事件!
マイッタ、いや本当にまいってしまった。
こんな事ってありえるのか…
まだ、梅雨まっさかり、近所の紫陽花が満開の頃、
十年来のお客様で子供から老人までを対象にした
学習塾をやっているカワイ先生からの紹介で
若い見習いコックがいるのだが職を面倒みてほしいと
相談された。
ちょうどその頃、弟子のカミもカイユでホールの仕事を
一年きっちりやり遂げたところ。
勿論カミはコックとして十年のキャリアをもち、とりあえずは
どこに出しても恥ずかしくはない実力はつけていた。
そろそろ一緒にキッチンに立って料理の仕事をやらせる時期。
そこで、カミと話あったところ、カイユでその見習いをホールと
して採用しようと決まった。
しかも、その人物は女性である。
ご存知のようにたった六坪という、フレンチレストランと
しては世界最小クラスの店で、しかも畳二枚分もない
キッチンでカミと男同士仕事をするのは、とても嫌だが
弟子思いのシェフとしては、嫌々承諾した。
というか、カミのプロファイリングにのった様だ。
まぁ職場に女性が入るのも、ある意味潤滑剤になる
だろう。
紹介者のカワイ先生というのが、これまたファンキーで
熱血なのだが、私は無条件で信頼をよせている人物。
その人の推薦なのだから私も、無責任に職を紹介するくらいなら
是非カイユで面倒見させていただきます。と言うことになった。
よし!これでカイユも三人体制。少しは楽になるな!
しかし…面接をかねて食事に来た彼女はあまりの
レベルの違いに自信喪失したらしく、申し訳ございません…
との事。
おそらくカミが影でいじめたのだろう。
と言うのはジョークだが、結局何も変わらないカイユ。
その後も何人かの人を面接したが即戦力にはなりえず
結局何も変わらないカイユ。
弟子のカミもそろそろコックの人生で転換期を迎える
年頃に差し掛かっている。今このときを大切に過ごさなければ
料理人としての力量が決まってしまう。
勿論仕込みはカミと二人でやっているが結局は
カミはホール兼コックだ。
そう、カミにとって今料理に専念できる場所が必要である。
私にとっても週三回はメニューを変えてるわけだから
いくらカイユが小さい店だからといって、一人というのは
キツイ。やはりカイユ三人体制をつくらねば…
そんななか、うずら亭の親方が体調を崩して
しばらく静養することになってしまった。
弟子のアリと相談の結果夜の営業は仕方が無くしばらく
やめることにして、ランチだけはやろうと言うことになった。
私とアリで…
結局私は朝っぱらぱらから、うずら亭ランチをやって
きりのよい所でダッシュでカイユの仕込みに追われる
日々が続いた。
体と精神が疲れる日々が一月ほど続いた頃
ふと、考えるとカミにとってはなにも変わらない
状況。
これはマズイ、カミにとって今が大切なとき、
確かにカイユにとってカミの存在は大切だが…
苦渋の判断の結果、カミを最後の仕上げとして
またもや修行に出す事になった。
カミにとってはまたもや辛い日々になるだろうが
必ずプラスになると言うことで、というより
師匠の言葉は絶対なので北の方にすっとんで
行った。
後日北の方のオーベルジュ で働いてる
カミは余裕すら見せていたので、もうすでに
頭角を現したようだ。
まずは良かった…もう、ひとまわり大きくなったら
戻そう。そん時はスーシェフだ。
さてさて、アリと始まったカイユ、うずら亭のランチ
の後スーパーダッシュでカイユに戻り必死に仕込み…
アリはうずら亭の深夜営業がなくなり、念願かなった
カイユという事で、いつに無くハイテンションの日々。
どうやら知人にはソムリエの資格までとると豪語している。
全くたいしたアリである。
そんな激務の中、アリが近所のデパートの食堂に
横綱ラーメンという巨大な物体があるので食べに
行く、いや、挑戦したいといってきた。
せっかくのご招待なので嫌々挑戦!
量よりあまりの質の悪さに私は即ギブ、
完全制覇のアリ!
