発信する革新的デバイス」として受賞した。
また、十倉好紀・東京大教授はマンガン酸化物が100万倍もの巨大磁気抵抗を示すことを90年代に発見し、この分野を大きく進展させた。
◇日本、2人の前後の研究では大きくリード
今年のノーベル物理学賞の授賞理由には、多くの日本人研究者の論文が並んだ。その一人、東北大電気通信研究所の大野英男教授(スピンエレクトロニクス)は「日本は磁性や多層膜の研究が盛んで得意分野。2人の業績の前後に当たる研究では大きくリードしていた。日本の貢献なくしては、巨大磁気抵抗現象の発見はなかったと思う。ただ、彼らの独創的な研究は、残念ながら日本では生まれなかった」と悔しそうに語る。
毎日新聞 2007年10月9日 19時27分 (最終更新時間 10月9日 22時03分)