救急隊員が記入する搬送通知書。アルコール臭をチェックする欄も
警察、消防の連携の不十分さが浮き彫りに-。兵庫県内の消防局・本部の半数以上が、交通事故の負傷者搬送時、飲酒運転の疑いがあっても警察に伝えていない実態が十日、分かった。「情報が共有されていたら」。飲酒運転による事故で肉親を失った遺族らは憤りを募らせた。
今年六月、尼崎市内で酒酔い運転のワゴン車が三人を死亡させたひき逃げ、衝突事故。タクシーに乗車していて亡くなった乗客の女性=当時(68)=の長男(43)=大阪府忠岡町=は「お役所仕事だ」と怒りをあらわにした。
危険運転致死罪に問われた男は約一年半前にも飲酒運転とみられる自損事故を起こしていた。だが、現場に駆け付けた警察官は飲酒を疑わず、搬送中、アルコール臭に気付いた救急隊員も警察に連絡しなかった。「消防側は『言わなくても分かる』と思ったのかもしれないが、連絡体制が整っていればその時点で摘発され、母は死なずに済んだかもしれない」と長男。「そもそも事故現場に来た警察官がアルコール臭に気付かないなんて考えられない。取り締まる側も意識を高めてほしい」と訴えた。
交通事故で家族を亡くした遺族らでつくる「TAV交通死被害者の会」(大阪市)事務局の米村幸純(ゆきとし)さん(57)は「事故現場では飲酒の疑いを含め、あらゆる可能性を考えていなければならない」と対応の甘さを指摘。背景に「警察と消防の縦割りの弊害」を挙げた。(広畑千春、山下智寛)