良かったね、アリ君、願いがかなって、
さぁ早く帰って店の準備しよ、
すみません、シェフ、なんか体がしびれるんですが、
はっ?食あたり?そんなわけないだろ、俺平気だよ、
すみませんシェフ、平気っす。
まぁ、平気だと思うけど気になるからちよっと病院行ってこいよ、
まるで何事もなかったような顔をして、病院から戻ったアリ。
どうだった?平気か?
はい、なんでもないそうです。なんか勘違いだったみたいです。
勘違いって?体のシビレはどうした?
はいっ?体のシビレ?自分そんな事いいました?
はっ??何、お前病院になにしにいったんだよ。
ちよっと熱あったんですかねー。はははー。
はっ?まっまーいーや、早く店あけるぞ。
その日の夜、店の片付けをしている時、アリが
相談したいことがあると、言ってきた。
どうした?ソムリエ試験の事か?
いや、違うんです、実はここの所自転車に乗ってると、
よく車にはねられるんですよ、
はっ!車に!お前平気なの。
はい、この二週間で三回もはねられたんで…
たいした事はないらしいが、脛にはたしかに
痣がいくつかある。特に事件性はないのだが
警察にも言っているらしい。
だから一応魔よけの塩をもってるんですが、
あまり効き目ないみたいで…
なんじゃそりゃ!そんな塩どどどこで、
効き目なんかねーよ、捨てちまえそんな塩。
そうですよね…
そ、そうだこのアリという男、心に病をもっていたんだ…
でもこの何年出てなかったのに。
それから数日後お客様の切れの良いところで早じまい
して焼肉でも食べに行こうということになった。
アリはいつになくハイテンションで焼肉を食べている。
最近はパスタにはまっているらしく色々質問してきた。
料理人同士のよくある会話がつづき、さて、帰るか。
アリ君、明日のうずら亭のランチさっきカイユで仕込んだから
俺が朝、持っていくよ。
いや、シェフ、自分が帰りにうずら亭に持っていきます。
ちよっとランチの在庫確認したいんで。
そう、じゃ頼むよ。
これが最後の会話だった。
翌朝うずら亭に行くとアリの姿は無い。
と、いうより、仕込んだ料理はちゃんと冷蔵庫に入ってる。
そして、在庫と朝買う予定のメモ書きまで置いてある。
アリの荷物も上着も財布さえ置いてある。
あれっ、買い物でも行ったか?財布忘れてるよ、まったく
しょっちゅうこんな事やってんなアリは…
しかし待てど暮らせどアリは来ない。
電話も留守電になってしまう。
結局夕方になっても戻らない、カイユも私一人では出来ないし
しかし、何やってんだ…
もしや…持病の心の病。
九州の田舎から出て単身一人暮らしのアリのアパートへ行った。
偶然となりの住人が出てきて、ここのところアリは家には
帰ってないという。
すぐその足で警察にも行ったが全くもって事件性はないらしい。
事故、宗教、拉致、いろんな事が頭をよぎった。
ただ仕事がいやでバックレならまだ仕方がないが、
あまりに理解できない。いくら心の病があったとしても。
それから毎日昼夜を問わず聞き込み捜査をした。
そして私達のしらないもう一人のアリが出るわでるわ。
あっちゃこっちゃで経歴偽って、問題をおこしていやがった。
そして一、二年周期で完全リセットでドロン。
知人の精神化の先生に聞いたところそういう人は
いるらしい。まさにそれだ。
やられた。
たとえ心の病気をもっていたにしても
周りをまきこんで迷惑かけるのはゆるせない。
しかも時間をかけて人をだますのはありえない。
それが病気だから、といってもゆるされる事ではない。
ありえない。
が、全て含めて今の現状は私が責任とるしかない。
仕方がない、浅はかな私が悪いのであろう。
もう、罪を責める気持ちは無い。仕方がないのだから
願うならば、二度と同じ被害者は出さないでくれよ。
ただ絶対に許せないことがある。
奴は自分の包丁ですら全て置いていった。
初めて奴と会った店のとき、頼まれて
仕方なしに浅草まで包丁を選びに行った。
しかもその包丁は全く手入れをせずボロボロで
あった。
全く私の人生の中で最大に情けない話だ。
はぁーーーーーーーーー
明日からどぼじよ………\(゜ロ\)ココハドコ? (/ロ゜)/アタシハダアレ?